フォーカス・イシュー取材日誌 2022.11-12月
グッドデザイン賞の審査を通じて、デザインの新たな可能性を考え、提言する活動「フォーカス・イシュー」。
審査委員の中から選ばれたフォーカス・イシュー・ディレクターは、それぞれが突き詰めたいと思うテーマに沿って、グッドデザイン賞の応募対象をじっくり観察。最終的には提言という形で自身の考えを取りまとめて発信します。
昨年度からフォーカス・イシューでは、各ディレクターがテーマに対する理解を深めるために、受賞者や有識者との対談をおこなっています。
*2021年度の対談はこちら
今年も5名のディレクターのみなさんに、東京・奈良・徳島・新潟・埼玉と、各地を訪ねてもらいました。対談の様子は、フォーカス・イシューウェブサイトで年明けより順次公開するのですが、今回、一足先にその内容の一部をご紹介します。
11月10日:東京工業大学(東京都目黒区)
ディレクター:鈴木 元さん
対談相手:伊藤 亜紗さん(東京工業大学教授)
「ちょうどいいデザイン」をテーマに掲げる鈴木さん。もともと伊藤さんの研究テーマである「利他」という概念に関心があり、受け手の可能性を引き出すことが利他なのだとすると、“それはまさにデザインのことだ”と思っていたそうです。
伊藤さんの使っている歯ブラシが鈴木さんのデザインしたものだとわかるなど、異なる領域を専門にするお二人でありながらも、共通する点や話題が多く見つかり、ずっと続きを聞いていたくなる、気づきに満ちた対談でした。
11月15日:チロル堂(奈良県生駒市)
ディレクター:ライラ・カセムさん
対談相手:吉田田 タカシさん(まほうのだがしやチロル堂 オーナー)
2022年度グッドデザイン大賞を受賞した「まほうのだがしやチロル堂」。
店内通貨「チロル」を通じて、身近にいる子どもたちとの関係性を作り上げるしくみは、まさにライラさんのテーマ『半径5mの人を思うデザイン』と通じるデザインです。
子どもたちが集まる駄菓子屋としてだけでなく、地域の大人たちも食品サンプルをつくるワークショップや、勉強の苦手な子どもたちのための英会話教室など、さまざまなイベントを自由に開催しているチロル堂。「ここは“あなたは何をしたいの?”と利用者に問いかけている感じがする」と語るライラさんの言葉が印象的でした。
11月22日:大埜地の集合住宅(徳島県神山町)
ディレクター:飯石 藍さん
対談相手:馬場 達郎さん(神山つなぐ公社 代表理事)
2015年につくられた神山町の創生戦略「まちを将来世代につなぐプロジェクト」。その中から生まれた、子育て世代向けの町営住宅「大埜地の集合住宅」も2018年から入居を開始し、4年が経過しています。
長く時を重ねているプロジェクトの根底に流れる「続いていくデザイン」を実現するための視点についてたずねた飯石さん。その質問に対し馬場さんは、丁寧に対話をすることの重要性を示してくれました。そしてこの先、“町に揚力をかける”存在になりたいと語ってくれた馬場さんに、続けていくことで生じる、さまざまな重力を跳ねのける覚悟と力強さを感じました。
11月29日:山越住民会議(新潟県長岡市)
ディレクター:ドミニク・チェンさん
対談相手:竹内 春華さん(山古志住民会議 代表)
長岡駅から車で40分かけてやまこし復興交流館おらたるに到着。あたり一面を山に囲まれる自然豊かな場所で、山古志住民会議代表の竹内さんが迎えてくれました。
訪れた3日後には雪景色に。
2004年の新潟県中越地震以降、山古志に災害ボランティアとして携わることになった竹内さん。そこで出会ったたくさんの地域の人たちへの恩返しとして、山古志住民会議の代表になり、過疎化が進む地域の未来を切り拓くために、NFTをはじめとしたプロジェクトに取り組んでいるそうです。
「わたしたち」のウェルビーイングをつくるデザインを今年度のテーマにするドミニクさん。外部から来た竹内さんが、どのようにして山古志を「わたしたち」と考えるようになったのか、そのきっかけと歩みを伺いました。
12月1日:本田技術研究所(埼玉県和光市)
ディレクター:中川 エリカさん
対談相手:金森 聡史さん・小橋 慎一郎さん(本田技術研究所)
和光市にある本田技術研究所は、広大な敷地に多くの人が働く巨大施設。その一角で、UNI-ONEの開発現場を見学し、体験試乗も行いました。
UNI-ONEは、電動車イスのような機能をメインにしつつも、自分の体と一体になるような移動の楽しさを持つ、まったく新しい乗り物で、まさにその魅力をひとことで言えないモビリティーです。
建築家である中川さんとデザイナーの金森さん・エンジニアの小橋さんが、簡単には表現のできない「ものづくり」をすることの楽しさについて共鳴し合う様子と、その会話の盛り上がりに、そばで見ているだけでも、静かな興奮を覚えました。
これらの対談を経て、ディレクターのみなさんのテーマに対する認識がどのように変化し、深化していくのか、2月末発表予定の最終提言が楽しみです。
そして、冒頭でもお伝えしたように、上記5つの対談は、年明け以降、順次ウェブサイトで公開しますので、ぜひご覧ください!