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ドイツの肉屋で出る賄い(まかない)がどれもおいしすぎる件について

こんにちは、ソーセージ姉さんです
私がドイツの肉屋で職業訓練を始めた昨年5月から、もうすぐ9カ月が経とうとしている
9ヶ月経とうとも、肉屋の労働はハッキリ言ってまだまだつらいことが続いている

毎朝5時の真っ暗な時間帯に出勤する事には少しずつ慣れた 体格のいいドイツ人男性たちに混じって大きな荷物を運び、デカい肉を何時間も捌き、こまめに手を洗うせいで指先から肘にかけて粉が吹きガサガサがちなことにも段々と心が適応していくようになってきている

仕事において常にスピードと正確さを求められる私の職場において、私の慎重で完璧主義な性格はあまり合わないようで未だによく「もっと早くやって!」と急かされては私の中の最大限のスピードを出し、心を張り詰めながら作業に取り組んでいる
帰る前には毎日作業場の清掃を少なくとも1時間、長い時は3時間以上かけて行うため心身共にヘロヘロで帰宅するのが常だ

そんな職場における私の密かな楽しみが「まかない」である
日本にいた時、サラメシという番組が好きでここで働き始めてから毎日自分なりの昼飯の記録を残していた
まかないは毎日昼に振る舞われ、毎回違うものが用意されている
そのためこの9カ月で私は数多くのドイツ飯と出会ってきた そのどれもが私の中の様々な感情を呼び起こし、日本にいるだけでは得難い経験を与えてくれる
これはそんな私の、ドイツ肉屋のサラメシ・まかない備忘録である

1.ビール衣の白身魚とポメス(Fisch im Bierteig,Pommes)

日本で見る白身魚のフライとは違ったいでたちである
食べてみると身がやわらかくタラに近い食感
本来ここにソースをかけて食べるものらしいが、かけなくても十分物足りる味付け
衣はしっとりと分厚く、ビールが使われているらしいが疲れていて細かい風味とかがよくわからない とにかく分厚くておいしい

ポメス(ドイツのフライドポテト)は安定のおいしさ 芋・塩・脂質、全てが労働で疲弊した脳と体を癒す潤滑油になるのがわかる

この日は午後にみんなでスパークリングワインと一緒にケーキを食す時間があった
そのあとも作業場には清掃業務が残っていたが、強いアルコールでくらくらしながらあっちこっちに水をまき散らした

2.チュロス、シュガー&シナモン、チョコソース(Churros,Zucker&Zimt,Schokoladensoße)

この日、肉体も精神もボロボロの状態で昼飯に向かうと台所にチュロスがあり、おもわず飛びついた
スナック菓子の様なカリカリの揚げたてをよそい、そこに甘~いチョコソースとシナモンシュガーをぶっかけて食べると…

あんま~~~ッッ
ここが職場じゃなければ暴れ出しそうな幸福感 うますぎる
かじると小気味いいカリッ!という咀嚼音が口内から響きセルフASMR
ジュワジュワと生地からあふれる揚げ油が口内に染み渡り脳が爆裂に痺れる

普段のチュロスならこんな風には絶対ならない 肉体労働の後の小麦と砂糖は、肉にも塩にも手の届かない脳のイケナイ部分を揺さぶる
このカロリーが私を疲労から一気に天国へと引き上げてくれるのだ

3.じゃがもとアスパラとハムのグラタン(Kartoffel-Spagel-Schinken-Auflauf)

んん~しょっっぱ!!
こんがりきつね色に焼けたチーズ層が分厚く、ここ単体で食べるとチーズに塩かけて食べてるのかと思う程塩気が強い
だがこれがいい これが朝5時から12時まで立ちっぱなしで働いている脳と身体に直接届くのだ

具はジャガイモがゴロゴロ入ってホクホクあたたか
ドイツのアスパラと言えば白アスパラ、普段のグラタンに無い食感が楽しい
所々散りばめられたハムの欠片を噛むとより塩分量が上昇する は~うめ
ホワイトソースも乳製品の濃く濃厚でもったりとしていて最高 グラタンのホワイトソースは濃厚であればあるほど幸福度が増す
脳に直接カロリーがアクセスしてくるような味付けがたまらない 午後もこいつのおかげで踏ん張れる

4.オーブンステーキ、グリーンピース、クロケット(Steak an four,Erbsen、Kroketten)

クロケット(Kroketten)って何?と思い調べる前に食べてみたら、完全にコロッケだこれ
薄い衣の中に味付けされたホクホクのジャガイモが詰まってる 細長いのが面白い

メインのお肉はオーブンで焼いたステーキ、チーズが乗っているがやけに盛り上がって見える
切り分けて食べてみると、なんかすごくグラタンのような味
チーズ・ホワイトソース・くわえて何か野菜が入っている気もするが疲労でどんなものかまでは想像が追い付かない 夢中でフォークで目の前の肉グラタンに食らいつく
まるでステーキの上でグラタンが完成しているようだ

なんだか新しすぎる もしかして昨日のグラタンの再利用だろうか
しかし悪くない なんならアリだ
この日以来、肉グラタンがまかないに出た事は無い 私は次いつ彼に出会えるのだろう

5.じゃがいもスープとボックブルスト(Kartoffelnsuppe mit Bockwurst)

じゃがいもがゴロゴロ入ったスープかと思いきや、じゃがいもが溶けるまで煮込まれたドロドロ系スープだった
とろみがあり味付けもいい 怖いくらい濃いめのコンソメが効いてる
中には小さく切られたプリプリのベーコンも混ざっており脂身をたっぷり蓄えている ああうまい

そしてソーセージ!ボックブルスト!!
いや~~やっぱ肉屋のソーセージはうまい 特にうちのソーセージはほんとうまい(気がする)
5~13時までがっつり働いた身体に塩分がギュリギュリとねじ込まれていくのがわかる あ゛~~~効゛く゛~~~~

6.白身魚フライとディルソース、マッシュポテト(Überb.Fisch,Dillsoße,Kartoffelstampf)

マッシュポテトうめ~~~ッッ
家でも時々作るが大抵塩なし・牛乳も控えめで作るので正規レシピのマッシュポテトを食べると感動しちゃう
それにめちゃくちゃ滑らか 丁寧に裏ごしされてるのかもしれない

そしてメインの魚はまたもや衣をまとっている
日本にいた時、白身魚は鍋に入れて野菜と煮てポン酢でいただくのが大好きだった
だがここに至っては違う 衣をまとってない白身魚では物足りない
白いディルソースというのをたっぷりかけて頂くと…

うまい うまいよ~~
魚自体への味付けは控えめで、ディルソースを絡める事で味がしっかり整う
分厚い衣にサラサラとしたソース、ハーブの爽やかさがプラスされていい感じ
炭水化物と脂質で腹持ちしっかりにして、ようやく作業場へ戻ることができる

7.エンドウ豆のスープとクナッカー(Erbsensuppe mit Knacker)

この日、午前中いっぱいず〜〜っとデカい肉を捌きまくらされた
捌き終わったと思ったらまた新たなデカい肉を捌く業務を与えられ、身も心も右腕も瀕死状態である 今すぐエネルギー補給したい

深皿になみなみと豆スープをすくいでっかいクナッカーをセンターにでんと乗せる もう1秒も待てない いただきます

あ~-っ う ま !!

スープは安定の塩味がっつり 液体とペーストの間のようなもったり感が今日の空腹にたまらない
豆自体の素朴な味わいもしっかりあり、ほこほこのじゃがいももゴロゴロ入ってる
疲れ切っている日は咀嚼もしんどいので、上あごとベロで潰して飲み込めるこういう食事が有難い

そしてウインナーの切れ端もゴロゴロ!!
あらあらもう…こんな…うまいにきまってる
そしてお待ちかねのクナッカーにナイフを入れる
肉汁がジュワッと皿に溢れて、一口目…

うわっっ
アーーッうますぎうますぎる
うますぎて脳がダメになるーーーッ

普通のウインナーより粗挽きで肉粒の存在を舌の上でざらりと感じる
塩気もスパイスもガツンと効いて、噛むほどしょっぱい肉汁がドクドク溢れ出す
脂身たっぷりのソーセージたち、多くとりすぎたかな…?とも思った豆スープも問題なくペロリと完食できた
今日みたいな疲労特盛の日には高校生のような豪の食欲におそわれる
そんな時、私は心赴くまま食べている そうでないと本当に保たないのだ

8.チキンフリカッセ、白米、コンポート(Hühnerfrikasse,Reis,Kompott)

チキンフリカッセとは?と思い、食べてみると、完全にチキンクリームシチューだった
いや、正確に言えば日本で食べるそれよりもっとさらっとした舌ざわり だがコクがあり鶏肉のダシが効いている
小さく刻まれた鶏肉とスライスされたマッシュルームが、日本のシチューの具材と煮ていて少しホッとする
そしてシチューを白米で食べる事が大好きな私には願ってもないまかない
同時に、ドイツではこれが主流なのかと驚きと喜びがあった

そして今日はデザートのヨーグルト付き!
フルーチェみたいな味付きヨーグルトにオレンジのような柑橘系フルーツが混ざって癒される
甘みは偉大だ 塩分には補えない部分をいつも救ってくれている気がする

9.ロールキャベツ、蒸しじゃがいも(Krautroulade,Kartoffeln)

ロールキャベツだ〜〜!!!!

そしてめっちゃ油だ 肉を包むキャベツがてらてらと多分に油をまとっている
口の周りがべとべとするほどオイリー
だがそれがいい 身体が心がこれを激しく求めている
キャベツはくたくたとシャキシャキの間の丁度気持ちいいところ 肉のうま味もしみててうっとりするうまさ
味付けは濃くなくシンプル さすがは肉屋のロールキャベツお肉がプリプリでおいしゅうございます……

日本で食べるそれよりかなりおおぶり 楊枝で止めてあったりもしないので簡単に崩れる
合間にホクホクの蒸しじゃがいもを食べると心もほっこりする
そういえば、ドイツに来てからじゃがいもというものがより好きになった気がする なんでだろう

10,鶏むね肉のレモンソース包み焼き、パスタ(Hänchenbrust in Zitronensoße,Bundnudeln)

鶏むね肉はドイツでは高級品なので、まかないで選べる日は積極的に頂くことにしている
今日のメニューは、贅沢にも鶏むね肉1枚をオーブンでこんがり焼き上げた一品
てかてか光る肉の表面にいつも心躍る
だが、今日はそうじゃない 昼前の業務で完全に心が壊れてしまった

私は指示通りに肉を捌いているつもりが「ちがう」「そうじゃない」「僕にはもっと簡単に見えるよ」と言われ続け、
そうして呆れ気味に「先に休憩しな」と私に昼食をとるよう指示を出された後、この鶏肉を前にしている
これは、焦りで完全に溝にはまって身動きの取れなくなった私を一度外に出そうとしてくれた上司なりの気遣いである

しかし全然嬉しくない まるで戦力外通告をされたような気持ちだ
いや、そもそもここで私が一度でも戦力となれたことがあっただろうか
空しい こんなに頑張ってるのに上手く出来ない
いや、頑張って働こうが結果が伴わなければ意味が無い
一生懸命なんて誰にでもできる 頑張るなんて意味が無い

パスタの味もおいしく感じない
鶏むね肉もほかほかなのに心動かない
「おいしい」を感じる器がここにない
こんなに味のしない昼飯は初めてだった

凹み倒したまま入った週末に、街で唯一の日本人がいる日本食屋さんに足を運んで唐揚げをテイクアウトした
公園でそのままパクつき頭空っぽで食べたそれが、とてもおいしくて おいしくて
今日はおいしく感じられた事に、小さな自信をもらえた

11.マッシュルームラザニアとサラダ(Champignon-Lasagne,Salat)

あ゛っ゛ しょ゛っ゛ぱ゛
豚ひき肉とマッシュルームとラザニア生地の上に、なんかやたらしょっぱいチーズ
加えてひき肉もまあまあしょっぱい
しかし肉体労働後だから食える 食えるが、何でもない日にこれ出てきたら笑っちゃう
カリウムとりたくて、あとで追加でバナナ食べたり汗かくためにFitBoxing
したくなりそう

いつもは一人で飯をかっ食らうのだが、この日はたまたま他従業員3人とタイミングが合いみんなで卓を囲んだ
みんなで夏の休暇について話して、なんだかいい時間だった

12.クレープ風パンケーキとりんごソース(Eierkuchen mit Apfelmus)

日本にいた時、ゲーセンに併設されているマリオンクレープが好きだった
資格試験当日の帰り道、ご褒美としてよく食べており、その度に「私はクレープの皮が好きなんだ」と確信を強めていた 

この料理はそのクレープの皮にかなり近い、厳密に言えばそれよりは少々厚めで卵感があるのだが、常々クレープの皮単体で味わいたいと思っていた私大歓喜
生地単体でも十分甘く、甘すぎないりんごソースをかけることで程よい味になる
もちもちとした食感も良く通常ならもう2~3枚食べたい所だが、この日は満腹を控えて昼を終えた というのも…

この日、人生で初めてBBQにお呼ばれしていた
BBQは陰キャのやる文化じゃないと、凝り固まった考えを持って生きてきた私だが、この日は日本人が多く集まる会という事で勇気をもって参加する事に

実際に初めてBBQをした率直な感想としては「想像よりずっと落ち着ける場所」だったことが、とても嬉しい気づきだった
自然に囲まれながらおいしい食べ物をつつき、日本語を喋り耳を傾ける時間
せっかくならと持参した私の手作りソーセージも好評で、日本語で何度も「おいしい」と言ってもらえた こんなに嬉しい事は無い
次の日も朝3時起きなので早めに抜けさせてもらったが、またいつか私のソーセージでBBQできる機会を持てたら、そう思える貴重な時間だった

13.ズッキーニの肉詰め、トマトライス、サラダ(Gefüllte Zucchini,Tomatenreis,Salat)

今日、同僚に舌打ちされた気がする
指示の意味を瞬時に理解できず間違った動きをした時、屈んだ私の頭の上から小さく聞こえた
すごく小さかったから気のせいかもしれない、でももしかしたら本当に…

そんなモヤモヤを抱えたまま業務が終わり、ぼーっと昼食をよそっていたらトマトライスを死ぬほど皿に盛ってしまった
でもいい こういう時は血糖値を上げて気分をごまかしてしまえ

ズッキーニの肉詰めはドイツ版ピーマンの肉詰めといった所だろうか
くたくたのズッキーニの中に味付けされたひき肉が詰め込まれ、チーズがかかっている
肉もチーズもしょっぱくてうまい 私が労働後に求めているものが、このズッキーニに詰まっている
トマトライスは恐らくシンプルなケチャップライス 飾らないシンプルな味でいい

今日は金曜日 とにもかくにも今週もここまでたどり着いたのだ そんな自分を労いたい
私を見ているのは私だけなのだ 私が私を労わなくてどうする
大量のケチャップライスとズッキーニの肉詰めで気分と血糖値を上昇させ、この日は帰宅した

14.焼きソーセージ、ザウアークラウト、マッシュポテト(Bratwurst,Sauerkraut,Kartoffelmus)

この日、私の住む街は気温30度超えの真夏日だった
毎日の清掃で熱湯を使う作業場は、清掃の頃になると完全な蒸し風呂状態と化す
全身が汗と汚れた道具を洗った際の返り湯にまみれ、前髪がべっとりとおでこに張り付くまで働いてようやく昼食の時間
今日の昼飯は大好きな焼きソーセージ その端に食らいつく

ア~ うますぎる
もうなにこれ これだけ永遠に咀嚼していたい 塩うますぎる
いやうまいという言葉じゃ足りない もっともっと人間の根源に訴える何か
でも言葉が出ない 今はもうとにかく塩 塩 塩 とにかく塩が脳と心に直接訴えかけてくる
全身が泣いてこの食事を喜んで受け入れている

今までこんな気持ちでものを食べたことは無い
下手なドイツ語を駆使し、体の大きなドイツ人男性たちに囲まれ、サウナ状態の部屋にこもりずぶ濡れになるまで動きまくる
早朝から何時間も肉にまみれて働く今、色んな感情が混ざり合い心身すり減らして食べる焼きソーセージ
ああ、私はこの為に働いてるんだ 泣きたくなる程苦しいし、どうしようもなくおいしい
おいしい やっぱりソーセージっておいしい

15.包み焼のフェタチーズ、サラダ(Gebackener Feta im Päckchen,Salat)

フェタチーズをトマト・オリーブ・パプリカ等の野菜と一緒にホイル焼きした一品
写真ではわかりにくいが、野菜の下に大きなフェタチーズが隠れている

あ~~ しょっっぱ
乳製品のコクと塩味、野菜もしっかり味付けされてる
オシャレな見た目ながら脳にガツンとくる濃い味
クリーミーな食感に舌鼓を売っていたら突然肩をたたかれ振り返ると社員の人がシャンパンのボトルを片手に「いる?」のジェスチャー
要らないわけがない 午前のハードな労働で死んだ目に光が灯る
細いグラスに注いでもらい一口

あ やばいめっちゃ合う
フェタチーズとシャンパン、とにかくこの組み合わせが最高of最高すぎる
何故かケーキとクッキーまで振る舞われた今日は、あまいもしょっぱいもアルコールも揃った最高の華金ランチとなった


おわり

これが働き始めて5~6月頃のまかない備忘録です
またそのうち続きを書きたいなと思います
ここまで読んでくださりありがとうございました!

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