PROJECT STORY part.01 「パフォーミングアーツの広場に関して」障害とアートの相談室
障害のある人が関わるパフォーミングアーツ・プロジェクトや作品動画を紹介するプラットフォームサイト「パフォーミングアーツの広場」がオープンしました!
PROJECT STORY part.01
「パフォーミングアーツの広場について」
このサイトの見どころや使い方、今後の展望など、プロジェクトストーリーをたんぽぽの家のスタッフで「障害とアートの相談室」担当者に聞いてみました。下記はそのインタビューです。サイトとあわせてご覧ください。
語り手:中島香織、大井卓也(一般財団法人たんぽぽの家)
佐藤拓道(たんぽぽの家アートセンターHANA)
聞き手:奥田奈々子
──まずはこのサイトについてお伺いさせてください。
大井:このサイト「パフォーミングアーツの広場」は障害とアートの相談室が運営する、障害のある人が関わるパフォーミングアーツ・プロジェクトや作品動画を紹介するプラットフォームサイトです。たんぽぽの家アートセンターHANAが取り組む演劇創作プログラム「HANA PLAY」の過去上演作をはじめ、障害のある人が関わる演劇・舞踊などの身体表現〈パフォーミングアーツ〉作品や活動をオンラインで紹介していく予定です。たんぽぽの家では2020年にも、「障害のある人のパフォーミングアーツ」としてオンラインでのショーケース公演を行っていて、近畿2府4県から集まった6団体で、即興演奏や演劇、人形芝居やちんどんなどのパフォーマンスをアトリエ みつしま Sawa-Tadoriという会場からライブ配信をしています。さらに今年は、コロナ禍で出演者がひとつの会場に集うということも難しいタイミングになってしまったため、映像作品をウェブサイトに集める形でオンラインショーケースの実現を試みたというのが経緯です。
──オープニング作品の5作品はどのように選ばれたのでしょうか。
大井:選定作品は福祉施設だけでなく個人や任意の団体など規模、形態もさまざまです。パフォーミングアーツという括りのなかでもなるべくバリエーションが見せていけたらという思いで、オープニングの5作品を選び、お声がけさせていただきました。多様な活動や活動体の存在を紹介することで、これから障害のある人とパフォーミングアーツに取り組みたいという人たちに向けて福祉施設でないとできないとか、外部から有名な講師を呼ばないとできないということではなくって、どんな形でもやり得るということがお伝えできたらいいなと思います。
──それぞれ見どころがあれば教えてください。
中島:滋賀の劇団まちプロー座さんの演劇作品『紫の夜が明けるとき』は、障害ということを真正面から考える作品で、出演者どうしの対話がみどころかなと思います。大阪府のぬくぬく座さんは「人形芝居」というジャンルです。『ひょっとして、白雪姫!?』という作品の中ではペットボトルだったり身近なもので作った人形と、メンバーとが入り混じった作品なのですが、人形があることでメンバーの個性も増幅するような感じがして演劇とはまた違った面白さがあると思います。
『紫の夜が明けるとき』(劇団まちプロー座)[演劇作品:68分・日本語字幕] ※ 2022年3月31日(木)までの期間限定公開
ひょっとして、白雪姫!?(人形芝居ぬくぬく座)[人形芝居:26分・日本語字幕]
大井:和歌山県の野澤大輔さんは、パン作りが趣味のシンガーソングライターです。たんぽぽの家では、全国から寄せられた障害のある人の詩に曲をつけて披露する「わたぼうし音楽祭」を毎年開催しているんですが、野澤さんも2021年に開催した音楽祭に応募いただき、審査員特別賞を受賞されています。今回改めてお声がけし紹介させてもらいました。
中島:「僕の1日」は朝起きて仕事をして家に帰って寝るまでを作詞作曲した作品なんですけど、一言目の「朝起きて」のはつらつさや、細馬宏通さんのコメントも合わせてぜひ聞いていたいです。
「僕の一日」作詞作曲:野澤大輔 [ミュージックビデオ:7分・日本語字幕/手話]
──たんぽぽの家HANA PLAYの作品に関しては、後ほど詳しくお伺いさせてください。神戸の音遊びの会の作品はいかがですか?
中島:ちょっと長くなっちゃうんですけどいいですか笑。この活動「音遊びの会」は月2回のワークショップと年に1回ほど、舞台公演をしているのですが、わたしも学生時代から関わっていたんです。舞台公演で参加者が輝くというのはもちろんなんですが、普段のワークショップこそ面白いんです。その日の参加者で自由にセッションをしていくのですが、例えば聞いていてちょっと気が遠くなるくらい長いセッションがあったりして……。正確にいうとおもしろいのかどうかもよくわかんんないんですけど、なんだこれは、っていう笑。こうした表現も含めて受け止められる場ってなんて豊かなんだろう、と思ったりして、どうにかして、多くの人にそのさまを見ていただけないかと思い、今回はあえて、ワークショップの記録動画としてお届けすることにしました。
音遊びの会 ワークショップの記録 2021.7.25 2021.10.31(音遊びの会)[ドキュメンタリー作品:41分]
──サイトには作品を見た方のコメントも掲載されていますね。
中島:よく映画の広報とかで、映画を見た有名人のコメントなどがありますよね。あんなイメージです。動画提供にご協力いただいた方々にも、自分の活動やパフォーマンスがどのように受けとめられているのかを知ることにもつながったらいいなと思いました。どういうことかというと、中で活動をしているとこうした反応が見えなくなる部分があるのですが、外部の視点から捉えてもらうことで、自分たちの活動の価値や魅力を再発見できるのではないかなと。ウェブサイトを訪問していただいた際に、参考にしてもらえたら嬉しいです。
──上映作品にはたんぽぽの家 アートセンターHANAで行っている演劇プログラム「HANA PLAY」の最新作も含まれています。HANA PLAYの取り組みと佐藤さんの関わり方にについてお聞かせください。
佐藤:「HANA PLAY」は毎週火曜に活動している演劇プログラムです。現在アートセンターHANAの9名のメンバーが参加をしていて、メンバーの実体験をもとに演劇作品をつくって発表しています。僕自身も俳優をしているのでそんな経験を活かしながら、HANA PLAYの運営や構成演出を担当しています。参加メンバーのその人らしさや日常生活の中での魅力を引き出せたらいいなと思ってやっています。
昨年12月に上演されたHANA PLAYの最新作「贅沢な時間」のフライヤー
──実体験をもとにした作品というと?
佐藤:日々のケアの現場のなかでメンバーから、日常のほんとうにちょっとしたことや過去の恋愛話などを聞くことがあるのですが、それがめちゃくちゃおもしろいんですよ。「HANA PLAY」でも、以前は民話などをベースにした演劇に取り組んでいたんですが、よくよく聞いてみるとメンバー自身がその内容を十分に理解しないまま、稽古を重ねていたことがわかりました。そこでみなさんの実体験を作品のもとにすることを思いついた感じです。昨年末上演した「贅沢な時間」も、メンバーの実体験をつないで、できた作品です。この「贅沢な時間」ですが、創作過程を記録した書籍を4月に販売予定です。
──おお、刊行おめでとうございます。詳細は別途ご紹介させてください。書籍のおすすめポイントはありますか?
佐藤:書籍『贅沢な時間をつくる』の中では、作品の構想から上演までの悲喜こもごもをわかりやすく伝えています。演劇にたずさわる方のみならず、福祉関係の方にも読んでいただき、実践していただけることを願って制作した書籍なので、ぜひ手にとっていただけたら嬉しいです。
──2019年以降続く新型感染症拡大の影響で、これまで通りの練習や公演ができないなど演者、身体表現を行う人たちが受けた影響も大きかったのではないでしょうか。こうした状況を受け、工夫をされた点などがあれば教えてください。
佐藤:12月に上演した作品「贅沢な時間」は。近畿大学で舞台芸術を専攻している学生とのコラボレーション作品です。9月以降に学生が参加する予定で進めていたのですが、感染者が増えたため、直接会っての稽古は全部で4回になりました。それ以外の稽古はオンラインで行って、セリフ合わせをしたり、こっちの稽古をみてもらったり、工夫した点はそんなところでしょうか。やっとあえたときは喜びが増しました。
──なるほど。オンライン稽古を効果的に使われたんですね。
佐藤:2021年の3月には鳥の劇場・日韓共同プロジェクトとして韓国と日本の障害のある人がひとつの台本をもとにそれぞれに作品をつくって同時期に上演するというリーディング公演を行ったんですが、制作過程の韓国チームとの意見交換や、配役の同じ障害のあるメンバー同士が意見交換をしたり、こうしたシーンでもオンラインが役立ちました。
──HANA PLAYでは演劇以外にダンスプログラムにも取り組まれています。ダンスプログラムもまたオンラインにて行われたのでしょうか?
佐藤:はい。海外のコンテンポラリーダンスフェスティバルに出品するための映像作品を、海外の障害のある人やダンサーと協働してつくる、といったことにも挑戦しました。直接会うことができないというもどかしさもあるんですけど、一方で画面を通しでだからこそ参加できるメンバーがいたりします。こうした点ではオンラインの有効性を感じました。
──最後に今後、「パフォーミングアーツの広場」の展開や展望があればお聞かせください。
大井:今回はオープニングとしてこちらがセレクトした作品をお届けしましたが、ウェブサイトをご覧いただいた方の情報なども寄せていただき、掲載作品を増やしていきたいと思います。ぜひ「障害とアートの相談室」までご連絡いただけたらうれしいです。
中島:ある人から聞いた話です。遊び方が決まっていない場所、そのときどきでそれぞれが持っているものを持ち寄って遊び方から考える場所、それが広場だそうです。「パフォーミングアーツの広場」を訪れたら障害のある人の関わるパフォーミングアーツの多様な作品が見られる、関心のある人とつながれる、そうした広場として楽しんでもらえるようなウェブサイトになるようみなさんからの意見を聞き、自分たちの関心事も深掘りしながら、今後も展開していきたいと思います!
[News] 4月上旬に書籍『贅沢な時間をつくる ~ 障害のある人との演劇創作 ~ 』が発売予定!
発売:4月上旬 価格:800円(税別)
この本について
たんぽぽの家アートセンターHANAの演劇プログラム”HANA PLAY”のワークインプログレス公演「贅沢な時間」の創作過程を追ったドキュメントブックです。障害のある人との演劇創作がどのように行われているのか、関わった障害のあるメンバー、スタッフ、外部の学生の皆さんがどのような思いで作品創作にあたったかをインタビューも交えて紹介しております。障害のある人との創作活動に興味のある方やさまざまな方に、お楽しみいただける内容になっております(佐藤拓道 たんぽぽの家アートセンターHANA)
発行日:2022 年 3 月 31 日
発行元::社会福祉法人わたぼうしの会
企画・編集:佐藤拓道、藏元徹平、吉永朋希(たんぽぽの家アートセンター HANA)
編集・執筆:篠田栞
デザイン:吉川なの葉
写真:草本利枝
写真提供: マガジンハウス〈こここ〉編集部 / 撮影 : 加藤甫、衣笠名津美、
たんぽぽの家アートセンター HANA
題字:水田篤紀(たんぽぽの家アートセンター HANA メンバー)
イラスト:松本悟(たんぽぽの家アートセンター HANA メンバー)
協力: [近畿大学文芸学部芸術学科舞台芸術専攻・矢内原ゼミ]
合田聖、中村亮太、細川千恵子、寳城千尋、増田愛菜、安田麻姫、廖于婷、矢内原美邦教授
池上恵一、是永ゆうこ、鈴木悦子、もりながまこと
問い合わせ:〒630-8044 奈良県奈良市六条西 3-25-4
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