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METHOD | 障害と未来のしごとを考える小さな勉強会

福祉にたずさわる人と技術にたずさわる人が初めて出会って、いきなり「よし!何か一緒にやりましょう!」とはなりにくいものです。福祉と技術に関わらず、人と人の関係はまずはお互いを知るところから。山口情報芸術センター [YCAM] にて開催した小さな勉強会をご参考ください。

勉強会は、大きく分けて3部構成になっていました。第1部はおもにYCAMの紹介にあてられ、YCAM内部の見学ツアーもありました。第2部は「福祉を知る」ことを目的とした話し合いがおこなわれ、第3部は「お互いを知る」ことを目的に福祉に携わっている人とそうでない人を混ぜてグループに分けてワークショップがありました。以下に、第1部、第2部、第3部それぞれの内容をレポートします。

第1部 山口情報芸術センター [YCAM]を知る

その1)キーノートスピーチ

YCAMのエデュケーター、菅沼さんによるキーノートスピーチがありました。菅沼さんは、YCAMの活動を特徴づけるキーワードとして、「身体」、「メディア」、「社会」の3つを挙げていました。

テクノロジー、とりわけ先端テクノロジーと聞けば、ややもすると社会から浮遊し、暴走するイメージがつきまといがちですが、YCAMの試みは、メディアテクノロジーを、教育、アート制作、地域社会にそれぞれグラウディングさせようとしているものだといえます。

教育でいえば、子どもたちにメディアリテラシーをどのようにつけてもらうか、が問われます。メディアリテラシーとは、狭い意味では、新聞、テレビ、雑誌などの媒体をどう読みこなすかという意味を指すことが多いですが、それだけではありません。メディア media とは、あなたと私の中間にあるもの(ミディアム mediumの複数形)。菅沼さんいわく、人類最古のメディアは「のろし」だといえるそうです。例えば、マンモスを取ったぜ!ということを、遠くにいる仲間たちに伝えるとき「のろし」を挙げるとすれば、2頭マンモスを取った場合は、2本の「のろし」を上げる? それとも、色を変える? 等々の工夫が発明される。

つまり、メディアとは変えられるものである。

菅沼さんは、大人が子どもにメディア(簡単には変えられない形で)を与えるのではなく、変えられるメディアを子どもには提供したいと述べておられました。可変性が高いメディアをとおして、子ども自らがメディアについて学んでいく機会を設けるのが、YCAMエデュケーターの仕事だということです。

メディアテクノロジーを、教育、アート制作、地域社会にそれぞれグラウディングさせようとするYCAMの仕事の概要については、http://www.ycam.jp/aboutus/ をご覧ください。キーノートスピーチでおもに取り上げられていたのが、以下の企画です。

〇 Forest Symphony
坂本龍一さんとの共同制作。樹木からの生体電位を音楽に変換してシンフォニーに。 
http://forestsymphony.ycam.jp/info/

〇 Reactor for awareness in motion (RAM)
「ザ・フォーサイス・カンパニー」のダンサー安藤洋子さんとの共同プロジェクト。比較的安価でダンサーにも装着しやすいモーションキャプチャシステムを備える。
http://special.ycam.jp/ram/

〇 walking-around-surround
空間に音を配置しよう! 子どもを対象としたワークショップ
http://www.ycam.jp/archive/workshop/walking-around-surround.html

〇 子どもあそびばミーティング (前身 コロガル公園、コロガルパビリオン)
「公園=プレイパークの考えに、メディアテクノロジーをのっけてみた」というプロジェクト。「~するな」と押し付けられてばかりの公園ルールにうんざり。自分たちの遊びのルールは自分たちで決める! 
http://www.ashita-lab.jp/special/5496/

〇 森のDNA図鑑
普段の森。目の前にある木、すべてを採取し、DNA解析して図鑑を作ろう!
http://special.ycam.jp/dna-of-forests/#/

〇 スポーツタイムマシン
これはもはやコトバは要らないかと。経験するしかありません。
http://sportstimemacine.blogspot.jp/

〇 熊谷晋一郎さんとパーソナルスペースの研究
医師であり障害のある人の当事者研究をおこなっている熊谷晋一郎さんとパーソナルスペースに関する共同研究が始まったそうです。
http://www.ycam.jp/events/2017/perception-engineering-kickoff/

〇 スポーツハッカソンfor Kids
「参加者同士で議論やプレゼンテーションを繰り返しながら、YCAM制作のテクノロジーが組み込まれた道具を使って、新しいスポーツをつくり出します。」 
https://portal-admin.ycam.jp/events/2017/sports-hackathon-for-kids/

その2)見学ツアー

キーノートスピーチの後は、参加者全員で、YCAMの内部のツアーにでかけました。視覚、触覚の機能を拡張させるYCAMで開発された装置を実際に体験したり、普段は関係者だけしか入ることができないバックヤードスペースを見学させてもらえるなど、一同大興奮! 

その日のツアーは、こんな感じで進みました。

〇 ホワイエ

吹き抜けの大階段をおりて、最初に通されたのが、YCAMの建物中央部にあるホワイエでした。設計は磯崎新氏によるもの。ホワイエから、お隣の図書館を見渡すことができます。このホワイエで、坂本龍一さんとのForest Symphonyが実装されたこともあるそうです。

〇 3種類のデモンストレーション

The EyeWriter(ジ・アイライター)
キャリブレーションは意外と簡単。The EyeWriterの仕組みを使って、視線でキーボードを打つシステムをすぐに経験することができました。これからは簡単に、からだを動かさなくても、メジカラで文章は書ける! 
http://www.eyewriter.org/
http://portal.ycam.jp/asset/pdf/press-release/2011/labact-vol1.pdf

TECHTILE(テクタイル)
紙コップが線でつながっています。お互いに両端の紙コップを持ちます。相手の紙コップのなかだけにビー玉があるとします。相手が転がしたビー玉の感触が、こちらで再現されます。ビー玉がないのにまるでビー玉があるように感じられます。触覚版糸電話とでも呼べばいいのでしょうか。なぜか思わず笑ってしまう、とても不思議な感覚でした。
http://portal.ycam.jp/asset/pdf/press-release/2013/interlab-camp-vol2.pdf

JackIn、Parasight seek
ヘッドマウントディスプレイを装着。すると自分だけでなく4人の視点からの映像が同時に映っている。その中の1人に、目的地に到着させるためには、他の3人は果たしてどのような行動をとればいいのか? 他人の視点に没入すると、自分の視点が自分のものとは思われなくなったり、その逆もあったりと、面白い経験ができました。
http://www.ycam.jp/events/2015/jackin-workshop-vol4/

〇 バイオラボの説明
デモコーナーのお隣は、バイオラボ。こちらはさすがに中に入ることはできず、ガラス越しでの見学となりました。大きなバケツのなかでは何やら酵母が育っているようでした。「食」との関係も深いようです。
https://mtrl.net/blog/howtomakebiolab3/

〇 バックヤードスペース

搬入用エレベーターで2階に上がり(バックヤード感に気分も上がります!)、バックヤードスペースに入りました。そこには、IoTとFabとも関連の深い、3Dプリンタやレーザーカッターが設置されていました。義手・義足のテンプレーションを作るときもあるそうです。

その後は、研究室を横切らせてもらい、開発中の靴圧力センサ(フラメンコダンサーと作品作りの一環で使っている)のお話を伺ったり、映画館、スタジオBを通過して、ツアーは終了しました。

第2部 「福祉」を知る

ツアーで場の雰囲気があたたまった後、ワークショップを行いました。まずは、たんぽぽの家の小林大祐より、会場の参加者を福祉関係者とそうでない方々とに分け、次の質問が投げかけられました。

その1)福祉関係者でない方へ質問です。頭に浮かんだ、体で感じた、「福祉」のイメージをおしえてください!

すると、次のような答えがかえってきました。

・サポート。価値の共有を目的に支え合う。
・可能性の宝庫。チェレンジが見えてくる。未開拓な要素。
・木のイメージ。
・弱い立場の人々を社会全体で支え合う
・困った時に助けるイメージ。助ける力をたくわえている。
・杖(行動補助)のイメージがこれまであったが、子どもができてから、変わった。
・ケア・コミュニケーション。
・一生懸命お手伝いをしているイメージ。
・多様である。ソリューションも多様である。表現と障害。
・障害。マイノリティ。互助的にサポートし合う。公的な機関から与えられるもの。
・急に病気になってしまったおじいちゃんを助けてあげたい。
・手のひら

その2)福祉関係の方へ質問です。①施設の紹介をしてください、いつ、どこで、誰が、何をやっていますか? ②最近、課題に感じていることをおしえてください!

〇 Aさん
① 倉敷から帆布を仕入れ、年に3回、新作バッグを作っている。草刈りもやっている。
② 「ここに来てみたらおもしろね」というお店にしていきたい。関係のない人にも来てもらいたい。いろいろな人とつながりたい。自分たちだけでやるのは限界があるので。

Q 何人いますか? 
A 利用者さんは24名。基本的には自分のことは自分で出来る方。自力で車で来られる方も。利用者さんのうち14名がバッグ作りに関わっています。スタッフは園長ふくめ7名で、3名がバッグ作りをしています。

Q バッグのデザインはどうやっていますか?
A 身内で考えて、いろいろ試しながらやっています。

〇 Bさん
① 障害のある人がやりたいこと、できることを、支援している。収入アップも目指している。
② 30人来ている人のうち、週に5日通う人もいれば、1,2日だけの人も。施設にいるときは活動できていても、それ以外ではどうなのか。

〇 Cさん
① アトリエ事業部やプリント事業部、Tシャツを作ったりするところもある。自分はデザイナをやっている。
② 利用者さんに絵をかくことを教えることは基本的にはやっていない。どちらかというと自由度を上げることに留意している。

〇 Dさん
② 障害の程度によって、一日いくらというのが施設に入ってくる。職員のお給料もそれでまかなう。それなのに障害のある人に月額14,000円のお給料しか支払われないというのは、どうかと思う。いろいろな人が一緒に働けれるようにしたい。

〇 Eさん
① 43名が通所。アトリエ事業、プリント事業、清掃事業、あともう一つ、全部で4事業。
② グッヅを作るにも他の方が買いたいと思うものをうちの機材でつくるのは難しいなと。

第3部 「お互い」を知る

4テーブルに分かれて、課題整理と可能性と解決策の模索

ファシリテータ役が、たんぽぽの家の小林から、YCAMの菅沼さんにバトンタッチ。

福祉関係者を4チームに分け、福祉関係者以外の方々も4チームに分け、1つのテーブルに、福祉関係者とそうでない方のチームがそれぞれ一つずつ入るようにして、課題整理と可能性や解決策を話し合うことになりました。

福祉チームのテーブルは固定。およそ20分ごとに、福祉関係者以外のチームがぐるぐるとテーブルを移動し、組み合わせの入れ替えがありました。

テーブルごとに、ポストイットに、話し合いで出てきた、課題、可能性、解決策を書いて、貼って、全体の傾向を振り返りました。

ここで、本当にたくさんの、多様な意見が出てきました。同時多発的にいろいろなことが話し合われたので、全体的にこんなことが話し合われました~~!!と、ここで簡単にまとめることなど、正直に申し上げて、できません。歴史のねつ造、ウソになってしまうからです。

ただ次のことは言えるかと。それは、福祉という言葉は誰もが知っているけれど、多くの人がその実態についてほとんど知らない。福祉に携わっている人たちも、他所の様子はあまり知らない。でもなんとか、福祉を開かれたものにしていき、いろいろな知恵を取り入れながら、福祉を豊かなものにしていきたいと願っている、それを応援したいと思う人たちもたくさんいる。このことは確実に感じられた一日でした。

山口は、まずはゆっくりと、お互いを知っていきながら、プロジェクトの育ちを共有していきたいと考えた時間でした。

後安 美紀(一般財団法人たんぽぽの家)


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