メイカソン

METHOD | メイカソンと「その後」のコミュニティ

コミュニティ、共同体、支えあいや助けあい。人が1人では生きていけないことからも、その大切さや必要性は自明かもしれません。ただ、生活する時間の流れも、住んでいる場所も別々で、生きたい目的も異なる人たちが、どうやって似たような想いを寄せ合いながらコミュニティを生みだし、継続できるのでしょうか。2019年9月14日~15日にかけて開催したイベントとその後から考えてみます。

暮らしの道具をつくる:メイカソン

メイカソン」という造語があります。メイカソンは「Make-a-thon」と書き、Make(つくる)×マラソンをかけあわせた単語で、新たなアイデアを制限時間内にとにかく作りあげて、作品のコンセプト・アイデア性・完成度などを切磋琢磨するイベントです。

「~~ソン」という造語は他にも「アイデアソン」や「ハッカソン」といったものもあります。IT分野を中心に、2013年頃から話題にあがってきた共創・参加型のイベントで、いまではIT分野だけでなく、商品開発やまちづくりの文脈で開催もされています。メイカソンはとくに「Make=つくる」ことが特徴的です。

私たちは2019年9月14日~15日にかけて、奈良県香芝市にあるGood Job!センター香芝でメイカソンを開催しました。このときは3Dプリンターなどを活用して「暮らしの道具をつくる」をテーマに参加者を募りました。

画像1

開催のキッカケは「一般社団法人ICTリハビリテーション研究会」の林園子さんと、東京都品川区にある市民工房「ファブラボ品川」の濱中直樹さんから「2日間のメイカソンをやりませんか?」とお声かけいただいたこと。

ファブラボ品川は “作業療法士のいる市民工房” として非常にユニークで先駆的な活動をされています。子どもから年配の方までふらりと立ち寄れるように場がひらかれているのはもちろん、3Dプリンターの導入からレクチャーそしてメイカソンの開催など知見やノウハウを蓄積されています。

たとえば、3Dプリンターに興味を持った人が「何から始めたらいいか」といった不安を持ったときに、後ろからそっと背中を押してくれるような書籍を世に出してくれましたので、ぜひご一読ください。

また、障害のある人や高齢の人が、自分に合った道具を手に入れやすくなることを目指し、メイカソンで製作されたプロダクトを世界中の人々に広めるプラットフォームを作っており、2020年5月に国際的なメイカソンも開催されます。開催にむけてクラウドファンディングもされていますので、こちらもぜひご覧&応援ください!

メイカソンの目標

さて、今回開催したメイカソンに話を戻しましょう。

今回の目標は、

「障害のある人やその支援者」を中心に、6〜8人程度のチームを結成。3Dプリンタなどのデジタル工作機械も活用し、2日間で「その人にとって大切な暮らしの道具づくり」に挑むこと。

ファブラボ品川が開催するメイカソンでは、「障害のある人やその支援者」を「Need Knower(ニード・ノウアー)」と呼びます。これは暮らしにとって必要な物事(ニード)を知識や経験をもとに、意識的に(または潜在意識的に)知っている人として称しています。

メイカソンそのものは各地で行われていますが、今回のメイカソンで行なったことを記録としてポイントでまとめておきます。

メイカソンを開催するまで~当日の流れ

開催するまでにやったこと
(1) 使用する機材・材料や消耗品の確認と準備
(2) Need Knower への依頼
(3) 交流会の準備

(1) 使用する機材・材料や消耗品の確認と準備
3Dプリンター・3Dスキャナ・レーザーカッター・工具などの機器類、3Dプリントするための素材(フィラメント)、アイデアスケッチするためのシートなど、当日に必要なものを確認して、奈良-東京で準備物の役割分担をしました。

(2) Need Knower への依頼
Need Knowerとして協力を依頼するために事前にアンケートを行いました。「こんなものがあったら、あんなことができていいのにと思うこと」「なぜそれがあなたにとって大切なのか、もう少し詳しく教えてください」「たとえば、どのような場面で使いたい道具なのかを具体的に教えてください(いつ、どこで、誰と、何のために) 」といった内容のアンケートです。

今回は公募したというよりは、友人・知人からの紹介をとおしてNeed Knowerの依頼をしました。依頼した人の中には、メイカソンそのものには前向きにとらえていましたが、2日間かつ長時間ということもあり、体力的に難しかったり、スケジュール的に難しかったりという現実的な課題もありましたが、「それでも何とか参加したい」というNeed Knowerに対して「可能な範囲での参加方法」は考慮しておくべき工夫点だと感じました。

最終的には、4名のNeed Knowerが参加し、ざっくり言うと下記のようなニードでメイカソン当日をむかえることになりました(ちなみに、参加者はニードについては当日まで知りません。これは自分自身で当日にヒアリングするためです)。

・ギターが弾きたい!
・マスカラを綺麗に塗りたい!
・張り子をつくる道具がつくりたい!
・ナースコールを押しやすくしたい!

(3) 交流会の準備
参加費1,000円をいただいて、メイカソン(1日目)のあとの交流会で提供する食事や飲み物の準備です。交流会すらも「Make」するという意味では、参加者による1品持ち寄り型でも楽しいそうだなと今さらながら思っています。

続いて、開催した2日間について。

開催当日 1日目
① イントロ(団体や会場の説明、参加同意書)
② アイデアソン
  <2-1> Need Knower からニード説明
  <2-2> チーム分け
  <2-3> アイデアスケッチ
③ メイカソン その1
  <3-1> チーム内で製作物のアイデアおよび仕様を決定
  <3-2> 最初のプロトタイプの製作を開始
  <3-3> 中間発表 + 他のチームへの助言

開催当日 2日目
④ メイカソン その2
  <4-1> 最初のプロトタイプを製作(前日の続き)
  <4-2> 製作物のテスト → リ・デザイン → テスト を繰り返す
    (その間にプレゼン資料も作成する)
  <4-3> チームごとにプレゼンテーション
  <4-4> 参加者で感想シェア

ニードを自分事にするプロセス

今回のメイカソンの肝は、「<2-1> Need Knower からニード説明」のところだと感じています。前記のとおり、今回は4名から次のようなニードがあり、まだ参加者は知らない状態です。

・ギターが弾きたい!
・マスカラを綺麗に塗りたい!
・張り子をつくる道具がつくりたい!
・ナースコールを押しやすくしたい!

初めてニードを聴く参加者は、一体どうやってテーマを選ぶのでしょうか。実際にメイカソンを体験してみてそのプロセスがいいなと感じましたので紹介させてください。

まず、近くにいる6~7人を1グループにして、Need Knower 1名に対して1グループがそばに集まり、15分~20分ほど時間をとって、Need Knowerからのニードを聴いたり、質疑応答したりします。

画像2

そして、時間がたったら、グループがそのまま別のNeed Knowerのそばに移動して、また15分~20分ほど時間をとって、別のNeed Knowerからのニードを聴いたり、質疑応答したりします。全員のニードを聴いたらグループは1度解散し、参加者自身が関心のあるニードを選択し、チームに分かれます。

画像3

つまり、今回4名のニードがあったので、15分~20分×4名(60分~80分)も「<2-1> Need Knower からニード説明」に時間をとっているのです。これはNeed Knowerにとって、そして参加者にとって大切な時間だと感じました。

■Need Knowerにとって
ニードを話し続けることは大変だと思います。。。が、参加者から聴かれる内容が少しずつ違ったり、自分自身のニードの伝え方を少しずつ変化させてていくなかで、ニードに対する想いを整理したり、具体的に実現したいことをイメージしていくことにつながります。

■参加者にとって
Need Knower全員のニードを聴くことで、自分が関心のあるテーマは何かを考えたうえでチームに分かれるので「一緒につくる」ための動機づけが明確になります。さらに、中間発表やプレゼンテーションのときに、他のチームの発表を聴くときにはすでに全員のニードは共有している状態なので、感想や意見を言いやすくなり、別のアイデアにもつながります。

テーマによっては人数が偏ることもあるので、そのあたりを調整する方法(あるいは調整せずに突き進む)も1つのノウハウですね。

メイカソンの良いところは「多様な視点でニーズを聴き、本当に大切なことは何かを話しあい、とにかく形にする」ところだと思いました。

実際につくった製作物

具体的なニードと製作物に関する "ストーリー" と "データ" は「Fabble(ファブル)」という世界中のFabプロジェクトのためのプラットフォームで公開されています。今回の4つのニードに限らず、さまざまなものづくりが繰り広げられていますのでFabbleもぜひご覧ください。

・ギターが弾きたい!

・マスカラを綺麗に塗りたい!

・張り子をつくる道具がつくりたい!

・ナースコールを押しやすくしたい!

日々誰かをケアしている人"ならでは"の視点

今回のメイカソンは、ICTリハビリテーション研究会の人たちがサポーターとして来ていただいたこともあり、参加者のなかにも作業療法士など医療や福祉にたずさわる人たちが多くいました。

アイデアを出すときの言葉の端々に「あぁ、目の前にいる人の生活や想いに日々向きあってないと、その意見はでないよなぁ」という場面が何回もありました。

たとえば、「張り子をつくる道具がつくりたい!」というニードがありました。具体的には、ある商品をつくるために "塗り" の仕事があり、片手で商品を持って、もう片方の手で塗るという作業があります。ただ、右腕が動かしづらいので両手を使って行う作業が難しいのが現状です。

そのニードに対して、片手でムラなく塗れるように、張り子を固定する方法や回転方法を考え、レール上で移動と回転ができるようなモデルを採用しプロトタイプを製作しました。

画像4

このときに「片手でも作業ができるようにしたい」に焦点をあてると、どうしても「片手で作業できるように」と視点が向きがちです。

そのなかで参加者の1人が、「それだと、右手(動かしにくい手のほう)を生活のなかで動かさなくなるので、本来であれば右手を意識的に使い続けることでできることが増える可能性があるのに、道具によってその機会が失われてしまうので、レールの部分を右手で持つことも意識できたらいいのではないか」というような意見がありました。

「その状況をなんとかしたい」だけではなく「その後の生活にとってどうあったほうがいいか」という視点は、日々の生活を意識していないと出てこない発想で、福祉×技術の醍醐味の1つだと感じました。今回のメイカソンのような場に、医療や福祉にたずさわる人は積極的に参加し、自分たちのケア観のようなものを声に出して共有することは、これからのテクノロジーにとって大切なことだと思います。

「その後」のキッカケとなるメイカソン

イベントをやることが目的ではなく、今回のようなやりとりを日常化することや、それを下支えするコミュニティをつくることが目的でなければ「楽しかったね」と一過性の出来事で終わってしまう可能性があります。

メイカソンというキッカケを活用しなければもったいないし、その後のコミュニティをつくって維持するために、そのノウハウを蓄積している既存コミュニティも活用しなければもったいないものです。

たとえば、3Dプリンターを実際に活用している人向けのFacebookコミュニティで「ユニバーサルFabネットワーク」があります。ちょっとした相談から、マニアックな相談まで、気軽に相談できるコミュニティは必要です。

 ICT リハビリテーション研究会が3ヶ月に1度開催している「ものづくり成果発表会」もあります。3ヶ月に1度という少し先に発表する場があると、目標地点が生まれ、自分が何かをつくる動機付けにもなります。さらに言えば、「成果発表会」という名前の背景には "表現できる機会" と "それを無条件で受けとめる人たちがいる" という安心感があり、地域を越えて共有しあえる人たちとつながれるのは大切だと思います。

「3Dプリンター持っていない…」「自分で3Dデータをなかなかつくれない」そんなときにも、3Dモデリングから3Dプリントまでいろいろ手伝ってくれる「一般社団法人 障害者・高齢者3Dプリンタ・ファクトリー」という団体もあります。ぜひちょっとしたアイデアがあれば(なくても)相談をしてみてください。

今回のメイカソンは奈良で開催しましたが、滋賀、大阪、兵庫からの参加者もいて、関西圏でも3Dプリンターなどデジタル技術も使いながら暮らしの道具をつくる・つくりたい、そんな人たちが集まるグループをつくりたい想いから「関西アフターズスクール(仮)」というFacebookグループをつくっています。

メイカソンやワークショップなどで出てきたアイデアやプロトタイプをそのままで終わらせずに、「その後」に実際につくったり、勉強会などをひらくようなコミュニティです(名称には沖縄アクターズスクールに敬意も込めて)。

9月のメイカソンを終えてから、日をあらためて集まったり、プロトタイプをもとにデザインを改良したものをつくって共有したりしています。

まだまだ始まったばかりですので、コミュニティとしてありたい形を語りあいながら進めていきたいです。

画像5

コミュニティができそうなことの一例
・気軽に相談できる場 = オンラインによる相談や集まれる居場所
・スキルアップの場 = 機材講習やソフトウェアに関する勉強会
・アイデアやプロトタイプをやりきる場 = リ・デザインカフェ
・新たなNeed Knower に出会う場 = メイカソン
・物資的な支援や共有の場 = 組合のようなもの

「あったらいいな」と思うコミュニティは人それぞれにあり、「このコミュニティが正しい」とか言い始めたら、いつのまにか排他的なコミュニティになってしまいます。

福祉 × 技術 のコミュニティらしく、ときに包みつつ、ときに包まれつつ、ケアの視点からテクノロジーをアップデートしたり、テクノロジーの視点からケアをあらためて考えてみたり、新たな関係性を発見できたらなと思います。

(一般財団法人たんぽぽの家 小林大祐)

■告知
2020年2月1日(土)に、日本科学未来館で「IoT, Fab, and Community Well-being」をテーマに国際シンポジウムを開催します。スピーカー&パネリストともに魅力的なプログラムですのでぜひお越しください!

[IoTとFabと福祉 国際シンポジウム]
2020年2月1日(土) 13:00~17:20 ※展示は12:00~
日本科学未来館 7階 イノベーションホール
当日は同時通訳もございます
※お申込みは下記からお願いいたします


いいなと思ったら応援しよう!