パリ ポンピドゥーセンターが彦根にやってきた?!現代アートを彦根ぶらり散策で
びわこビエンナーレとは
2年に一度、近江八幡市で開催される芸術祭である。
国内外の現代アーチストの作品が集結しているため、
「フランスパリの近現代美術作品で有名な
ポンピドゥーセンターが滋賀にきたようなもの、
エアチケットを買わずとも近所で鑑賞できるのよ」と、
私の友人なんかは喜んで隔年鑑賞してきたというびわこビエンナーレ。
それがなんと今年は彦根市も共同参加ということで、これは見過ごすわけにはいかない。
国内外でご活躍されている素晴らしい芸術家さんの作品が
彦根をぶらりと歩けば鑑賞できる。
「無駄なものほど面白い」
毛布アートはダサかわいさが原点
例えば、毛布アートを確立した江頭誠さんは、
彦根銀座商店街の裏にある元銭湯の山の湯さんにて、
ご自身の娘さんが入りたくなるようなお風呂をイメージし、
その思いの丈を思うままに描いている。
『過去に友人から「ダサい」と言われ恥ずかしかった』
というバラ模様の毛布という媒体で、トイレや霊柩車など
大型の立体作品などを数多く産み出した。
そしてその作品をつくるだけでなく、空間全体を体感できることにこだわった。
今回の作品も映画のワンシーンに
自分が出演したかのような錯覚を覚えるような体感型空間アートだ。
全ては計算済み
サイエンスティックな脳で産み出されるアート
そして、映画のセットに踏み入れた
余韻冷めやらぬまま隣の男湯に赴くと、
今度は何やら未来と過去が入り混じった
テルマエロマエの世界にワープしたよう。
自然現象をも作品の一部に取り入れてしまう
田中誠人さんならではの着眼点を生かし、
「銭湯の湯垢」までもが見事に作品の中で生きている。
銭湯に船を浮かべるという
歴史的にも意味のある試みは、
山の湯のためだけにつくられた新作である。
サイエンスティックに計算し尽くされた
未来的な工学装置を得意とし
六本木ヒルズで輝く作品をも手がける彼の神の手は、
今新たに彦根「山の湯」に命を吹き込んだ。
逆説するカオスをキュートに表現
物事に潜む逆説性を確信する彫刻家
三木サチコさんが創り出した足軽屋敷では、
二分化した人類が、現代社会への風刺になっている
ウェルズのタイムマシンという小説を思い出す。
平和で牧歌的な穏やかな暮らしと、
殺伐とした救いようのない世界で
否が応でも生まれる攻撃的なエネルギーが見事に混在している。
そしてそれはモダンで愛らしいフィギュアで表現される不思議な世界だ。
ひっそりと
堂々とひしめき立つ野外インスタレーション
石川雷太さんの作品は彦根城西の丸にある。
彼のインスタレーションはパワフルで急進的なものが多いのだが、
こちらは彦根城のイメージと自然との調和が損なわれないように、
柔らかくバランスよく融合されている。
景観を損なわぬようひっそりと
しかし堂々と。
それでもスパイスがあるので言葉と共に心に刻まれる。
彦根城との芸術的コラボで右に出るものはない
そして、彦根城とのコラボでいえば、
南野馨さんの作品が玄宮園からの構図としてカメラに写り込んだ瞬間、
彦根城との芸術コラボを
これ以上に成し遂げるものが他にあるのだろうか、
とさえ、感じてしまった。
浮雲のようなこの時代だからこそ楽しんで生きる
アートを目にした時のなんとも言葉にしがたい気持ちは、
田中太賀志さん 宇野裕美さんらによって
「生命力」をテーマにつくられたインスタレーションで顕著である。
袋町の一角でなんとも儚げにも強く生き抜く、
生命力が凛として浮かんでいた。
まるで、どのような天災やウイルスにも
屈することのない生き物の象徴のようにも、
いつまでも枯れることなく咲き続けたい女性の象徴のようにも、
観る側の想像力を自由自在に掻き立て続ける。
そこに不変のアートが存在していた。
浮雲のようなこの時代と共に生きていく中で大切なものは何なのか。
遠くに旅をするのもよいが、
いつも住み慣れたこの町の中に答えはあるのかもしれない。
取材日 25 26 October 2020
文・写真 natsuki