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一期一会の出会いの場「彦根城屋形船」

日本のお城観光と言えば、お堀を巡る風情たっぷりな屋形船。日本人だけでなく、海外の観光客にもとても人気のアクティビティです。
 
彦根城屋形船は、ひこにゃんと同じ年に生まれました。2007年の国宝・彦根城築城400年祭を機に市民の事業としてスタートし、NPO法人・小江戸彦根が運営しています。

旅行会社が企画するバスツアーなどでは、お城観光には必ず屋形船観光がセットでついているほど、屋形船観光は人気で風情溢れる体験です。
 
今では、全国至るところで、屋形船を楽しむことができますが、彦根城屋形船が、全国の屋形船観光のロールモデルとなっているのをご存知でしょうか?
 
つまり、彦根城屋形船の成功をヒントに、全国の屋形船観光が増えたのです。

彦根城築城400年祭から始まった

彦根城屋形船の復元というアイデアは、彦根城築城400年祭に関わる事業として、彦根市が市民提案事業を募集したことがきっかけに生まれました。
 
 
NPO法人・小江戸彦根の副理事長・小島誠司さんは、学生時代、ゴムボートで川遊びをしていたそうです。
 
そのときの楽しい記憶もあって、単なるイベントとしての企画ではなく、持続可能なビジネスを意識した観光事業として、屋形船観光という観光コンテンツを思いついたのです。
 
小島さんは、綿密に事業計画を立てて彦根市に提案し、800件ほどの公募の中から、見事に屋形船の観光事業の提案が選ばれました。

彦根城の内堀は重要文化財に指定されています。そのため、文化庁から、彦根城で実際に使われていた屋形船の復元を求められました。
 
そこで、彦根藩主・井伊家の専用船を、江戸時代の絵図面(彦根城博物館所蔵)や、幕末の古写真(横浜開港資料館所蔵)を基に復元することになりました。また、当時の運航記録(彦根城博物館所蔵)も調べたそうです。

NPO法人の立ち上げ

屋形船の復元には、一部、彦根市の補助金をあてることができましたが、かなりの資金が必要でした。そのため、この事業に賛同してくれる仲間が必要でした。
 
理事長に棚橋勝道さん、副理事長に岡村博之さんと和田一繁さん、そして、中川陽介さんが加わり、小島さんを合わせた役員5名体制でNPO法人・小江戸彦根の活動がスタートしました。

初めは、屋形船一艘で運航を開始しました。しかし、予想を超えて人気が殺到し、乗船を断らなければならない状況になってしまいました。そこで、屋形船を一艘から二艘に増やすことになりました。
 
そして、彦根城築城400年祭の期間中、乗船者数は、計1万2千人に上り、事業目標を超える人気になったのです。

滋賀県外では、島根県の松江城の堀川巡りが有名です。松江城の屋形船は公共事業として運営されているため、屋形船40艘という大規模な事業を展開されています。
 
公共事業と単純に比較することはできませんが、彦根城屋形船の乗船者は、これまで15年間で累計20万人だそうです。地域経済への波及効果はかなり大きいと推測されます。
 
そして、彦根城屋形船の成功の噂が全国に広まり、これ以降、全国で屋形船観光が増えていったのです。

屋形船の歴史

屋形船の原型は、万葉集で詠まれている「舟遊び」ではないかと言われています。
 
平安時代には、貴族は船で宴会をしたり、景色を眺めたりして、現代の屋形船のような楽しみ方をしていました。
 
お屋敷に住む貴族のことを「お館様」と呼んでいましたが、「お館様が乗る船」が転じて「屋形船」と呼ばれるようになったとも言われています。

江戸時代には、屋形船は粋な遊びとして発展しました。屋形船は日本の文化がぎゅーっと凝縮され、現代においても、粋でちょっぴり贅沢な遊びなのです。
 
このような歴史があるからでしょうか?現代においても、屋形船は人気のアクティビティの一つとなっているのです。

いつでも誰でも楽しめる彦根城

彦根城築城400年祭が終わった後、小島さんは、「事業を止めよう」と思ったこともありました。
 
しかし、あるとき、老人ホームで屋形船観光に来られた方々が手を合わせてお礼を言われ、とても感謝されたことがあったそうです。
 
また、彦根城は石段や勾配など、足元が悪いところがあります。そのため、目が不自由な人は彦根城に登ることが困難なのですが、屋形船で彦根城の風情を感じることができ、「とても気持ちがよかった」と喜んでくださったそうです。

(写真提供:NPO法人・小江戸彦根)

親・子・孫の三世代の家族も、屋形船観光は無理なく楽しむことができます。そして、お天気が悪い日であっても、屋形船には屋根がついているので、屋形船から彦根城観光を楽しむことができます。
 
つまり、屋形船は、いつでも、誰でも、彦根城観光を楽しむことができるのです。

小島さんご自身も船舶免許を取られ、船頭として屋形船を操縦したり、ガイドとして乗船したりすることもあるそうです。
 
そして、観光客と触れ合ったり、屋形船観光を喜んで下さるのを見ると、「喜んでくださる人がいる限り、この事業は止められないな」と感じるそうです。
 
 
現在、屋形船は四艘(一番船:掃部丸、二番船:中将丸、三番船:万千代丸、四番船:柳王丸)に増え、特に春の桜の時期、秋の紅葉の時期は、四隻フル稼働しても回らないほど大人気です。

(写真提供:NPO法人・小江戸彦根)

彦根城屋形船の魅力

改めて、彦根城屋形船の魅力とはなんでしょうか?
 
彦根藩主・井伊家は、徳川家康から琵琶湖の支配を任され、160隻以上の軍船の備えがあったと言われています。江戸時代当時の藩主の専用船を再現した屋形船に乗り、かつて藩主が眺めた視点で、お堀をぐるっと巡り、彦根城の石垣や米倉水門などを楽しむのはいかがでしょうか?

また、屋形船に乗ると目線がぐっと下がり、お堀周りを散策するだけでは味わえない、目の前に広がる解放感と心地よい清涼感を味わえます。
 
そして、これまでとは違う角度から見る新しい彦根城の魅力、情緒あふれる四季折々の景色を楽しむことを通して、人生においても、新たな角度での発見があるかもしれません。

「彦根城屋形船は、彦根城観光のウィークポイントをカバーし、地域経済波及効果を発揮し、そして、彦根城の新しい魅力を発信出来る」と小島さんは話します。
 
彦根城観光と屋形船観光を組み合わせることで、観光客の彦根での滞在時間が増えます。そして、宿泊や食事の機会に繋がり、地域活性化への貢献が期待できるのです。
 
今や、屋形船観光は、彦根城観光に無くてはならないアクティビティの一つなのです。

(写真提供:NPO法人・小江戸彦根)

彦根の新しい魅力

彦根城屋形船は、彦根城築城400年祭をきっかけに、国宝彦根城と重要文化財の内堀という彦根の歴史と文化を活用した新しい観光コンテンツとして生まれました。
 
彦根城屋形船のガイドには、舟唄を歌う人、葦笛を吹く人、戦国時代の歴史の話に詳しい人など、個性的で魅力的な彦根を愛するガイドがたくさんおられます。
 
NPO法人・小江戸彦根では、屋形船の安全確保と、屋形船に関わる歴史を話す以外のトークの内容は、ガイドさんに任せているそうです。
 
決められたマニュアルを超えた、愛情あふれるトーク。これこそが、屋形船観光の魅力なのかもしれません。

一期一会の出会いの場

彦根藩第13代藩主・井伊直弼公が「茶湯一会集」の中で記しているように、茶会は一生に一度の出会いの場、「一期一会」の場であるから、亭主は真心を尽くして最高のおもてなしを心掛けます。
 
これと同様に、屋形船のガイドが作る世界観の中で、私たちは彦根城の季節や歴史を感じ、今、このときをより深く味わい、楽しむことができるのではないでしょうか?
 
そして、屋形船に乗るこの機会は、一生に一度の彦根城との出会いの場とも言えるのかもしれません。

私たちが彦根城を身近に感じる機会を増やし、彦根の歴史と文化、そして彦根の魅力を新たな角度から発信する彦根城屋形船。
 
リアルからオンラインが主流となりつつある現代において、リアルな情報交換、交流の場として、これからも彦根の文化に寄与し、情報を発信し続けてほしいと願います。

(写真・文 若林三都子)

彦根城屋形船
https://yakatabune.info
ご予約・お問合せ 080-1461-4123

NPO法人・小江戸彦根
滋賀県彦根市金亀町7番5号
ヴォーリズ建築・旧彦根高等商業学校外国人教師住宅
https://www.kyodoshiga.jp/index.php?/member/detail/1254