『デザインのまなざし』のこぼれ話 vol.2
マガジンハウスが運営している、福祉をたずねるクリエイティブマガジン「こここ」で、グッドデザイン賞の連載『デザインのまなざし』の最新エピソードが公開されました。
2回目に登場してもらったのは、2016年度グッドデザイン賞を受賞した「TSURUMIこどもホスピス」を運営する公益社団法人こどものホスピス プロジェクト代表理事の高場秀樹さん、アシスタントケアマネージャーの市川雅子さん、ホスピススタッフの西出由実さんの3人です。
「TSURUMIこどもホスピス」は、難病を抱える子どもとその家族が過ごすための場所。2016年4月の誕生以来、日本初のコミュニティ型子ども向けホスピスとして、企業や個人の寄付によって運営されてきました。
開設から5年が経過し、今もなお運営資金のほとんどを寄付でまかなうこのプロジェクトは、何をデザインし、子どもたちとその家族の人生にどう関わろうとしているのか。それぞれの立場で現場と向き合っている3人に、お話を伺いました。
そして、このnoteでは、本編からはこぼれたお話として、代表理事の高場さんが、このホスピスに対して情熱を持ち続けることができる理由を、ご本人の思い描く、豊かな「公と私」のあり方を通して、お伝えします。
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―高場さんは現在、代表理事という立場ですが、どういう経緯でこのプロジェクトに携わることになったのでしょうか?
高場:2009年に大阪市中央公会堂で「子どものホスピス ヘレン&ダグラス交流セミナー」というシンポジウムがあって、僕は患者の親という立場で参加していたんです。そこで、イギリスにある世界初の小児ホスピスの「ヘレン&ダグラスハウス」を創設したシスター・フランシスの講演を聞いて、感銘を受けて。
しかも、日本でも「小児ホスピスを設立したい」と言っている人たちがいるらしいぞと耳にして、医師の原純一さん(現・〈こどものホスピスプロジェクト〉副理事長)や多田羅竜平さん(現・同常務理事)に出会いました。
その後、団体設立準備のために僕が経営する会社のオフィスの一部を使うことになって。次第に「法人の作り方も知っているので僕がやりましょうか?」「代表も、暫定でよければ引き受けます」「建物にもこだわりたいです」……とやっているうちに、今に至るという感じですね(笑)。
以上本編より −ここからこぼれ話−
高場:僕は若いころからずっと、ある意味、一生のテーマとして、「豊かさって何なんだろう」ということを考えていました。その中で、「私」だけでなく「公」も含めた両軸がないと、「豊かさ」を見出すことができないという感覚を持っています。
その「公」と「私」の両方を豊かにしていきたいと考えたときに、じゃあ「公」に当たるものはなんなのか、ということを探していたのが、この立ち上げの時期でもあったんです。
高場:「私」の面を豊かにするというのは、家族を持つとか、自分の営む事業を発展させることを通じて所得を増やしていくとか、そういうことですけど、「公」の場合は、全然違う領域で、社会の役にたつことをする必要があります。
だから僕は「TSURUMIこどもホスピス」では、お給料をもらっていません。むしろ毎年そこそこ寄付をしていますし、まったくもってボランタリーな取り組みなので、やればやるほどお金がかかる(笑)
西出:実際、高場は、立ち上げ以来ずっと「TSURUMIこどもホスピス」の一番高額のマンスリーサポーター*なんですよね。
高場:この活動は、自分にとって、まさにずっと探し求めていた「公」の面を豊かにしてくれるものとして、カチッとはまりました。だから、いまだに情熱が枯れることなく、続けられているんです。
つまり僕はいま、すごく豊かっていうことになるんですね(笑)