創業から3年間で時価総額4270億円のインドのユニコーンBharatPeの戦略
創業からたった3年間でユニコーンになったBharatPe
世界第2位の人口をもつインドは近年高い経済成長を維持しています。そんなインドは今やユニコーン企業数が100社を超え、その企業数は世界3位と躍進を続けています。目覚ましい成長を遂げているインド市場のなかで、創業3年で時価総額4000億超えのフィンテックスタートアップ企業「BharatPe」(バーラトペ)を本日はご紹介します。日本ではあまり知られていないBharatPeですが、この記事を読めばBharatPeのサービスと成功した理由が分かり、インド市場への理解が深まります。
Bharatpeとはどのようなサービスか?
会社名の”Bharat(バーラト)”は『インド』、”Pe(ペ)”は『ペイ(支払い)』を意味しており、BharatPeは日本語にすると『インドペイ』という意味になります。
BharatPeを使うことで店主はどんな支払いアプリからの支払いでも手数料無料で受け取ることができるようになります。店主は即時サインアップすることができ、支払いを直接銀行口座で受け取ることができます。また、支払いの金額に対して最大12%の金利を受け取ることができ、必要な時にいつでもローンを借りられます。BharatPeを使うとPayTm、PhonePe、GooglePay、BHIMやその他150以上のUPI(※)対応のアプリからの支払いを一つのQRで対応することができるので、支払いの受け取りがシンプルになります。
※UPI: Unified Payment Interface 統一支払いインタフェース
BharatPeから提供されているサービスの詳細
※クリケットとは主に元イギリス領の国で人気のスポーツ。野球の起源であるとも言われ、世界的な競技人口はサッカーに続いて二位。特にインドでは人気。
BharatPeの創業者
BharatPe の創業者はAshneer Grover、Bhavik Koladiya、Shashvat Nakraniです。 しかし、Ashneerが2022年2月に辞任したため、現在はBharatPe は Bhavik と Shashvat が共同創業者としてウェブサイト上に記載されています。(しかし、2022年4月2日の報道によると、Bhavik KoladiyaもAshneer Groverが退陣した数ヶ月後に辞任しています。)
Ashneer GroverはBharatPeの前MDであり、共同創業者です。BharatPeを創業する前はGrofersというデリバリーサービスを立ち上げ、最終的にはCFOになり、1.7億ドルの資金を調達しました。またアメリカンエクスプレスインド支社の法人部門のトップだったこともありフィンテック業界に精通しています。またKotak投資銀行に7年以上勤めた経験もあり、30億を超える金額の取引を10件対応しました。
Bhavik KoladiyaはBharatPeの共同創業者の1人で、会社の技術や製品部門のアドバイザーとして参画していましたが、投資家としてのキャリアを優先し、辞任しました。現在では6つの役員やアドバイザーのポジションに就ていており、その中にはPristyn Careの投資家やDigifin、LenDenClubにてエンジェル投資家のポジションなども含まれます。
Shashvat Nakraniは23歳の時にBharatPeの共同創業者になりました。IIFLWealth Hurun India Rich Listというインドの長座番付に最年少でリスト入りし、1990年代に最年少の自力で成功した億万長者となりました。
BharatPeのビジネスモデル
BharatPeはオフラインの商店やビジネス用のQRコードベースの支払いアプリです。このアプリを使用することで、ユーザーはBharaPeのQRコードを使用し、UPIを使用した支払いを無料で受け取ることができます。これは小規模な商店やそのオーナーにとって大きなメリットとなります。UPI支払い用の簡単なQRコード決済の提供に加え、Bharat Swipe(バーラト スワイプ)という店内支払いサービス(POS端末)も提供することで、クレジットカードによる支払いにも対応しています。
インド決済公社が構築したリアルタイムの送金を可能にする銀行間の支払いシステム
BharatPeのアプリは効率的なQRコード支払いを使用することで、ユーザーは即時サインインすることができ、すぐ銀行口座に支払いを受け取ることができます。BharatPeのミッションはすべてのユーザーに無料で支払い機能を提供することです。
BharaPeはユーザー数で言うとインドで4番目の大きさのQRコード型のオンラインデジタル支払いツールです。上位3社はPaytm、 Google Pay、PhinePeです。アクティブユーザー数は750万人以上です。全ての類似するデジタルプラットフォームからの支払いを可能にしています。
創業メンバーAshneer Grover(元American Express)が気づいた2つの点
創業メンバーAshneer Groverは元American ExpressのDirector - Corporate Developmentであり、Grofers(インドのデリバリサービス、zomato子会社)のCFOの経験もあり、実際にフィンテック業のニーズや問題について理解していました。
これでAshneerがよく分かっていたことが、以下の2つです。
(1)リテールのビジネスはマージン率が非常に低いため、クレジットカードやフィンテックサービスの手数料1%〜2%をお店が負担することが厳しい、つまり手数料で儲けることは難しいこと。
(2)インドの人口の64%の人が田舎に住んでいるため、お店は高い売上があったとしても、書類管理が煩雑で決算書類もなく、現金取引が大部分を占めているため、銀行からの借入が難しい。そのため、BharatPeは手数料よりもローンをお店に貸して、そこで金利収入を上げる必要があること。
BharatPeが成功した理由
2018年にリリースした時の特徴が手数料ゼロ
BharatPeは2018年にインドのベンガルールのフィンテック企業として設立されました。BharatPeが提供され始める前は多くのインライン決算を提供する会社は双方から最低でも1.5%の手数料を請求していました。BharaPeの参入以降はアプリの使用料を無料としている企業が多いです。
BharatPeの利益モデル
このフィンテック企業はQRコードを利用した決済についてお金を一切請求しません。低金利で中小起業家にミクロそしてマイクロローンを提供します。一般的な銀行はインドの小規模商店にローンを提供しません。所得申告や決算書などの書類がないためです。大企業が銀行からローンを獲得することはとても簡単ですが、中小起業家がローンを獲得するのはとても珍しいです。
BharatPeはこの問題を理解し、小規模商店主に解決策を提示しました。BharatPeは中小企業に2万〜70万ルピー(日本円:約3.5万〜125万円)ローンを1年間、月々の金利2%(年利24%)で提供しています。
24時間以内に商売主のウォレットに入金
当時は支払いの金額が商売主のウォレットに反映されるのに2日かかるというフィンテックサービスが多かったのですが、BharatPeは24時間以内に決済の完結、入金を実現しています。
ユーザーがBharatPeに長期預金ができる
BharatPeのもう一つの機能として、12%Clubという名前のプラットフォームを使って、お店のオーナー同士がお金の貸し借りをすることができます。インドのインフラが未成熟な関係で、ほとんどのオーナーは銀行にアクセスができない、もしくはアクセスが限られています。BharatPeはここにビジネスチャンスがあると考え、商店のオーナー同士のお金の貸し借り(peer-to-peer lending)を提供しはじめました。
キャッシュバックの仕組み
お店のオーナーに2種類のカードを提供していますーXtraincome Card と Bharat Swipe Card.です。Xtraincome Card での決済ごとに1%のキャッシュバックを提供します。
Bharat Swipe Card は中小事業者が金銭的な問題を解決するためのシンプルなクレジットカードです。基本的なサービスはQRやクレジッドカード決済をするためのPOSのシステムを提供することですが、しかしPOSのサービスのマージンがとても低いことと、税金に関しての詳細の資料を持っていない事業主が多いことからクレジットカードを持つことが難しい人が多く、クレジットカードの提供も始めました。
ユーザートランジクションを分析して、クレジットスコアを分析している
BharatPeはお店のオーナーのお金のやり取り、トランザクションをXtraincomeやBharat Swipe Cardなどの製品を使用しトラッキングしていま
す。トランザクションのデータを元に、どれくらいのローンなら返済ができるかの分析を行っています。会社は商売主にマイクロローンを少ない書類で提供しています。銀行のようにCIBILスコアを使ってローンを提供することはありません。
BharatPeは商売主に貸したローンの利子を回収します。2021年にはBNPL機能があるサービスをローンチ。BNPLはBuy Now Pay Later (今買って後で払う)の略で、後払いの制度です。このサービスでBharatPeは3.2億ドルを稼いでいます。ここからBharatPeの主な収入は利子であることがわかります。
ローンの回収率が業界トップの96%
BharatPeによると、回収率は96%で業界の中でもトップクラスとのことです。理由はお店のオーナーに毎日の返済分の支払いをお願いする代わりに、QR決済の支払い分から返済額を差し引いたものを銀行口座に入金するためです。デジタル支払いの特徴を活かしたことで、特にコロナ禍ではお互いにとってwin-winの状況となりました。
競合社Phone-Pe & Paytmとは違うBharatPeの特徴
BharatPeは中小企業にローンを提供しますが、Phone-PeとPavtmはそのようなローンを自分たちの顧客には提供しません。BharatPeはNBFC(Non-Banking Financial Company)銀行ではない金融機関と連携してきました。今では顧客がBharatPeに投資ができて、最大12%の利子を受け取ることができます。また最大100万ルピーの資金も借りることができます。Phone-PeやPaytmはこのようなローンは提供しておらず、投資のオプションもありません。
政府からフィンテック事業の支援
BharatPeの時価総額
2021年2月20日時点でBharatPeは9.2億ドルの時価総額でした。その後2021年8月4日にはTiger Global Management、Dragoneer Investment GroupとCoatue Managementから3.7億円のシリーズEの投資を受け、28億ドルの価値になりました。たった6ヶ月で時価総額が3倍になっています。BharatPeは今ではユニコーン企業であり、2021年8月4日のレポートによると、2021年の19番目のユニコーンです。またインド国内でもっとも価値が高いフィンテック企業トップ5に入っています。
BharatPeは貸付のビジネスを急速に広げ、2023年度までに10倍の成長を目指しています。
BharatPeの成長率:2020年から2021年の売上が21倍増加
2021年の売り上げは前年の2020年に比べて20倍以上になりました。会社が申告した所得税申告書(Income Tax Return)によると、経費も上がっています。現在BharatPeが利益を出せているかは不透明です。
BharatPeの資金調達
BharatPe は7億ドルもの資金を調達しました。現状、会社はさまざまな課題やオンラインアプリベースの決済ビジネスの競合であるPaytm、Google Pay、Phone-Pe などの競合との競争もあり、利益が出ていません。しかし、売り上げは前述の通り跳ね上がりました。一方、会社のインフラや新しいサービス開発のコストも売り上げと一緒に上がっています。競合に勝つため、BharatPeはNBFCとのコラボレーションを始めました。
まとめ:拡大を続けるインドのフィンテックマーケット
BharatPeは2018年のサービス開始以降、デジタル支払いに関して支払い元にも支払い先にも費用を請求していません。BharatPeを使用することは完全に無料です。2021年の売り上げは2020年と比較して20倍に増え、たった4年で利用者は100万人になりました。アクティブユーザー数は75万人です。中小企業向けの金融サービスを提供することで安定的に成長して30億ドル規模となり、インドのフィンテックのリーダー的なポジションにいます。
アメリカやヨーロッパなどの先進国とは違い、インドでビジネスを拡大するためには企業は現地の文化を理解する必要があります。インドの人口は14億人です。そのうち64%の人口が基本的なインフラ、銀行や学校、病院、道がない田舎に住んでいます。さらにインドの家庭の93%が所得の申告の対象ではありません。そのためフィンテックにとってインドは巨大な人口という意味ではマーケットチャンスがありますが、参入もしにくいマーケットになっています。
デジタル貸付はインドのフィンテックで一番成長している分野です。2019年には90億ドル規模でしたが、上位をフィンテックベンチャーとNBFCが占めるこのマーケットは2023年までに3500億ドル規模になると言われています。
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Top image: Naveed Ahmed/Unsplash
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