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愛聴盤(7)ジャン・ユボーのフォーレ

フランスの大家ガブリエル・フォーレの作品の中では、「レクイエム 」が最も有名でしょう。高校生の頃、初めてこの曲を聴いた時、ドイツ・オーストリア系の作曲家たちにはない、柔らかく、しなやかな音楽にすっかり魅了され、魂が震える程の感動を覚えたものです。

この作曲家のことが深く知りたくなり、大学生のころ買ったのが、ジャン・ユボーが中心となって仏ERATOに録画された室内楽作品。その中からピアノ四重奏曲第1番、第2番とピアノ五重奏曲第1番、第2番の二枚のCDを買いました。これらの楽曲は、レクイエムほど分かりやすい曲ではありません。どちらといえば「渋い」音楽です。しかし、これらの曲にすっかり魅了されたまま、30年以上経ちました。

フランスの作曲家の話をする時、よく「エスプリ」という言葉が使われますが、個人的に、この言葉がよく理解できていません。文学や美術の分野に詳しくないし、音楽に限定しても、私はラヴェルやドビュッシーの良き理解者とは言えません。サティも好みではありません。合唱をやっていたので、プーランクのCDは数枚だけ所有していません。メシアンは「ごめんなさい」です。フォーレの音楽はフランスの「エスプリ」と言えるのかもわかりません。

私はフランス音楽が好きなのではなく、シンプルに、フォーレの音楽を愛しているのです。

フォーレの室内楽曲の素晴らしさを、的確に表現するのは、私の文章力では困難です。一つ言えるのは、フォーレの作品の中でも、古典的な様式の標題性を持たない楽曲に特に惹かれていることです。

例えば、ピアノ五重奏曲第1番。第一楽章は、ピアノのアルペジオに迎えられるように、控えめに第一主題が提示されてたり、次の主題がユニゾンではっきりと示されるあたりにフォーレらしさはあります。作曲手法自体は保守的なものと言えるでしょう。転調を繰り返しながらも、基になる調性から逸脱することはありません。

個人的にフォーレの最高傑作と考えているピアノ五重奏曲第2番。第三楽章は弦楽器だけで静かに始まり、ベートーヴェンの後期弦楽四重奏曲のように深淵です。ところが、ピアノが入ると、スゥーっとフォーレの世界に変わっていく。

室内楽作品のような抽象的世界にこそ、作曲家フォーレの真骨頂があります。彼は劇音楽などの管弦楽作品も書きましたが、音楽院の院長職が忙しく、オーケストレーションは弟子に任せたりしたようです。私にはこれらの管弦楽曲は、室内楽曲ほど魅力は感じません。

フォーレを愛する私のような者は、クラシックファンの中でも少数派でしょう。フォーレはピアノ曲も多く書いていますが、ピアノを弾く人にとっては、ラヴェルやドビュッシーの方が身近に感じる人が多いと思います。

フォーレの室内楽の録音は少ないです。70年代にEMIに録音されたジャン=フィリップ・コラール等による一連の作品群がありますが、何種類か書い直したCD全てが音質が悪すぎて手放しました。新しいところだと、ルノーとゴーティエのカプソン兄弟、エペーヌSQ等による録音があります。瑞々しく、意欲的な演奏で実に魅力的です。当然音質は良好です。

ジャン・ユボー、ヴィア・ノーヴァSQ、ガロワ・モンブラン、アンドレ・ナヴァラ等による抑制の効いた鄙びた魅力は、他に代え難いものです。1960年代の録音は、現在のものに比べて解像度は低く、古めかしく聴こえます。それでも、やはりこの演奏を聴きたくなってしまうのです。

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