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ACTIVITY | 北九州 - IoTとFabと福祉 -

「IoTとFabと福祉」をテーマに、日本各地ではどのような実践が行われているのでしょうか。2019年7月26日~27日に開催した座談会で話題にあがった内容をもとに各地の活動を紹介します。

福岡県・北九州市にある「一般社団法人 生き方のデザイン研究所」は、障害のある人もない人も、ともに自分らしくいきいきと安心して暮らすことのできる社会の実現を目指して活動しているNPOです。

私たちは、障害があることで我慢したり、あきらめたりせずに、障害のあることを強みに感じられる社会を目指しています。インクルーシブデザイン思考により、新たな社会の仕組みや役割を「ともに」創造し、それが社会の主流となるよう働きかけています。

たとえば、障害のある人が学校や企業に講師として出向き、自身の経験や体験、思いを伝える「生き方のデザイナー出前事業」では、障害のない人が、障害のある人と出会うことで新たな価値観に気づく機会を得ることができます。

今年度は、デジタルメイカ―の育成と、当事者とともに製作する自助具の開発、障害のある人の感覚や感性を活かした商品開発・製作、これらの活動に取り組んでいこうと考えています。

デジタルメイカ―の育成

「IoTとFabと福祉」のプロジェクトとして2年間取り組んできた中で、3Dプリンターを使っていろいろな造形にチャレンジしてきました。

参加している生き方のデザイナーのHさん。精神障害があります。趣味でアマチュア無線や手話、ほかにもたくさんの資格をもちITやパソコンに長けています。

今後は習得したスキルを活かして、障害のある人との出会いを含めたワークショップにつなげられたらと考えています(その後、さっそく8月19日には子ども向けイベントが実現しました)。

当事者とともに製作する自助具の開発

西日本工業大学デザイン学部の中島浩二先生と連携して、学生も巻き込みながら、障害のある当事者とともに、既製品にはないような自助具などを、本人の生の声を聴きながらつくっていきます。

これに参加している生き方のデザイナーはOさん。障害は頸椎損傷で、施設に入所しています。受障前に3Dモデリングの経験があります。施設にいても仕事ができる可能性を探っています。

Oさんがデザインしたタブレットペンホルダーの3DデータをHさんが出力したり、西日本工業大学の学生さんとともにブラッシュアップしたりと試行錯誤しています。

今後も食事用のホルダーを制作したり、好みの見た目や色などでデザインしたり、様々な道具を3Dプリンタで作っていきたいと考えています。さらには、3Dデータを公開することで、同じような悩みを抱える仲間と共有したり、発展させることもできます。

障害のある人の感覚や感性を活かした商品開発・製作

生き方のデザイン研究所では、外に出向いて活動する生き方のデザイナーの他にも、ものづくりが好きだったり、得意だったり、多様な生き方のデザイナーがいます。そのような人たちの技術や感性を活かした活動にも取り組んでいます。

生き方のデザイナーNさんは、高校生のときに脳腫瘍のために失明しましたが、趣味はカラオケ、コーラス、読書、手芸など多才で、とても素晴らしい感性の持ち主です。

人形も制作していて、九州大学大学院芸術工学研究院の平井康之先生から依頼を受けてつくった作品もあります。最初に誕生したキュリー夫人には「化学は、バケガク。きつねの耳としっぽをつけちゃいました」と驚きのアイデアを加えました。続編として、「猿も木から落ちるニュートン」や「月とスッポンガリレオ・ガリレイ」などネーミングも合わせて考案しています。

これらのアイデアをデータ化し、フェルトをレーザーカッターで加工して、手で触ってわかるように積層させてつくりました。

全盲の人が、著名人をどう想像しているか。そのイメージを共有するものを創りだせることもデジタルファブリケーションの可能性の1つだと感じています。それをどう広げるかは課題の1つですが、いまはファーブルとノーベルを企画中です。オーダーがあったらいつでもできるように心の準備だけは進めています(笑)。

「こういう見え方がある」ということを伝えられるプロダクトができると、純粋に楽しみながら学べるし、世界の多様な見え方を育てることもできるのではないかと考えています。

加えて、Nさんが粘土でつくったデコレーションケーキを3Dスキャナでデータ化して複製し、別のアクセサリーや小物に展開できたらいいなと思い、試作でマグネットをつくってみました。

今年度、新たに加わる予定の生き方のデザイナーはKさん。脳血管障害による体幹機能障害と、両眼複視という特殊な見え方をする人です。リハビリで始めた絵手紙がとてもユニーク。発想がとても豊かで何かの拍子に思いついたキャラクターなどをサラサラと描かれる人です。この独特の感性をぜひ3Dプリンターなどを使ってプロダクトに展開したいと考えています。

他にも、生き方のデザイン研究所には手芸が好きな人たちが集う、その名も「ビリーブのシュゲ~ブ」という活動があります。メンバーのみなさんが作りたいものがあるけれど、既製品にはないパーツを3Dモデリングしてつくったら、更に創作活動の幅が広がるのではないかという話もしています。今後は作った人たち一人ひとりの物語が伝わるような商品を開発できるといいなと考えています。

いま感じている課題とこれからの連携

現在の課題としては、大きく分けると3つあります。

①職員が限られているので専念できる人が不足している
②3Dモデリングや3Dプリンターに関する技術・知識がまだまだ乏しいのでレクチャーやトラブルシューティングのところでの協力者が近くにいない
③職員が3Dモデリングの練習素材を準備することができない

3Dモデリングの練習をしようにも「こういうものつくりましょう」という素材を持ち合わせていないので、「適当につくって練習してください」と丸投げすることもできないし、職員がつきっきりでサポートできるほどの人的余裕もないので、何か打開策があるといいなと思っています。練習素材としては、問題集のようなものがあると、「今日はこういう形をつくってみましょう」という流れで、スムーズにスキルアップできて良いのではないかと感じています。

西日本工業大学に「3D造形部」という部活があるので、そのメンバーと協力できたらとも思います。学生もいろいろと忙しいのでインターンシップやアルバイトにするなど、モチベーションが上がるような関係性をどのように築いていくかが課題です。

生き方のデザイン研究所には、OT(作業療法士:Occupational Therapist)の人との関わりもあるので、リハビリのプロと当事者と学生とで関わることができるとクオリティが上がるのではないかとも考えています。

ほかにも、北九州市内はもちろん、より広い地域の人たちと協力しながら進める試みもしたいと考えています。たとえば今、携帯できるミニ・ホワイトボードをつくっています。そういった今ある製品についても他の地域の団体のみなさんとコラボできたら、オリジナル性が高まりや、幅の広がりができていくのではないかと考えています。

【参考URL】
■生き方のデザイン研究所
 https://www.ikikatanodesign.com/

■西日本工業大学 デザイン学部 情報デザイン学科(教授・中島浩二
 http://www3.nishitech.ac.jp/

■九州大学大学院芸術工学研究院(教授・平井康之
 http://www.design.kyushu-u.ac.jp/

■IoTとFabと福祉 - 北九州 -
 https://iot-fab-fukushi.goodjobcenter.com/area/kitakyushu

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