松山の思い出話

松山駅に着いた。
1人で来たのは初めてだ。
不安な気持ちや高まる気持ちを感じながら駅から歩き出す。思っていたより都会。目に入ったビルに書いてある看板にはネットカフェの名前がある。
今日泊まる場所を決めたところでまずは目当ての道後温泉へ向かう。

6月の頭だが結構暑い。歩いてたら平気で汗が額を伝う。嫌な気持ちを楽しみで押し殺して歩き続ける。
松山駅から道後温泉まで約4キロある事はもう少し後で知る。と共に帰りは絶対バスに乗ると心に決めた。

ファーストアクションは松山城の堀が見えてきたあたりの信号で起きる。
大きな荷物を背負った欧米系の外国人が自分の方を見て何やら話しかけてくる。(年齢は60歳前後)

「オヘンロ デスカ??」

かなりカタコトだが聞き取れないことは無い言い草でこう言った。たぶん四国を巡礼してお参りする〝お遍路〟の事だ。

「いえ違います。ただの観光です!」

「オォー!ドウゴオンセンサイコウデシター!」

これも何かの縁と思い何を思ったか自分は積極的に聞いてみた。

「ウェ、ウェア アーユーフロム?」

「モントリオール!カナダ デス!」

ほぉ~と知ってるかのようなリアクションを取って、そしたらもう信号も青に変わる。
さよならの挨拶をしようと思えば、すかさず

「キョウハ ドコニ トマリマスカ?」

ほう、何を聞くかと思えば。
あまり言いたくはないが嘘をつく必要も無いので駅前のネットカフェと答えた。
すると相手もどうやら同じネットカフェに泊まるみたいだ。

「Instagram ヤッテイマスカ?」

交換を迫ってきた。まあ別にこれも断る理由もないので交換した。これが事件の発端でもある。
この場はもう挨拶して別れ、道後温泉に向かって歩いた。

別れて10分くらい経った頃、さっそくインスタのDMにメッセージが来た。
もちろん英語。
何とか解読するに
「今日は会えてよかった。よければまた夜にネットカフェで会いましょう」

へ??

なんでやねんと大阪魂が引っ込んではいれなかった。
よく分からなかったからyeahと返した。
今考えるとこれがよくなかった。

まあ余計なことは考えずとにかく先の長い道後温泉を目指す。
本来観光のお話ならここからがメインなのだが、この話はここからの観光がまったく関係ないので気になる方はまた別のお話で。。

さて時間が進み、温泉も気持ちよく入り終わり伊予柑サイダーも飲んで気持ちいい風が吹く夕方を迎えていた。昔家族で旅行に来た時の記憶を少し振り返りながら観光地を歩く。
お腹が空いたので駅前までのバスが来る時間までコンビニで何かを食べよう。無駄に広いイートインコーナーに1人座ってカップ麺をすする。

バスに乗り駅前に着いた。もう当たりは真っ暗で半袖だと少しひんやりするくらいの温度。
昼との温度差に若干イラつきながらも例のネットカフェに着く。ここであの外国人のことを思い出す。
インスタの名前ではトム。まあまあ太り気味で背も高かった。
まあ、会いましょうってのも挨拶の1つよなと文化の違いを願ってネットカフェのブースに入る。

時間が経っても特に連絡はない。
黙々とヒロアカも読む。

するとやはり来る。

「何番の部屋にいますか」と。

なになに怖い 本当に会うのか
挨拶だけだぞと番号を送る。

すると本当に部屋の前に来た。
日本人用に作られた部屋の入口には似合わないデカさだ。
それだけでも脅威なのに、なんとなんと部屋に入ろうとしている。
1人足伸ばしたらやっとのスペース位しかないのに巨大外国人トムは全然入ってくる。これも多分文化の違い。そして若干膝とか脚がぶつかる感じで何とか座る。何を思ったか故郷の話を長々と話す。
ヒロアカが今いい所なのに!という気持ちしか頭には無く話が入ってこない。
一通り話し終わったら

「ワタシノヘヤニモキテクダサイ」

と言う。一緒やろ。と思いながらまあ見るだけ見てほんまに終わりやぞと思い部屋に向かう。
着いてみたらなんかここだけでかい。自分の部屋の倍くらいのサイズ。何でやろうと思い、じゃあ失礼しますといった所でトムが謎の発言

「ココデネテクダサイ!」

たしかに寝転ぶくらいのスペースはある。
でも意味がわからん。
話を聞くと昔マッサージを営んでいて自分が今日たくさん歩いた分疲れた筋肉を癒してあげると。

「いやいや!大丈夫ですよ!!😅」
必死に断る。帰ろうとしても出口側に巨体のトムが立っていて無理やりに出れない。この辺からもう怖い。
無理やりうつ伏せで寝さされる。
巨人族のトムが下半身辺りに乗って本当にマッサージを始めやがる。
本格派なんか知らんけどちゃんと痛いし。

「ありがとうございます。もう大丈夫ですよ😅」

全然止めない。大量のなんで?が頭の中を埋め尽くす。
すると、

「フクヲヌイデクダサイ!」

肌を直接触ろうとしてくる。もちろん拒んだが無理やり脱がされる。めちゃめちゃ怖い。要求がAV。
頼んでもないマッサージは続く。
すると予想通りマッサージの手は自然と下半身、太ももの付け根あたりに伸びる。
すると更に要求

「パンツヌイデ!」

ここでのパンツがさすがに下着では無いだろうと認識したがズボンの事やとしても怖い。
無理やり脱がされる。怖い。怖い。性犯罪被害者の気持ちが少しわかる気がした。恐怖で助けを呼べないし声も出せない。
ふと気づけばネットカフェの部屋の中でパンイチで上には変態(仮)トムが乗っている。
襲われるのかと心臓がバクバクなっている。
怖い。しかも自分はうつ伏せで何も見えない。

するとトムはふくらはぎを揺らしてきた。
本当にマッサージをしてきたのだ。
特に攻撃的なことはしてこない。
(なんや、めちゃくちゃ本格派のマッサージ師なんか??)
この状況はおかしいけどトムのことを変に疑って悪いなという気持ちも出てきた。
10分くらい本格マッサージは続く。
たしかに気持ちいい。疲れは驚くように取れる。
実際寝そうにもなった。
幸福感で満たされ
(めちゃくちゃ気持ちいこれ)

完全にトムのことを本格マッサージ師として認識し、もうそろそろ終わりの感じが見えてきた時
いきなり野球部の変なノリ(外国人ver.)みたいな声と共に股間をガッシリと触ってきた。
大問題だ。声も行動も。
え!!と声が出て、即座に振り返ってトムの顔を確認した。
巨人変態はまるで冗談やんと言わんばかりの浮かれた顔をしていた。
この行動はさすがに笑えん。
また本格派マッサージ師の建前に?がついた
それどころが変態に急降下だ。

自分はさすがにこれ以上は怖いと思い勇気を出してダッシュで服を着て部屋から出た。
自分の部屋でわざと飲み物をこぼして場所を変えてもらった。
怯えながらトムと同じフロアの部屋で寝ることになった。場所を変えたといえもしたまたま出くわしただけでも怖いから。
案の定ほとんど寝れず朝を迎えた。

眠い目をこすりながらネットカフェを後にした。
5階からエレベーターで下に降りるとなんと変態巨人トムがいた。めちゃくちゃ驚いて多分声が出てた。
フラッシュバックする昨日の思い出。

トムが言う

「ツカレトレマシタカ?
アシハ タクサン モンデアゲテネ」

あの出来事があっての一言目がこれか。
ほんまに本格派マッサージ師の精神なんかと1ミリ脳裏をよぎる。

トムのインスタをそっとブロックして松山を後にした。
その朝はひんやり寒かった。