【エンジニア向け】 Gemini 使い分けガイド
こんにちは、Google の AI「Gemini(ジェミニ)」の公式 note 編集部です。
今回は、 Gemini の企業での活用にスポットを当てて、エンジニアの皆さまへ Gemini 活用法を紹介します。
開発の現場でも、生成 AI の活用が選択肢に挙げられるようになりました。急速な進化を続ける生成 AI 時代において「生成 AI を活用したシステムを開発したいが、具体的な使い方が分からない」「他の生成 AI は使ったことがあるけど、Gemini はどう違うのだろう」と思われる方も多いのではないでしょうか。
そのような疑問にお答えする端緒として、先日、PIVOT の「&Talk」という番組に、Google Cloud 社員・中井悦司が出演し、 3 つの Gemini の活用方法をお伝えしました。一般ユーザー向けには「Gemini アプリ」、ビジネス ユーザー向けには 「Gemini for Google Workspace」、そしてエンジニア向けの 「VertexAI の Gemini API」です。
IT を専門としない方は Gemini アプリを便利に使いこなして、日々の生活を良くしていく。ビジネス ユーザーの方は Gemini for Google Workspace を使って、日々のビジネスを効率化していく。そして、IT の専門家 IT エンジニアの方々は、 Google Cloud の Vertex AI の Gemini の頭脳そのものをどんどん使いこなして、新しいサービスやシステムを作っていく。そんな未来をお伝えしました。
本記事では、エンジニアの皆さまに もっと Gemini を知ってもらうために、開発のための Gemini の活用方法をさらに深く掘り下げていきます。スキルレベルや開発環境に合わせた、Gemini の始め方を見つけてみてください。
開発への活用が増えている Gemini、現場からの反応は?
―PIVOT の番組で、「Gemini を IT エンジニアに使っていって欲しい」と締めていましたが、Gemini に対して、エンジニアからはどのような反応がありますか?
生成 AI に触れたことがない方には、まずは Gemini アプリを試してみることをおすすめしているのですが、Gemini アプリはチャット形式に限定されており、それが Gemini のすべてだと思われがちです。そのため「チャット型の生成 AI で何ができるか」というアイデアを懸命に探っているケースが多いのです。
しかし Gemini の真価は、「既存のアプリケーションやサービスにその頭脳を組み込めること」にあります。生成 AI で何か新しいものを作るというだけではなくすでに開発したアプリやサービスをより魅力的にするために Gemini を活用する、そんな発想の広がりを期待しています。
―すでに Gemini をアプリケーションに組み込んで上手く活用されているエンジニアもいますよね?
Gemini を実際に自社のアプリケーションに組み込んで使っているエンジニアの皆さんは、Gemini が得意としている領域や苦手としている領域を正しく理解されています。同時に、自社のアプリケーションがビジネス上で果たす役割も理解されていて、この「生成 AI テクノロジー」と「自社ビジネス」 2 つの理解があってこそ、最適な組み合わせが見えてくると考えています。
特に自社サービスを運営する企業では、エンジニアがサービスの背景まで理解していることが多く、Gemini の効果的な活用方法を見出しやすい傾向にあります。生成 AI 特有の予期せぬ出力(ハルシネーション)についても、「これがあるから使えない」という否定的な判断ではなく、「この使い方なら許容できる」という建設的な視点で捉えられています。生成 AI に限らず、あらゆる技術には固有の制約があるものです。ビジネスゴールを見据えて、最適な使い方を見出す力をつける事が大切です。
―Gemini を使う際に、エンジニアがビジネスサイドに取るべきコミュニケーションは、どのような形が望ましいのでしょうか?
エンジニアの目線においては、生成 AI の活用で広がる可能性に対して夢を膨らませすぎるよりも、ビジネスにおいて本質的に重要なものが何かを軸に、シンプルなプロトタイプを素早く作り、ビジネスサイドにまずは見せることを意識すると良いと思います。
具体的な実装例があることで、ビジネスサイドも開発内容のイメージを掴みやすくなり、より方向性の定まった議論が可能になります。
Gemini 活用法 3 パターン: 開発環境ごとの適した使い方は?
―Gemini の活用を開発者の視点で考える際に、最適なソリューションを選ぶ判断基準はどのようになりますか?
Gemini の活用方法は、大きく 3 つのパターンに分類できます。
まず、エンドユーザーがすぐに使えるようにアプリケーション化されている Geminiアプリ。次に、Google Workspace に Gemini が組み込まれた Gemini for Google Workspace、そしてエンジニア向けの Gemini API です。
このうちエンジニアの皆さんに注目いただきたいのが、Gemini API です。これを利用すると、 Gemini アプリや Gemini for Google Workspace の裏側で動いている Gemini の頭脳部分を切り出し、さまざまなアプリケーションに組み込むことができます。PIVOT の「&Talk」では、「Vertex AI の Gemini API」として紹介しましたが、Vertex AI の他に、Google AI Studio から使用することもできます。
―Google AI Studio と Vertex AI のどちらを使えば良いのでしょうか?
すでに Google Cloud を利用しているエンジニアであれば、その環境で Vertex AI の Gemini API を活用するのがベストな選択となります。Google Cloud のさまざまなマネージドサービスと Gemini API を組み合わせて、迅速にシステム開発を進めることができます。一方、Google Cloud 環境がない場合や、まずは Gemini API だけを試してみたい場合は、Google AI Studio を使うこともできます。
Google AI Studio には無料版と有料版があり、無料版では使用できるリソースに制限があったり、また、企業のセキュリティ要件を踏まえた際に、ビジネス活用には向いていないケースがあります。一方、有料版ではリソース不足によるエラーが軽減され、さらに利用者のデータを Google 側でのモデル学習に使用しないことが明記されているので、企業レベルでの開発や本格的なビジネス活用を見据えた利用に向いていると言えるでしょう。
―Google AI Studio に比べて、Vertex AI は、エンジニアにとってどんな良い点があるのでしょうか?
Google AI Studio と Vertex AI で提供される Gemini API は、基本的に同じ機能を持っています。ただし、Vertex AI の Gemini API は Google Cloud 環境に組み込まれているため、他の Google Cloud の機能との連携が非常にスムーズです。
エンジニアの最終的なゴールは、自社のアプリケーションに Gemini API を組み込むことですが、そのためにはネットワークやデータベースなど、さまざまなパーツとの連携が必要です。Vertex AI では Google Cloud 環境内で完結するため、これらの連携を自動化する仕組みが整っており、効率的な開発が可能になっています。企業レベルでの利用を前提としたセキュリティや SLA の設定も Google Cloud を利用するメリットと言えるでしょう。
―エンジニアに求められる「プロトタイプを作る」のに、おすすめな環境はどれになりますか?
Google Cloud で日常的に開発をしているエンジニアの場合、必要な開発リソースが揃っている Google Cloud 環境での開発がスムーズです。結果として、ビジネスサイドへのデモンストレーションもスピーディに行えます。Gemini API だけを使用する場合は、Google AI Studio が無料で利用しやすい選択肢となりますが、リソースの使用量などに一定の制限があることも覚えておく必要があります。
―直近の動きとして、OpenAI のライブラリから Gemini を呼び出せるようになったことが挙げられるかと思いますが、これはエンジニアをはじめとする開発現場にどのような変化をもたらすでしょうか?
現在、Gemini のような大規模言語モデル(LLM)は数多く存在し、それぞれに特徴があります。実際のアプリケーションとの相性もさまざまで、期待通りの動作をするかは実際に試してみないと分かりません。
OpenAI の製品で開発を進めているものの、うまくいかないケースでバックエンドのモデルを Gemini に切り替えることで解決できる場合も少なくありません。これまでは、そのような切り替えにはアプリケーションの改修が必要でしたが、OpenAI のライブラリから直接 Gemini を呼び出せるようになったことで、より手軽に切り替えができるようになりました。
これにより、エンジニアの皆さんが Gemini の性能を気軽に試せる環境が整い、より柔軟な開発が可能になっています。
Gemini を利用するエンジニアの注意点
―Gemini を開発で使いこなすために、エンジニアが気を付けるべき点はありますか?
Gemini を使いこなすポイントは、何と言ってもプロンプトの書き方にあります。インターネット上では「LLM には呪文のような特殊なプロンプトが存在する」といった情報もあるようですが、Gemini の場合は、そのような特殊なテクニックは必要ありません。
「何をして欲しいのか」が明確に伝わるようにプロンプトを書けば、Gemini は期待通りに動いてくれます。期待していた結果と違うものが返ってきたときは、「やっぱり Gemini じゃダメだな」と諦めるのではなく、まずは自分の指示が曖昧だったのではないか?と振り返ってみてください。プログラミングと同様に、期待する結果を得るためには、やって欲しいことを論理的に整理して伝える必要があります。「プログラムは思った通りには動かない。書いた通りに動く」という言葉は、プロンプトにも当てはまります。
もちろん、このような論理的な指示の書き方には経験が必要です。プロンプトエンジニアリングのスキルは、実践を重ねることで着実に向上していきます。
おわりに
本記事では、エンジニアの皆さんに向けて Gemini の活用方法を解説しました。無料で手軽に試せる Google AI Studio から、本格的な開発環境である Vertex AI まで、それぞれの特徴や使い分けのポイントをお伝えしました。
Gemini は、既存のアプリケーションに新しい知性を組み込み、ビジネスやサービスの価値を高められるツールです。開発環境や目的に応じた最適な方法で、ぜひ Gemini を活用してみてください。
次回は、より実践的な内容として、Vertex AI や Google AI Studio の具体的な導入手順について解説します。また、Gemini の実力を最大限に引き出すための効果的なプロンプトテクニックもご紹介します。