謎のエロ漫画『第四話「狂宴」』に関する備忘(210924,220904追記)
「狂宴」と呼ばれている成人向け漫画、もとい1枚の画像があります。
皆さんご存知ですよね。
少なくとも15年もの長きに渡って作者は誰か、どこに掲載されたか答えが出ていないどころか、具体的な初出すら不明です。
かつて存在した「まじかるず」「萌え連」といった掲示板サイトでは連日さまざまな作者不明のイラストや漫画が貼られ次々に解決されていましたが、狂宴に関しては誰も分からず、ついに「殿堂入り画像」扱い。別の掲示板などで狂宴を知り質問に来た人は軽くあしらわれ、時には荒らし扱いされました。
あまりに誰もわからないので「見たくもない」「怖い」という人まで現れる始末。
都市伝説に近い扱いとなり、分からないなりに絵柄などから「○○じゃないか」という説は幾つも出るものの、どれも決定打に欠け有耶無耶に消えていく。
今インターネットで調べて追える最古の記録は2007年初めのもので、その時点でもううんざりと言ったような反応があるため初出はそれより数年前と思われますが、具体的な出どころは不明です。
『【この娘誰?】気楽に詳細を聞いてみるスレッド 26』(2007年1月7日~1月14日)では4回も貼られ、「そろそろあきらめたら?マジでみんな知らないんだと思うよw」とレスがあり
『【テンプレ厳守】 この娘 誰? 二次元詳細スレッド 179』にも2007年2月3日に貼られ「>>497もいいかげん長いな」レスされています。
2008年2月、「まじかるず」のマジカル詳細希望板では、押し寄せる質問にストップをかけるため頻繁に貼られる画像を集めた「常連画像一覧」が新設、目を通すことがローカルルールになり、その第1号画像が狂宴でした。
一般的に「2000年代前半からずっと分からない」とされていますが、具体的な年の証言は2005年、2003年、2001年、1999年などとバラバラ。私も半角二次元板などのURLをインターネットアーカイブに片っ端から入れて調べてみましたが、2001年頃の書き込みはおろか2006年以前のものすら確認できませんでした。
※2021年9月24日追記
こちらの記事にコメントを頂き、過去に狂宴の初出を調べていた方からスプレシートの資料を頂きました。私が追えなかった2006年の書き込みや見落としていたものまで非常に詳細に記録されています。この方でも追えた最古の書き込みは2006年10月12日のものでした。また、この時に添付されていたURLから2006年10月当時に貼られていた画像をインターネットアーカイブで見ることができ、当時から陰茎にモザイクが掛かっていた事が確認出来ました。現在流通している画像は「2008~9年頃にブログサイトに転載された際に削除対策としてモザイクがかけられた」という説が流布されており、オリジナル画像は無修正とされていたのですが、話題になり始めた当時からモザイク付きであると確定し嬉しいです。
主な説
・風船クラブ初期作品説
・万利休初期作品説
・ゴブリン初期作品説
・椎名孝則説
・みにおん説
・SUNSON説
・寄生虫説
・鋭利菊説
・少数部数同人誌説
・両口屋是清説
・コミックフラミンゴ掲載説
・COMICねね掲載説
・コミックドルフィン掲載説
SUNSON説(否定)
2014年に異種姦スレッドで浮上した説。
しかし本人がツイッターで否定。
寄生虫説(否定)
2017年6月18日、狂宴に関するスレッドがふたば★ちゃんねる(二次元裏img)に立ち、そこで「裏栗拾いの作者」という情報が出る。今までにない説で、注目されると即座に「キャプテンジークシリーズ・サイドストーリー 救助信号」という具体的なタイトルが明かされる。収録雑誌は白夜書房の漫画ブリッコ1984年8月号増刊・ブリッコDX。この作品の1ページにアオリ文を追加するなど加工したものが『第四話 狂宴』なのだという。髪のハイライトや乳首の描き方など早々に差異が指摘されるも有力説の出現で大いに沸き立つ。当時は該当の号がまんだらけや駿河屋に入荷しており、通信販売で購入可能だった。実際に1人が購入し、到着するまでの数日間、火を絶やさぬようスレッドが立ち続けたが「絶対に違う」といった意見が多数上がり、思い出せない漫画の詳細希望スレになったり、時には会話不能に陥るほど荒れた。
6月24日午前2時、ブリッコDXを購入した住民がスレを立て、類似するページすら無かったことを報告。眉唾と判明。しかしスレッドは嘘の情報を流した者に対してではなく、信じた者に対して「最初から違うで決着してた」「絶対違うって言ったろ」というレスが多数寄せられ再び荒れてしまいました。
2021年9月24日追記
改めて当時のスレ(.htmlファイル)を読み直したところ、発端となったのは「裏栗拾いの作者の作者がふたけっとで出した同人誌」「本編の夢ルートの続き」という書き込みでした。裏栗拾いというのは元々『公園で栗拾い』という連作同人誌のサイドストーリーに当たるスピンオフであり、本編というのは公園で栗拾いを指していると思ったのですが、特に夢に関する話はありませんでした。詳しく調べた所『裏栗拾い6』が主人公が非現実的なシチュエーションの夢を見るというオムニバス形式であると判明し、その内1作がエイリアンのような異星人に愛液を採取されるという類似した設定の漫画でした。この続きという事なのでしょう。しかし裏栗拾い6の発売は2012年8月、シリーズ初出の公園で栗拾いでも2008年12月……この時点で大きな矛盾があります。しかし、スレッドは「本編」の意味が伝わず、ふたけっとの方面から辻褄を合わせに行ってしまい、ふたけっと初開催が2004年である事から辻褄が合うという事になってしまいます。そして突然、ふたけっとと関係の無い1984年発表「キャプテンジークシリーズ・サイドストーリー 救助信号」の情報が書き込まれ、続けざまに「絵自体は同じだけどコラされてる」と情報が書き込まれ、その話題で持ち切りとなってしまいました。
そして掲載誌が到着し眉唾と判明するのですが、最初の報告スレではそれほど荒れず、嘘を流した者に批判が集まっていました。荒れていたのは報告から1週間が経った2017年6月30日午後5時に立ったスレでした。訂正いたします。申し訳有りませんでした。
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万利休説(否定)
最初に有力説とされ、2007年当時でも定説とされていました。中でも「標本少女」という単行本が有力とされていたのですが、万利休はPN変更も含め単行本を40冊以上も出した有名な成人漫画家で、ファンも多く「万利休とは大きく画風が異なる」として説が上がるたびに否定され、全ての単行本を所有する者が該当作品は無いと断言した事もありました。
コミックフラミンゴ掲載説(信憑性薄)
2016年10月、ふたばちゃんねる(二次元裏img)で情報が書き込まれた説。
2000年頃の雑誌でB5判平綴じのしっかりした型からB6ないしA5中綴じになった雑誌で目撃。このサイズを変えた雑誌はコミック フラミンゴ(三和出版発行・1989~2000)と思われる。詳しく調べたところ、当初はB5サイズ(257mm×182mm)だったものが1994年5月号よりA5サイズ(210mm×148mm)に変更されていました。と言って特段信憑性が高まるわけではありません。
COMICねね掲載説(信憑性薄)
序ノ口譲二(現:あずまきよひこ)の作品が載っていた雑誌で目撃。
この雑誌はCOMICねね(松文館発行・1996~1997)であると考えられます。
コミックドルフィン掲載説(信憑性薄)
2000~2002年のコミックドルフィン(司書房・1992~2006)に掲載されていたという説。
上記の3つの「信憑性薄」とした説は広く流通した成人雑誌に掲載された、という点で共通しています。
しかしエロの集合知である「半角二次元」「まじかるず」「萌え連」「ふたば★ちゃんねる」で15年以上貼られ続けているならば誰かしら読者が居るはずです。なのに具体的に情報が出ない、考えにくいです。
特に「コミックフラミンゴ説」は狙いすました嘘に見えます。この情報を書き込んだ人は恐らく本当にフラミンゴを買っており、エロ漫画に対しての造詣がある人だと思われます。判型が変わったのは本当なので、その事実に嘘を乗せることで信憑性を高めています。これはよくやる手法です。
同様に
風船クラブ初期作品説
ゴブリン初期作品説
みにおん説
鋭利菊説
も信憑性が低いと言わざるを得ません。これらの説は作品を確認しましたが、画風や擬音の書き方、表情などから同一人物であると言うほどの関連性は見出せませんでした。また何れにしても一定の知名度がある作家ですので、幾多の掲示板サイトで迷宮入りするとは考えにくいです。
極少部数同人誌説(なんとも言えない)
現在は消滅しましたが、2010年当時「触手系同人」という違法アップロードされた同人誌をネットで拾って掲載するよくあるブログサイトが狂宴に関する考察を掲載、閲覧者に情報を募集していました。この管理人は初めて詳細希望掲示板で狂宴を見た時期を2005~2006年としています。情報募集の結果として「昔コミックマーケットで見た」と言う人物が現れます。その人物によると…
・10~15年前にコミックマーケットに出品されていた作品
・パラパラとサンプルを呼んだだけでサークルは忘れたが、これは1巻
・一緒に行った友達が買ったが、もうその友達とは連絡をとっていない
とのこと。あからさまに眉唾ですが管理人は前向きに捉えていました。
この情報の真偽はともかくとして、イカしたマイナー同人誌の1ページを何の前触れもなく掲示板に貼って「続き早く!」などという反応を伺う、「全部見れるのはオレだけだぜ」と優越感に浸るという悪趣味な遊びは確かに魅力的で、狂宴をそのような意図で詳細希望掲示板に貼った可能性は否定できません。しかしながら、この説を否定するのは途方も無い悪魔の証明であり、何の進展にもなっていません。
両口屋是清説(信憑性 中)
サークル「サメマロ党」の一員である両口屋是清の作という説。絵のタッチは中々似ているが、一歩踏み切れない印象。サメマロ党は「ゼンマイタマリ漬け(1990年8月)」というふしぎの海のナディアの二次創作同人誌にて単発作品にもかかわらず『第4回 万能戦艦ノーチラス号』というタイトルを冠した作品を発表しています。両口屋是清は個人サークルとして「両口屋」も出展しており、そちらの極小部数の同人誌で展開していた可能性も否定できません。なお、「両口屋」の同人誌は流通が非常に少なく駿河屋には未登録で1冊も入手できませんでした。ヤフオクの出品は2017年10月に1件『SENNARI(1991年)』の1部のみ確認。
椎名孝則説(詳細不明)
「椎名孝則」という作者ではないかという説。しかしこのペンネーム?が一切検索に引っかからず保留中。誤字がそのまま広まってしまったのか?日曜研究社という本に乗っていた昔のエロ漫画家一覧で確認するも類似したペンネームは見当たらず。
以上が流布されていた説です。
そしてもう一つ、2017年以降まことしやかに囁かれていた説があり、これが最有力説です。
狂宴フェイク説
皆さんお手元の狂宴の画像を御覧ください。
上に大コマ、下にアオリ文が書かれた横長のコマが配置されています。
その2つのコマを区切る2本の枠線に注目。全く曲がっていません。
向かって右側には単行本程度の厚さがある本をグンと開き、そのままデジカメないしスキャナーで撮影した時に出来る影がついています。この状態の本を横から見るとカモメの様な形になっているので、文字や枠線は上向きに歪みます。それが無い。ペイントでも何でも良いので、直線ツールで2本の線をなぞると全く変形が無いのが分かります。また、これだけ強い影がかかると文字が太字のようにボヤけるものですが、それも無い。
これは2017年、ふたばで「寄生虫説」が出た際に否定派からよく言われるようになった説です。
この説が正しいとすると、架空の漫画を1ページだけ描き、それに影や光のテクスチャーを重ね撮影した様な風に合成、どこかしらの掲示板に投下し混乱させた…という事になります。
2000年代中頃に愉快犯がここまで手の込んだ、しかも触手×ふたなり×産卵といった先進的でニッチなシチュエーションの作品でイタズラをするのか… 全く引っかからないわけでもないのですが、15年以上誰も分からないという点も加味してこれが最有力、答えではないかと思います。
仮にフェイクで決着しても、もう一つ大きな謎があります。作者は誰か。これだけ1ページで多くの人を引きつける魅力がある作品、名のある作家の仕事の可能性が高いです。信憑性が低い説として前述した風船クラブ・ゴブリン・みにおんといった説も、商業誌で掲載された可能性が0に近いというだけで、遊びで狂宴の画像を作った、そして掲示板に放流したという可能性も否定できません。
私は90年代作品を色々と読んで、類似した作家を探してみました。をそして1人見つけました。
PONTAです。
1988年活動開始、1990年から頻繁にレモンピープル(あまとりあ社)で作品が掲載され、単行本を2冊発売。しかし1991年を堺に活動が見られなくなり、別名義で一般紙に転向したのか筆を置いたのか不明。内山亜紀の影響を感じ比較的よくみる画風だがある点が気になった。「ぶっとびレモン白書」「レモン・クリスタル」の2冊はあとがきや日常エピソードの記述がゼロで、人物像が全くつかめない。1992年に「地球システム」という同人誌に参加していることが駿河屋のデータから分かり運良く入手出来たが、PONTAは裏方として参加という形で一切情報は無く、同一人物であるかも分からなかった。
ぶっとびレモン白書は凄い漫画です。最初に載っている作品は「2015年 冬―― 私は死んだ」と積った雪が血に濡れたカラーページから物語が始まり、農家の家庭に生まれた主人公はつつましくも幸せに暮らしていたが、大不作により家計が傾き母は心労で他界、父も病床に伏した。一人娘の自分だけで家計を支える事となり「女恥蜜」という栄養ドリンクの工場で働くことになる。しかしその工場は女性を拘束し、機械で愛液を採取、愛液を10%添加した栄養ドリンクを製造している工場だった……。
近年の漫画でも工場に出稼ぎに行ってチョメチョメという似た設定の漫画は多いですが、だいぶぶっ飛んでいます。1ページ目で主人公死んじゃってるし。びっくりしちゃった。
この漫画のあるコマが特に目を引きました。
これは女子工員が機械で愛液を採取される部屋に主人公が始めて足を踏み入れた大コマの一部ですが、顔の雰囲気がかなり似ています。色々と昔の漫画を読みましたが、このトロ顔の描き方をする作家は珍しいです。もっとも擬音の「あ」の書き方や乳首の描き方など、違う点はいくつもありますが、今まで見た漫画の中で最も似ていました。第三者がPONTA作品の1コマにコラージュした、または元に絵を描いたという説も浮かびましたが、狂宴と構図が一致するコマは存在しませんでした。
PONTAは何者なのか、1992年を堺にどこへ行ったのか…。この尖った作風は狂宴に通ずる気もします。しかしこれ以上PONTAを追うことは出来ませんでした。結局のところ、ずらずらと書きましたがトータル何も進展していません。謎は深まるばかり…
2021年9月24日追記
この記事のハートがやたら増えてると思って調べたらふたばに貼られていました。そこでPONTA説が若干支持され、更にビッグ・バン(久保書店)という雑誌には掲載作家陣のリレー漫画企画が存在し、PONTAが執筆した19号にそれがあるかもしれないという情報も書き込まれ、実際に買った方も居たのですがリレー企画自体存在しなかったそうです。私もビッグ・バンの存在は知っていたのですが、掲載作品が単行本に収録されていると分かったのでスルーしていました(厳密には狂宴を熱心に調べていた2020年秋には主に情報源としていたMANGA-DBというサイトにビッグ・バンの情報は無く、noteのこの記事に起こした頃に情報が追加されており知りました)。
今回頂いたスプレシートによる情報でどうやら初出が2006年付近、少なくとも2000年代初頭ではないと分かったことは非常に大きく、私はこれからも昔のイラストサイトをインターネットアーカイブで見たり昔の漫画雑誌を見てPONTAより更に似た作家を探しますが、1990~2000年ではなく2000年以降を中心に探そうと思います。なにか良い情報があればまた追記します…
2022年9月4日追記
YoutubeのTheつぶろさんで狂宴が取り上げられ、めっちゃハートが増えまして。チャンネル登録しているのでビックリです。投げやりが多い他の都市伝説Youtuberと一線を画していて大好きです。
ところで記事を公開してから1年以上経ちますが、こちらは何も進展していません。数年前は趣味と狂宴解決へのヒント探しを兼ねて昔のエロ漫画雑誌を70~80冊買ったり、一日中インターネットアーカイブを掻き回したりしてましたが古本購入は場所をとるわ重いわで億劫になって距離を置いてしまいました… もうだいぶ裁断してデータに起こしてしまいました インターネットアーカイブ漁りもサッパリです、すみません