自らの手でIoTをつくる / IoTとFabと福祉セミナー⑥
身体的なケア、人や地域とのつながり、表現や創作すること、学ぶことや働くこと、これらを支える技術として IoT の可能性があるけれども、福祉現場にとっては未知数なところも多く、楽しみながら受け入れることはまだまだ難しいかもしれません。
まずは「何ができそうか」「自分たちには何が大切か」「何から始められるか」を具体的な事例を学びながら福祉現場への活用を考えるため、「IoTの活用場所をひろげる:ものづくりとケアの現場から考える」をテーマにセミナーを開催します。
9月5日の登壇者3組目は、ソニーマーケティング株式会社の萩原丈博さんと、株式会社ソラコムの松下享平さん。
知識がなくてもIoTを体験できるようにとソニーが開発したMESH(メッシュ)と、つなぐ技術を簡単にするSORACOM(ソラコム)。
IoTを取り入れるための第1歩を習得することをめざします。
「つながったその先」を考えて実践できるMESH
IoTというキーワードは「モノのインターネット化」と訳されることが多いですが、IoTの特長の1つは「あらゆるものがつながる」ことです。
人と人のつながり、みたいなイメージはしやすいのですが、人とモノのつながり、あるいは、モノとモノのつながり、となった途端に「それの何が嬉しいの?」とイメージがわきにくくなるかもしれません。
たとえば、自動ドアの前に立つと、ドアは私たちを見つけてくれて、ドアを開けてくれます。水洗トイレのフタもそうですね。これは、私たちとドアやフタが何かしらの方法でつながらないとできないことです。
ほかにも、気温や湿度、太陽の光を把握してくれて、育てている花にタイミングよく霧吹きで水やりをする。この場合は、花と霧吹きがつながっています。
人とモノ、モノとモノをつなぐことで、「ドアを開けたい」や「花を大切に育てたい」という要望や想いに応える方法が1つ増えます。
まず理由や想いがあって、それを実現する方法として、自分とモノをつなげたり、モノとモノをつなげたりすることも選択肢の1つとして選べる。これも現代技術の発展によって得られた機会だと思います。
とはいえ、つながることをあまりイメージできないのに、つながったその先をイメージしてみてと言われても難しいものです。
自分と身の回りのモノがつながったり、身近なモノとモノをつなげたり、IoTをできるだけ簡単に体験できるものが必要になってきます。そこで、MESHの登場です。
MESHはソニーで開発された道具で、難しいプログラミングや電子工作の知識は必要なく、IoTを活用した仕組みも簡単に実現することができます。
7種類のカラフルなブロックがあり、1個の大きさは4.8cm。乾電池や消しゴムくらいの大きさです。何かに貼り付けたり、何かの中に入れたりしやすいように小さく軽く作ってあり、組み合わせることで可能性は無限大に広がります。
機能をざっくり説明すると、
①ボタンブロック:
ボタンを押すだけで何かを指示したり動かすことができます
②LEDブロック:
ライトが光ることでいろいろと伝えてくれます
③動きブロック:
振動や向きを検知します
④人感ブロック:
人がそこにいる/いないを検知します
⑤明るさブロック:
明るい/暗いを検知します
⑥温度・湿度ブロック:
温度/湿度を検知します
⑦GPIOブロック
(上級者向け)市販のモーターや他のセンサーをつないだりすることで、アイデアをさらに拡げることができます。
機能をシンプルにすることで想像力をはたらかせることができ、さらには機能を増やしたい場合にも対応可能なMESH。IoTの活用の第1歩を考えるアイテムとして頼れる存在です。
IoTの「つなぐ」を簡単に。
IoTが広く世の中に普及するためには、誰もが簡単にIoTを使えるようにする必要があります。
もし携帯電話やインターネットを使うときに難解な操作があったら、普及しなかったり、恩恵を受ける人はもっと少なかったかもしれません。
誰もが簡単にIoTを活用できるような土壌と、さまざまなサービスを開発しているのが株式会社ソラコムです。
まず、ソラコムは電気通信事業者です。
【電気通信事業者】
一般に固定電話や携帯電話等の電気通信サービスを提供する会社の総称。「音声やデータを運ぶ」というところから通信キャリアや通信回線事業者と呼ばれることもある。有名どころでは、NTTドコモ、KDDI、ソフトバンク。
IoTの活用における課題の1つに「通信」があります。
「Wi-Fiが飛んでないなー」という会話が日常的にかわされるほど、私たちはWi-Fi、Bluetooth、5Gなど無線通信という技術をあまり意識せずに使うことができています。
それこそ山間部に行ったり地下に入ったりすると「電波ないなー」と意識したりします。では、そのような場所でも IoTを活用したかったり、家にあるモノで気軽に通信を始めたい(つなぎたい)ときはどうしたらいいのでしょうか。
そこで登場するのがソラコムが提供しているIoTプラットフォーム「SORACOM」で、モノとモノをつなぐ通信技術のハードルをさげてくれています。
プラットフォームというのは基礎となる土台のようなもので、その上にさまざまなサービスを開発していきます。
SORACOMを活用している企業は多く、著名な製品やサービスだと、WHILL(電動車いす)、otta(見守りサービス)、D Free(排泄予測)、ポケトーク(通訳)をはじめ、コマツ、パナソニック、キャノンなどの大手企業にも導入されています。
私たちが手に入れることができるサービスの1つとして「SORACOM Air」というものがあります。
携帯電話の中にはSIM(シム)という小さなカードが入っていて、それによって契約者情報が分かるので、電話やインターネットなど通信ができるようになります。
それと同じように、IoT用のSIMをSORACOMが準備してくれます。
携帯電話と大きく違うのは、〇〇ショップみたいにどこかの店舗に行って契約するのではなく、ウェブサイトで1枚から購入可能で、数千円の費用でIoTを試すことができます。
少しだけ技術的な話にふみこむと、IoTを実用する段階になると、消費電力やバッテリー、通信エリア、通信速度、通信量、通信コストなどを現実的に検討する必要があります。
たとえば、何か故障がないか点検するために月1回の通信ができればいいのに、月額で数千円の通信料金を支払ったりするのは割に合わない。
あるいは、遠方のモノとつなぎたいが、わざわざ電気を通して電源を引っぱってこれないので、消費電力は小さく長持ちしてくれるほうがいい。
など、希望する条件や状況は人それぞれです。
そういったニーズもあり、消費電力を抑えながらデータを遠くまで送信できる無線通信技術LPWA(Low Power Wide Area)も整備されています。
ちなみにLPWAを何と読むのか調べたところ「エルピーダブリューエー」と読むそうです。覚えれそうにないのは私だけでしょうか。。。Bluetoothが登場したときも、きっと「ブルートゥース?」となったと思うので前向きに考えたいと思います。
さて、
通信方法について、求める条件や希望が人それぞれあるなかで、SORACOMでは通信量やデータ送信頻度が少ない人や、できるだけ安い通信料金で使いたい人などに合わせて、月額45円からの少量データプランもあります(2021年8月時点)。
もちろん、SIMカードを入れる機器を準備する必要があったり、別で費用がかかることは考慮しておくべきですが、それでも数千円から始めることができることは、IoTを活用する土壌ができていると感じています。
自らの手でIoTをつくる
MESHやSORACOMなど製品やサービスの改良や新開発を進んでいくことで、IoTの「つなぐ」がさらに簡単になっていくことを期待するとともに、その活用シーンを福祉現場が自らひろげていく必要もあると思います。
「自ら」と言っても、テクノロジーに馴染みのない人にとって1人でやるというのは無理が生じます。また、日々の福祉現場のなかでテクノロジーを取り入れることを負担に感じることもあるかもしれません。
一方で、テクノロジーとできるだけ関わりやすくするために、技術的なハードルを下げるMESHやSORACOMのような事例も生まれてきています。
今回セミナーでご登壇いただくお二方
ソニーマーケティング株式会社 萩原丈博さん
株式会社ソラコム 松下享平さん
とともに、MESHとSORACOMの事例を通して、「何から始められるか」IoTの活用にむけた第1歩を考えたいと思います。ぜひ、ご参加ください。
(text:一般財団法人たんぽぽの家 小林大祐)
【MESH】
https://meshprj.com/jp/
【SORACOM】
https://soracom.jp/
【参考・引用】
■ LPWAに関する無線システムの動向について(総務省)