愛聴盤(6)ムーティのモツレク
結論。リッカルド・ムーティが1987年に録音したモーツァルトのレクイエムは名演である。
声楽陣のうち、ソリストは実力者揃い。中でパトリシア・パーチェが印象的だ。線が細いが、ヴィブラートが少なく、極めて美しい。しかも清楚な音色でこうした宗教音楽に向いている。
そして、なんと言っても合唱団の素晴らしさを称えずにはいられない。スウェーデン放送合唱団とストックホルム室内合唱団とのことだが、合唱音楽の名匠エリック・エリクソンが選び抜いたメンバーであろう。アマチュア合唱団と圧倒的な実力差を見せつけてくれる。北欧の合唱団は強く張りのある声と優れたアンサンブルを併せ持っている。例えば、「怒りの日」では、フォルテシモでも叫び声にならず、きちんと歌になっている。実力があるため余裕たっぷり。「涙の日」は弱音がとても難しいのだが、自在にコントロールできるテクニックを持ったメンバーが揃っているようだ。
カラヤン時代末期のベルリン・フィルはここでも輝かしい音色、パワー感で優れた音楽を奏でる。安心して音楽に浸れるこの感覚。さすがはベルリンフィルだなと、あらためて感心してしまう。自分たちの音楽を奏でる力を持ちながら、指揮者の要求にピタリと合わせる能力。これこそプロフェッショナルというものだ。
ムーティの指揮は、全体的に余裕をもたせたもので、歌い手や奏者を急かさない。音楽の流れが極めて自然。カラヤンは時として型で嵌めたような音楽にしがちだが、ムーティにはそれがない。引き締めすぎず、かと言って弛緩しない。絶妙なバランスを保っている。ソリストとオーケストラ、合唱団とオーケストラのバランスはとても良いのだ。この辺りはオペラ指揮者としての経験値が大きいのかもしれない(カラヤンもオペラを数多く指揮しているけれど)。
モーツァルトのレクイエムを初めて聴こうとする人にも安心して推薦できる名盤である。