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町に調和する建築としての集合住宅〜2021年度グッドデザイン賞 審査ユニット12(建築(中〜大規模集合・共同住宅))審査の視点レポート

グッドデザイン賞では、毎年その年の審査について各審査ユニットごとに担当審査委員からお話する「審査の視点レポート」を公開しています。グッドデザイン賞では今年、カテゴリーごとに18の審査ユニットに分かれて審査を行いました。審査の視点レポートでは、そのカテゴリーにおける受賞デザインの背景やストーリーを読み解きながら、各ユニットの「評価のポイント」や「今年の潮流」について担当審査委員にお話しいただきます。
本記事では、審査ユニット12(建築(中〜大規模集合・共同住宅))の審査の視点のダイジェスト版をレポートします。
ダイジェストではない全部入りは、YouTubeで映像を公開していますので、よろしければこちらもどうぞご覧ください。

2021年度グッドデザイン賞審査の視点[Unit12 - 建築(中〜大規模集合・共同住宅)]
担当審査委員(敬称略):
猪熊 純(ユニット12リーダー|建築家)
駒田 由香(建築家)
林 厚見(建築/都市プロデューサー)
山﨑 健太郎(建築家)

今年の審査を振り返って

猪熊 このユニットの応募対象である中〜大規模集合住宅は、領域的にはアグレッシブに実験的なことをできる機会はそう多くはないのではないかと推察されます。一方で、出来上がったときのボリュームという意味では、グッドデザイン賞の全審査ユニットの中でもおそらく相当大きいもので、総量としての大きさから見ても、責任が重い分野でもあると思っています。
今年のグッドデザイン賞のテーマとして「希求と交動」というキーワードがあげられていました。そのテーマに照らし合わせて、未来に向けて、次世代につなげて、いいものを広めていったり、あるいは価値を高めていくようなものが、小さな卵のようなものでも見られるかどうかということが大事だったのではないかと思っています。
計画的な部分で工夫が見られることや、地域貢献や取り組みなど、いろんな側面があると思うのですが、そういった課題が統合的に解かれているか、というところを見ていたと思います。
今回、増えてきたのが技術的な提案で、木造のものも多く見られました。寮のような提案も多かったので、そういう意味では共用部の計画的な工夫も重要だったのではないかと思います。
それらがピンポイントのアイデアではなく、建築全体で統合的に解かれているものがあれば、やはりそれはすばらしいものだったと思います。

集合住宅 [プラウド神田駿河台]

集合住宅 [プラウド神田駿河台](野村不動産株式会社)

猪熊 木造を中規模以上の集合住宅へ取り入れたものが近年多くなっています。今年も幾つかの提案が見られました。その中で、この「プラウド神田駿河台」が特にチャレンジをしているということで評価をした点は、木造というのは分譲集合住宅ではなかなかハードルが高く、技術的にも品管的にも予算的にも恐らくとても難しかったかと思うのですが、それを乗り越えて挑戦をしたことに対して高い評価ができたのかなと思います。ただ単に技術を取り入れたから良いというだけではなく、高層建築で意匠的に見せていく部分が難しいとは思うのですが、そういったところもさまざまな工夫をして、結果的に外観にも内装的にも天然の木をきちんと見せていく部分をつくっていて、興味深く映りました。
分譲集合住宅ではクレームに対する予備的な対応として、クロスを使わざるを得ないことが多く、建具の枠でも木が使えないようなスタイルが多いかと思うのですが、木造というコンセプトで、内装に天然の木が使われるようになったということは、構造として結果的に新しいチャレンジになっていました。これによってこれから内装の考え方が変わっていくと、また面白いのではないかと感じています。

駒田 昨年のグッドデザイン・ベスト100でも、都市木造、高層の木造として竹中工務店の寮が選ばれていました。今回、日本初の高層分譲集合住宅で木造を取り入れたいうところに大きな意味があるのかなと思います。こういったことを野村不動産のような大きな会社が手がけていくことで、技術が広まっていく一歩になるということは、大きな意味があるのかなと思いました。

リノベーションによる多世代居住の場づくり [リエットガーデン三鷹]

リノベーションによる多世代居住の場づくり [リエットガーデン三鷹](株式会社ジェイアール東日本都市開発+株式会社リビタ+株式会社成瀬・猪熊建築設計事務所+株式会社長谷工リフォーム)

山﨑 こちらは、既存のストックの利活用という文脈で、お手本になるようなプロジェクトだと思います。既存の風景をうまく上書きしているようなデザインの手法が秀逸だと感じました。風景を劇的に変えるのではなく、柔らかく上書きして、それでいて抜けのある新しい風景を作っているということに驚きました。
中のスペースも絶妙に密度がコントロールされています。既存建築で密度を上げていくということは難しい作業だと思うのですが、過不足なくテラスが挿入されていたり、あるいは既存のキッチンの角度が振られていたり、適切なスケールや密度感を少ない手数で実現しています。そういう意味でも既存のストックの利活用という点でとてもお手本になるプロジェクトだと思いました。

駒田 建て替えれば、容積を目いっぱい使って経済効率を高めることができるところを、あえてリノベーションという道を選んで、風景や樹木を残して活用しているという点も評価の高かった点だと思います。

社員寮 [RESIDENCE FUJIMI]

社員寮 [RESIDENCE FUJIMI]( 株式会社竹中工務店)

山﨑 こちらは社員寮で、九層くらいあります。ですから都市に対してかなり大きな面を作ることになるのですが、これだけポーラスな顔付きを作っているということは、とても大切なことだと思いました。例えば都市では、人が活動しているところなどの風景を見て楽しむこともできるわけですが、これだけ大きい面にテラスが挿入されていて、そこで社員の方々がくつろいでいるところが通りから見えるというのは、楽しい風景になると思います。こういう大きな建物で都市に対して顔を作る。都市に住まう豊かさというのが感じられるという点は、豊かで楽しいことだと思えるのです。なおかつ、このスレンダーなグリッドは意匠的に効いていて、住戸の中も同じコンポジションでできているので、中に住んでいる住戸の人たちにとっても快適な生活空間が作られています。都市の中で住むということがとても楽しめるデザインになっているのではないかと思います。

猪熊 ベスト100プレゼンテーションのときに、外の共用部がかなり使い込まれているという話がありました。生活の一部として外を使いこなすことが起こるところまで計画がうまくいっていて、寮は楽しく住めることも重要だと思いますので、評価がさらに上がりました。

定期借地権付き分譲注文住宅 [風花山本]

定期借地権付き分譲注文住宅 [風花山本](株式会社沖田)

 こちらは心に染みるストーリーを感じたプロジェクトでした。定期借地権付きの分譲集合住宅で、個人オーナーがいて、地元の工務店さんがいろいろな形を提案して、どういう事業にしたらいいだろうという検討の結果として、自然で気持ちのいい風景が生まれています。まず事業の仕組みがデザインされ、その結果、均質的ではない作り方の街区が生まれました。一方で、1人のデザイナーが全部決めるということではなくて、住みたい人たちの個性が表現されながら、空地や風景の在り方に適度なガイドラインが設定されているという状況があります。柔らかい風景と自然な住まいの集合が生まれるという、通常のマーケットの中ではなかなか生まれないような状況が発生している点で、魅力的なプロジェクトだと思いました。ぜひ今後さらに広がっていってほしい考え方だと思います。

駒田 適度なガイドラインというのがいい方向に働いた事例だと思います。それによって、自分の借地部分もみんなで共有しているような印象がうかがえます。みんなで育てていくという意識がよく伝わってきました。大きいプロジェクトではないのですが、とてもいい試みだと思いました。

集合住宅 [鵠ノ杜舎]

集合住宅 [鵠ノ杜舎](株式会社ブルースタジオ+株式会社湘南ユーミーまちづくりコンソーシアム+株式会社marukan)

 これは「風花山本」とも似たところがあるのですが、町の在り方をよく考えて作られたプロジェクトだと思います。これも仕掛けとして、空間のデザインが人間関係をどのように考えているかということを中心に空間設計されています。ソフト面では、所有権の小口化が行われていて、ある種のクラウドファンディング的なものですが、関わる人をどう増やしていくかという視点が一貫して考えられています。それが建物デザインに反映されているということが特徴的だと思いました。量産される多くの住宅プロダクトに対して、都心ではなかなかできないような魅力ある暮らし方というのはどっちに向かっていくべきだろうということが提案されています。閉じたものではなく、豊かな関係性があってこその幸せな家ということがとても素直に表現されたプロジェクトだと思いました。今後、どういう生活ができていくのかをぜひ引き続きウォッチしたいなと思います。

集合住宅 [ZOOM横浜関内]

集合住宅 [ZOOM横浜関内]( 株式会社トーシンパートナーズ)

山﨑 これも都市の中で大きな面を作ってしまう共同住宅に対して、均一的な都市のファサードを作るのではなく、もう少しデザインしようという試みです。例えば、バルコニーや手摺、雨樋のようなデザインの要素は巧みにデザインされています。薄型のコンクリートパネルが採用されて、このファサードを作っているのですが、共同住宅たらしめる風景をうまくデザインすることは大変だっただろうと思いました。
町の大きなファサードを作るときに、どういうふうにデザインしていけばいいのかということは難しい取り組みだと思うんです。それに対して、このようにデザインされた都市のファサードを作ったということに、この設計者の努力を感じます。非常にチャレンジされたということを評価したいと思いました。

猪熊 ひとつこういう事例が出てきて、こういうことがあり得るんだということを多くの方が知る機会になりましたので、ぜひ、今後もファサードにはチャレンジし得るという提案を期待したいと思います。

集合住宅 [リビオレゾンTHURSDAY調布]

集合住宅 [リビオレゾンTHURSDAY調布](日鉄興和不動産株式会社+株式会社リビタ)

駒田 これは調布にあるシングルや少人数の家族のためというコンセプトのコンパクト・マンションです。郊外型で、比較的面積が抑えられたマンションですが、植栽などの外構計画に力を入れています。足元の緑だけではなく、上階にも垂れ下がるような植物を配置しています。この地域にあった50種類くらいの植物を採用していて、一般的なマンションの植栽計画とだいぶ雰囲気が違う感じがありました。共用部にはセカンドリビングという空間があって、ゲストルームとして使ったりもできるそうです。専用部の延長として気分転換ができるスペースが作られています。建物の名前がTHURSDAYですが、木曜日はお出かけの予定が入りにくいということで名付けられたそうです。その後コロナ禍になって、家からリモートで仕事をする人も増えたので、そういった意味では、少し先取りをしたところもあったということで高い評価を得ました。

共同住宅 [甲佐地区住まいの復興拠点施設]

共同住宅 [甲佐地区住まいの復興拠点施設](株式会社岡野道子建築設計事務所+有限会社ビルディングランドスケープ+株式会社ライト設計)

猪熊 こちらは熊本地震の被災地のプロジェクトということで、大変難しいプロジェクトだったと思います。それぞれの住宅が実は前庭を持っていて、共用部扱いとなっています。実際にはランドスケープとして前庭のように見える扱いを巧妙にしていて、結果的に塀を立てずにプライバシーが守れているような、細やかな計画もなされています。配置とランドスケープ面での評価が高かったと思います。庭のところにプールを出して使っている家庭もあるという話も伺って、設計者が意図したことがきちんと結果につながっていることもすばらしい点だと思います。そうした部分もセットで計画するようなことも、今後につながってほしい取り組みだと思います。

社員寮 [深江竹友寮]

社員寮 [深江竹友寮](株式会社竹中工務店)

駒田 こちらの会社では、新入社員全員が1年間この寮で共同生活をするというシステムになっているそうです。今までは相部屋だったところを個室化したり、さらなる交流を促したい、という観点から建て替えというプロジェクトになったそうです。個室にすると面積が足りなくなってしまうので部屋を広くできない。交流する場所を小さくすることもできないということで、個室のある部分を上下二層にしています。そのように空間をうまく活用しながら、大きなリビングのような場所を作っています。
この計画がよかったのは、大きな抜けた場所だけではなくて、廊下の奥が少し広く取られて、数人で集まれる場所になっていたり、そういう場所がそこここにあって、自然に交流ができるだろうと思わせる点です。ここで1年間一緒に生活をして、いろいろなネットワークができそうな場所だなと思いました。共有部とつながれるシーンと、自分だけの空間ができるシーンをうまく作っています。全体に完成度の高い計画ということで評価が高かったです。

共同住宅 [アネシス茶屋ヶ坂]

共同住宅 [アネシス茶屋ヶ坂](清水建設株式会社)

山﨑 こちらも集合住宅の木質化案件ですが、この建築で重要なのはRC造と木質のハイブリッドだということだと思います。共同住宅の間仕切壁、戸境壁のような性能が必要なところはRCで造られています。木質にできるところは木質で造り、使い分けがうまくなされています。最近の流れの中で、木質化をしなければいけないとかSDGsに配慮しなければいけないというような大きな目的があるわけですが、木質化することが目的になりすぎて空間がプアになったり、無理して木質化をするとか、そういうふうになりがちなところを適材適所にすることで解決しています。そうすると空間としてもデザインとしても洗練された印象にもなりますし、無理なく木質が使われるというのはすばらしいことだと思いました。このプロジェクトのすごく象徴的なところは、立面に外壁にも木質を使っているのですが、コンクリートの打ちっぱなしと木質の積層された雰囲気を同時に合わせているというのは、おそらく設計者のある種の美学なのかもしれません。こういう見せ方をしてもらうことで、どうしても木質化しなければいけないということではなく、美学をきっちり反映させて、なおかつ社会問題をしっかり解決していくということが重要なのだと感じさせられました。

猪熊 これは本当に合理的ですごいなと思いました。無理がないというか、適材適所というか、素材の特徴も生かされていて、教科書のようなすばらしい提案だなと思います。ここまできれいに収めることができるのは設計者のスキルだと思うのですが、アイデアの汎用性も同時に持ち合わせている点もすばらしいと思います。

まとめ

駒田 今回、より顕著になった傾向として、共同で生活する寮だったり、都市木造集合住宅だったり、大規模なリノベーションだったり、地方での新しい分譲住宅の在り方だったり、非常にバリエーションがあることを感じています。今後も新しい集合住宅の在り方をまた見せていただけることを期待しています。

 中〜大規模集合住宅というのは、経済的な制約と創造性の険しい戦いという部分が常にあるわけですが、いろいろな発想やチャレンジを見せていただいて、学びもあり、面白く審査に取り組ませていただきました。やはり事業主の考え方が大きいなと思いました。デザイナーや建築家の技量や思いというのはもちろんですが、特にこのジャンルにおいては、その前提となるプロジェクトの捉え方が重要です。コストだけを優先したり、前例がないからやらない、という小さい考え方になると世の中は進歩しないと思うんです。木造ハイブリッドのマンションでは当然コストは嵩むはずですが、それをあえてやるデベロッパーはすごいと受け取られることもあります。私はそう受け取りましたし、そんなすごいことができる会社だとなれば、信用が生まれるとか、他のプロジェクトを推進する上でも力になるとか、いろいろな意味で価値が生まれることもあるでしょう。無理に大きいことをやらないで、持続的な規模で再生するというような誠実さも社会的な信用にもつながります。それはおそらく事業単体とか短期での最適化の話ではなく、長期的全体的に合わせていくことがきちんとできれば、面白いことやすばらしいことができていくと思います。共感価値が経済的にもフィードバックされてくる時代に入ってきましたので、その辺りにも事業者側、経営者側の方々が認識をフォーカスしていただけると、町もよくなるし、世の中でもポジティブなことがちゃんと支持をされていくのではないかと感じました。

山﨑 プロジェクトの成り立ちという部分が、出来上がってくるものに大きく影響してくるということを改めて思いました。普通にやろうと思ったら経済合理性の中で戦わなければいけないのですが、魅力的な作品というのはそもそもプロジェクトの成り立ちから違うと思いました。「風花山本」では、まさに地元の工務店がパブリックマインドを持ってやったからこそできた部分も大きいのかなと思いますし、それがクライアントも合わせてどうやってチームになっていったかということも大切だと思います。その中で、こういうものを奇跡ではなく、みんながやっていけるんだと捉えていただいて、ユニークなプロジェクトの成り立ちに計画者や設計者や住人のみんなが関わっていけるようになればいいなと思いました。さらに、境界を消していくとか、敷地のコンテクストをしっかり読み解いていく、町並みをきちんと形成していく、というような着実な設計をされていると感じられるものが幾つもありました。そういう設計者の感性は大切にしていかなければいけないものだと感じました。

猪熊 改めて大規模な分譲住宅は難しいということを感じました。例えば、賃貸住宅では、予算はそんなにかけられていないものも中にはあるはずですが、それでも魅力がなければ借り手がつかなかったりという動きが早いのに比べて、分譲住宅は買う側も覚悟を持って買うわけですし、お互いになかなか実験がしにくい土壌があるということを改めて感じました。一方で審査を数年やらせていただいて、平均的な雰囲気がぐっと動いたという瞬間はまだ感じないという中で、変わってきたぞと思わせる動きが生まれることをとても楽しみにしています。今後ますます、全く違う価値観を感じさせてくれるようなものが集合住宅でもさらに現れることを期待しています。

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