スキならば(『夜にしがみついて、朝で溶かして』ライナーノーツ2)

1.料理
「あ、始まるな!」って思った。始まるんだから当たり前だけど、イントロを聴いた瞬間にそう思った。最後にクリープのライブに行ったのは確か「クリープハイプのすべて」だと思うけど、久しぶりにめちゃくちゃライブに行きたくなった。

それから、「料理」で始まり「こんなに悲しいのに腹が減る」で終わるこのアルバム。尾崎さんが「ついに料理に手を出した」と言っていたけどたしかにあんまりないなって思った。クリープハイプといえばの「性」、「AT アイリッド」や「山羊、数える」「寝癖」など名曲揃いの「眠」に比べて「食」の曲は少ない気がする。でも流石の言葉遊びの完成度で聴いてて楽しい。今後「性」を排した「眠」のアルバムも出たりしないかなーって楽しみになった。

2.ポリコ
何が正しいのかわからなくなる時にはよく唇とか舌のことを考える。これは体の内側なのか、外側なのか。この境界線にきっと納得のいく答えはないんだろうなーって。そもそも曖昧な境界線を含み持って生きてる癖に、なんにでも白と黒は決められないんだろうなって。それから全部白!って言うのも全部黒!って言うのもとてもカンタンだけどそれは全部グレー!って言ってるのと変わんないんじゃないかなって思う。

「男女の友情は成立すると思う?」って盛り上がってる奴らには、そもそも男女の定義を教えろクソ野郎とも思う。けどまぁ、ゆるふわガーリーに生きてくしかないんだろうなって。

3.二人の間
ダイアンファンかつクリープハイプファンの俺はこの曲がすごく好きだ。でも、こんな事を言うべきなのかわからないがこの曲に関してはダイアンVer.の方が好き。なんかあんなに穏やかな曲なのに津田が「ニシザァ」って何回も言うところがなんとなく思い浮かぶし、ユースケが「違う違う」って歌うところも好き。ダイアンがすごく好きで、でもどこが?って聞かれた時になんて言っていいかわからなかった。これからは「二人の間」聴いてって言おうかな。

あとなんか、合ってるのかわかんないけど最後の「二人の間で」の歌い方が歌い終わりじゃなくて続いてく歌い方な気がして好き。

4.四季
「夏といえば!」とか「冬といえば!」というものは色々あると思うけど「布団」を季節の歌に登場させるのが本当にすごいと思った。たしかに夏は薄いもの、冬は厚いものと毛布とか季節によって変わるなーって。しかもそれだけじゃなくて自分で必要とした癖に手放したり、手放したら欲しくなったりという「身勝手さ」と叩かれたり干されてもなお包む「包容力」の両面を表しているところがとにかくすごいと思った。

クリープハイプはどの季節のバンドかな?って考えてみて、でも年中無休で聴いてるからわかんなかった。

5.愛す
「やっぱりそばには君じゃなくちゃダメだな」なんて言う癖に、そんなクソみたいな誤魔化し方するなよ!でもわかってくれると思ったんだよな!だって「蕎麦には黄身じゃなくちゃダメ」な訳ないんだから!

でもきっとツンデレが通用するのも主人公補正とお節介焼きな親友があってこそなんだなと思う。「ブス」を「愛す」と受け取ってくれなんて言うのは一般人には土台無理な話なんだ。きっと「愛す」って言って通じる相手には何を言っても通じて、それでもどうしても「ブス」って言って伝えたい時があるのもわかるけど。

6.しょうもな
そうですよね、尾崎世界観は一般人じゃないですもんね。知ってました。カッコ良すぎるでしょ。「ただの線」でもうひっくり返せないとか聞いた時に本当に頭の中どうなってんだろうって思った。きっとこれから先、尾崎世界観は「愛してる」って言っても言わなくても「愛してる」存在で「愛して」って言っても言わなくても「愛してほしくない」存在でもあるんだろうな。大変なんだろうな。

小説も書いてテレビにも出て、伝える手段なんて前よりもいくらでもあるのに、歌を歌う意味っていうのはこういう曲にあるんだろうな。

7.一生に一度愛してるよ
若気の至りなのか、決意の表れなのかはわからないけど、ビビッドなアニメキャラのタトゥーをいれてるインフルエンサーとかに「おじいちゃんになってそのタトゥーは逆にかっこいい!」とか言う人は本当に思ってるのかな?中身も外見も変わっていく中で、皮膚の上で一人取り残されていくピカチューはそれでも笑顔でいてくれるのかなって思うな。あとやっぱみんな期間限定とか好きじゃん。お花見とか紅葉狩りとか行くじゃん。今年のボジョレヌーボーの出来が気になってんじゃん。

よくわかんない事書いたけど、結局のところ人間なんてないものねだりをしてしまう生き物で、そんなファンの事までちゃんと刺しに来てくれるクリープハイプは優しい。

8.ニガツノナミダ
このタイトルでこんなチョコの登場の仕方ある?チョコっとしか出てないじゃん(うまい!)。「バレンタイン絡めながらWi-Fiのこと歌ってください。」とか言われたのかな?でも最初の「やけ泣きしながら」から「ここはどこ」まででちゃんとタイアップして、最後の「逆ギレしながら」から「ここはここ」まででタイアップに臨む自分たちの心境みたいなのを歌って対比させるとことかカッコいい。しかもその間は「魂売る」と「使い放題」でグラデーションになってるとか。

9.ナイトオンザプラネット
クリープハイプの曲でここまでしっかりと固有名詞が出てきたのって初めてな気がする。小説のあとがきとかで出てくる筆者が影響を受けた作品とかはついつい買っちゃうタイプの人間としては一刻も早く「ナイトオンザプラネット」が観たい!けど、まだ観られていない。楽しみ。

一番目立つ特徴の一つで溢れる歌い方も変わって、固有名詞も出てくるという変化がどんな意味を持っているのかが気になる。この曲の歌詞ではもう変わることのない「過去の映画」と変わり続ける「自分たち」という関係性が描かれてる気がするけど、「バンド」は変わり続けるものだと思う。変わっていく自分たちとそれに対するファンの反響さえ歌にするクリープハイプがどうやって変わっていくのかがものすごく気になる。

10.しらす
可愛い曲だなーって思って聴いてると、残しちゃ「ならね」とか愛でねば「ならね」、食べた「からには」と命を頂くこと義務というか責任を歌ってて食育的でEテレチックな曲だなぁと思った。「天の川」は命の流れみたいなものなのかな?あと旅の終わりに謝るのは誰に謝るのかな?

今回のアルバムは「食」に関する曲が多く収録されているけど、カオナシさんにもそういうオーダーが行ってるのか、自由に作っていいってオーダーでアルバムに沿って制作してるのかが気になった。

11.なんか出てきちゃってる
人にアドバイスするときはめっちゃ合理的なのに自分のこととなるとほんとにどうしようもなくなるよね。あと、仲良いと思ってて距離詰めすぎて陰で嫌がられて傷ついたり。中学生のときほぼほぼ両思いが確定の子と同時に好きな人発表しようって流れになって、相手にだけ言わせた事を思い出した。

ぜんっぶ自己嫌悪。人に慰められるのも嫌なくらいの自己嫌悪。一生瘡蓋にもならないだろうな。それも全部ネジがゆるんじゃったせいなのかな。でも、それも自分のせいだよね。

12.キケンナアソビ
シャンプーは幸せの香り。でも、それは嘘偽りのないあなたを愛せることが、嘘偽りないあなたが愛してくれることが前提なんだろうな。むきだしの事実はとても疲れるから、なんか俯瞰してみて、当事者じゃないみたいなフリをしてやりすごしてみたりする。

たしかに来た道をそのまままっすぐ帰れれば迷わないのかもしれないけど、ここまで来るのにつけてきた足跡は消えてくれないしなーって困っちゃうよね。

13.モノマネ
ものすごく好き。こんなにしょうもない話もないと思うけどこの曲と「幽霊失格」のおかげで恋人と別れるのを踏みとどまれた。

お互いに違う好きなところがあったから一緒になったはずなのに、いつの間にかおんなじであることに安心するようになってしまう。でもおんなじところが増えるほど違うところが不安になってしまう。似てないモノマネで笑えてたのはそれがどうでもいいものだったからで、おんなじ「笑顔」でも、だからこそ、その理由の違いで腹が立って悲しくなってしまうんだと思う。

14.幽霊失格
幽霊なんだから顔色なんて悪いのが当たり前だし、ちゃんと食べれないのは当たり前で、ここでそういうことなのかって思った。

この曲には反対のものがいっぱい出てくる気がする。幽霊の「冷たくて足がない」というイメージの反対の熱い手、猫背の犬、せっかくの丑三つ時、写真にだけ写る美しさ、そして幽霊失格。そういえば、好きだったはずなのに恨まれたり、別れてからまた好きになるのも反対だなと思ったり。

15.こんなに悲しいのに腹が鳴る
このまま死んでもいいかなぁって思うほど悲しくて、なにもする気が起きなくても、腹だけはしっかり減って、糞だけはしっかりと出て。あぁ、こんなにも俺は動物なんだと実感する。恥ずかしくなる。悲しくなる。

考えてる余裕なんてないから、そのうち何が悲しくて泣いてるのかもわからなくなって涙だけがとめどなく流れる。でもそれでいいんだと思う。理由なんてわからないけど、生きていて、明日もきっと生きていく。死にたくないからでも、生きたいからでも、前向きでも、後ろ向きでも明日も生きていこうと思う。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?