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ユーザーの熱量に応えるデザイン〜2021年度グッドデザイン賞 審査ユニット6(映像/音響/情報機器)審査の視点レポート

グッドデザイン賞では、毎年その年の審査について各審査ユニットごとに担当審査委員からお話する「審査の視点レポート」を公開しています。グッドデザイン賞では今年、カテゴリーごとに18の審査ユニットに分かれて審査を行いました。審査の視点レポートでは、そのカテゴリーにおける受賞デザインの背景やストーリーを読み解きながら、各ユニットの「評価のポイント」や「今年の潮流」について担当審査委員にお話しいただきます。
本記事では、審査ユニット6(映像/音響/情報機器)の審査の視点のダイジェスト版をレポートします。
ダイジェストではない全部入りは、YouTubeで映像を公開していますので、よろしければこちらもどうぞご覧ください。

2021年度グッドデザイン賞審査の視点[Unit06 - 映像/音響/情報機器]
担当審査委員(敬称略):
渡辺 弘明(ユニット6リーダー|インダストリアルデザイナー)
小林 茂(イノベーションマネジメント研究者)
手槌 りか(プロダクトデザイナー)
林 信行(ジャーナリスト/コンサルタント)
ペニントン・マイルス(教育イノベーター)
山﨑 宣由(プロダクトデザイナー)

今年の審査を振り返って

渡辺 この審査ユニットでは、映像機器、音響機器、情報機器の審査を行いました。コモディティ化などと言われる中で、目立った新技術や革新的なアイディアがあるかというと、そこは難しかったかなという印象でした。ただ、新規性や革新性はなくとも、映像機器ではとくにレベルが高いと感じたプロダクトがたくさんありましたし、ゲーム機器などでもレベルが高いものが認められました。様々な製品を審査して思ったのは、ユーザーの熱量が高いものが開発者の熱量につながって、それがプロダクトの良しあしを決めているのではないかということでした。
すこし残念に思ったのは音響機器で、審査をしていて何となく寂しい感じがありました。

 今回、このユニットでは当初の想定よりも応募数が多かったので、実際の審査では、映像・音響機器と情報機器の2チームに分かれて審査を行いました。私は情報機器チームを担当していたのですが、おそらく映像機器に比べ、定石が決まっている領域だという印象がありました。
その中でも希望を持ったのが、特定のユーザー層に絞り込んで、そこに向けて何か新しい工夫をしようという試みが見られたことでした。
パソコンや周辺機器というのは大量生産されるものが多いので、環境への負荷を意識して、パッケージやマテリアルにこだわっていることをアピールする製品がだんだん増えてきたと感じました。

コンソールゲーム機 [プレイステーション®5]

コンソールゲーム機 [プレイステーション®5](ソニー・インタラクティブエンタテインメント)

渡辺 まず製品を見たときに非常に驚きました。プロダクトデザインに関しては、今までほとんど見たことのないような造形で、両サイドの白いパネルの裏側まで見せているというところに驚きを感じました。パネルは3次曲面になっていて、外せるようになっています。吸気口が内部にあって、ほこりも吸い込んでしまうので、外して掃除ができるように配慮されています。驚いたことに、シボと呼ばれる表面のテクスチャが、コントローラーで使われている○×△のシンボルで構成されています。コントローラーもヘッドホンも本体と同じデザインの言語で作られていて、統一感のあるデザインに仕上がっていると思います。没入感や臨場感を高める技術もソニーならではだと感じました。
今回、グッドデザイン金賞に選ばれましたが、日本のプロダクトとして、その技術を十分にアピールしているという点で、日本が誇れるプロダクトと言ってもいいのかなと思います。

手槌 今まで何となく黒い物体でシンプルであればいい、という世界だったものが、これほど斬新になったことに驚きました。造形的な工夫もそうですし、外枠の裏側まで見せるということも含めて新しい手法を使っているのは、ソニーだからこそできる新しいことなのかなと思います。隠すところにはカバーを付けるのが一般的ですが、あえてそこを見せて樹脂量を減らして、環境に配慮するという部分も含めて、全体を通して取り組む姿勢も素晴らしいなと思いました。

VR/ゲーミング・コントローラ [etee]

VR/ゲーミング・コントローラ [etee](TG0)

ペニントン ソニーのゲーム機のあとにこの製品を紹介するというのは面白いですね。なぜならこの製品はとても小さい会社、ロンドンを拠点にしているスタートアップ企業によるものだからです。非常に実験的な製品でもあります。ゲームのコントローラーですが、デバイスの中に指を差し入れて親指でスクロールできたり、タッチパッドが付いています。ゲームやソフトウエア、システムなどで必要とされるさまざまな操作が可能です。特にVR環境での操作に適しています。
この製品で特筆すべき点は、素材の技術を全く新しい方法で活用している点です。普通の製品であれば、指をデバイスに入れる際は複数のセンサーを配置します。ですがこの製品では、タッチスクリーンを3Dの物体にぐるりと巻いているようなものです。非常にスマートなやり方なのですが、ソフトウエアによって指や皮膚が素材に与える刺激をシグナルに変換して、それを位置情報に変換しているのです。VRコントローラーとして非常に興味深く、プレイする楽しみを与えてくれます。
このマテリアルの使い方にも可能性を感じますし、よりサステナブルな方法で、コントロールシステムはこれまでより素材も少なくでき、リサイクルすることも容易になるでしょう。ですので、非常に良いショーケースとして、この製品はグッドデザインであると考えます。この企業が今後どんな新しいアプリケーションを開発してくるのかがとても楽しみです。より大きな企業がこの機会に着目して、この小さな会社が大きなイノベーションを起こすのを支援するといいなと思います。

充電ドック [Anker Charging Dock for Oculus Quest 2]

充電ドック [Anker Charging Dock for Oculus Quest 2](Shenzhen Oceanwing Smart Innovation Co., Ltd)

小林 これはOculus Quest 2という昨年発売された完成度の高いヘッドマウントディスプレイ(HMD)を置くための充電ドックです。従来こういったHMDはユーザーが限られていましたが、去年あたりから状況が変わってきて、ゲームをVRでやりたい一般ユーザーが、このHMDを普段の生活の中でも使うということが起き始めました。そうなってくると、これは普段どこに置くのかという問題が起きてきます。次に使おうと思ったときに充電できていなくてすぐ使えないということが起こったりします。それがこの充電ドックに載せると、きれいに普段の置き場もできるし、使いたいときに充電が切れているということがなくなるわけです。一見すると、ちょっとしたアクセサリーに見えるかもしれませんが、いよいよこのようなHMDが私たちの生活に入ってくるときに、これをどう扱えばいいのかということについては、まだ決まったやり方がない状態です。スマートフォンが出てきたときも、普段はどこに置いておいて、どうやってチャージするのかということは時間が経つ中でスタンダードが確立されてきましたが、HMDにもそういうことがいよいよ起きているということを象徴しているプロダクトだと思います。

ゲーミングPC [HP OMEN Gaming Notebook 16]

ゲーミングPC [HP OMEN Gaming Notebook 16](HP Inc)

 グッドデザイン賞の応募では、パソコンは、ラップトップパソコンとデスクトップパソコンという2つの区分で応募されるのですが、実際それだけだとちょっと区分が足りなくなってきています。もうちょっと細かく区分しないと正当な評価ができないというのがあって、審査の段階では、細かく区分けをして審査を行いました。ゲーミングPCはもともと応募の段階からそういう区分があるのですが、製品デザインは、特定のゲームの世界観に左右されて、カラフルなキーボードで、メモリーも光って、クリアな筐体で内側も見せて、というような傾向があって、そういうデザインは最終的に好き嫌いになってしまう部分があるので、審査しづらい部分があった気がします。
このHPのOMENシリーズはそれらとは異なり、ニュートラルな感じをうまく織り込んで、製品としての強いアイデンティティを作ってきたと感じました。OMENシリーズ全体として、ゲーミングPCの中で新しいムーブメントを作ろうとしているのかなという印象を持ちました。
もちろんHPは、ほかの製品もですが、もともとデザインにこだわっていて、造形だけではなく環境に配慮しています。このOMENという製品シリーズを通して、HP社全体のブランディングの統合的な視点を感じました。

ミラーレスカメラ用レンズ [SIGMA Iシリーズ]

ミラーレスカメラ用レンズ [SIGMA Iシリーズ](株式会社シグマ)

渡辺 カメラレンズの最近のトレンドというと、円柱で段差や凹凸の少ないデザインが主流ですが、シグマはこのIシリーズだけではなく全般的に操作性に重きを置いているのかなという感じがあります。これはもう工芸品と言っていいのではないかという高い精度も感じます。触る部分の段差がほかの円柱よりも径が大きくなって、それで操作性が良くなっているのですが、ともすればちょっと古くさい印象になる可能性が出てくることが多くあります。でもこの製品では古さを感じることなく、精度の高いデザイン処理がなされています。リングを回したときの操作感も考え抜かれていて、高級感溢れるレンズと言える仕上がりになっています。

ミラーレスカメラ [EOS R3]

ミラーレスカメラ [EOS R3](キヤノン株式会社)

渡辺 EOSというと、もう何十年も続いているキヤノンのカメラ・ブランドですが、脈々とデザインが引き継がれています。難しいのは、最新のものは常に過去よりも良いものにしなければならないということです。歴史の長いカメラですから、高級感もありつつディテールにも気を配らなければならない。全体的に柔らかいRで、エッジの処理も柔らかめにして、ストラップホルダーやボタンの処理もデザインとしてよくできています。プロの要求にもよく応えた、レベルの高いデザインです。

山﨑 カメラの場合、ブラインドでのタッチ感も非常に重要視されます。先ほどのシグマのレンズもそうですし、このEOSもそうですけれども、触ったときの手触り、角Rの取り回しの仕方、手なじみ感が、とても精巧に、しかも熟練されたノウハウで作られていることが感じられます。塗装面も仕上げ面も含めて、肌触りをよく分かっているデザイナーが、非常に細かいところまで作ったということが伝わってきます。

デジタルカメラ [FUJIFILM GFX100S / GFX50sⅡ]

デジタルカメラ [FUJIFILM GFX100S / GFX50sⅡ](富士フイルム株式会社)

渡辺 これは一般的に使われているフォーマットと違い、ラージサイズのフォーマットを使ったカメラです。ラージサイズ・フォーマットのカメラというとハッセルブラッドなどが有名ですが、数百万円ぐらいするようなカメラです。この製品は数十万円で買えるのですが、前のモデルよりもさらにオーセンティックというか、誰もが想像するような普通のカメラのデザインになっています。たぶん使い手が「このデザインが好きではないからこれを選ばない」ことはないと思うぐらい非常にスタンダードで、それでいてインターフェースもよくできています。前のモデルを使っていた人がこれに置き換えてもそんなに違和感なく使えるという配慮もされています。

12Kパノラマ・カメラ [Kandao Obsidian Pro]

12Kパノラマ・カメラ [Kandao Obsidian Pro](KanDao Technology Co.,Ltd.)

渡辺 まだ歴史の浅いスタートアップのメーカーが、これほどのすばらしい製品を作れるということに驚きました。プロ用の映像機器で、魚眼レンズが8基付いていて、その真ん中に記録媒体があるというレイアウトです。このデザインは仰々しいという感じもあるのですが、かなり精度は高く、高級感もあります。こういった新興のベンチャー企業がこのような製品を作れるのかという驚きがありました。

デジタルカメラ [PowerShot ZOOM]

デジタルカメラ [PowerShot ZOOM](キヤノン株式会社)

山﨑 このPowerShot ZOOMは、新しいニーズを掘り起こしたイノベーティブなものというよりは、身近なニーズに寄り添ったプロダクトだと思います。いわゆるレーザー距離計のような形ですが、単眼鏡として光学3段階切替えができる機能を備え、単眼望遠鏡でありデジタルカメラでもあるというものです。スマートフォンとも連携ができますし、スマホでは拡大できない部分を提供できるということが機能的な特徴の一つです。
ただ機能的なものよりも、EOSシリーズのようなハイスペックな製品を作るメーカーが、1つのチャレンジとして、身近なニーズに対して寄り添うような新しい領域に挑戦していることが素晴らしいと思いました。こういうものがスタンダードになってくるといいなという期待も持ちながら見ていました。これからの進化にも期待したい製品です。

5Gミリ波帯対応デバイス [Xperia PRO]

5Gミリ波帯対応デバイス [Xperia PRO](ソニー株式会社+ソニーグループ株式会社)

山﨑 スマートフォンの領域は進化をしながら多くの製品があふれています。そんな中で、フルスペックにフォーカスしたこのXperia PROは、プロライクなニーズをストレートに満たしています。そういう技術的、機能的な部分も持ちながら、持った感じや重さ、所有感がほかのスマホとは一線を画す品質に仕上がっています。みんながプロライクに使うわけではないと思いますが、自分も使って見たいなと思わせるようなプロダクトで、造形的な持ち心地、あるいは質感や重さが的確です。インターフェースも遊びは逆に押さえ込みながら、精度感を表現してバランス良く作られています。ほかのものとはちょっと種類の違うタイプとしての評価だったかなと思います。

渡辺 スマホの使い方の新しい提案もありました。スマホをスタンドアローンで使うというよりも、この製品はHDMI端子を持っているので、映像機器のモニタリングにも使えます。通信手段も5Gになり、大容量データを送受信できるようになったことを利用して、スマホを映像機器の周辺機器として使うという新しい使い方を提案しています。値段は決して安くはないのですが、プロ用の機材として、映像機器の1つとしてこういう使い方も確かにあるなと感じさせられたプロダクトでした。

手槌 メーカーが、一般向け製品とプロ向け製品の両方を手掛けてないと開発できない強みがあるので、こういうのはどんどんやってほしいですよね。

空間再現ディスプレイ [ELF-SR1]

空間再現ディスプレイ [ELF-SR1](ソニー株式会社+ソニーグループ株式会社)

ペニントン 3Dのディスプレイ・システムですが、こちらも少々実験的な製品だと思います。多くの人々がこれまでに目にしてきた3Dのディスプレイは、3Dの効果を得るためにメガネを活用したものが主流でした。これは3Dメガネを必要としないシステムの1つです。このようなシステムはほかにもありますが、このソニーの努力の好ましいところは、この製品を市場に出したという点です。3Dをどのように活用してどんな経験ができるかということにはまだ決まりがありません。このように新しい技術の背後にソニーのような企業がいて、それを市場に投入するということ、そして人々がいろいろと試すことができるということは、データのビジュアル化の完全に新しい方法を生活にもたらすことができるでしょう。新しいタイプの技術イノベーションの1つとして、この製品を見ています。実際にハードウエアとしてはシンプルなものですが、最初のステップとして人々に考えさせるものとなるでしょう。どのようにディスプレイするかを、違った方法で見せる方法として、非常に面白い製品だと思います。

電子ペーパー [RICOH eWhiteboard 4200]

電子ペーパー [RICOH eWhiteboard 4200](株式会社リコー)

山﨑 全天候型の電子ペーパーです。たいへん高精細で大型のものですが、新しい技術というよりも、従来ある技術や一般的にあるニーズを、精度高く実現しているというところが、大きな評価ポイントだと思います。手書きがスムーズになっていて、ホワイトボードのように書けるという使用感もよくできていました。実際の使い方としては、災害時の掲示板や、議論をする際のコミュニティーボードにもなるということですが、手書きの良さというか、アナログだけどリアリティーのあるコミュニケーションに使えることがとてもいいなと思いました。技術的にも優れた使いやすいUIですし、手書きの温かみを共有できる仕組みとして、非常にいいと思いました。

Bluetoothヘッドセット [NECヒアラブルデバイス]

Bluetoothヘッドセット [NECヒアラブルデバイス]( 日本電気株式会社+株式会社マクアケ+フォスター電機株式会社)

手槌 このワイヤレス・ステレオ・ヘッドセットは、音楽を聴くことをメイン機能として訴求しているのではなく、会議などの際に周囲の騒音を消して自分の声だけをクリアに届けるという視点で作られています。クラウドファンディングを利用して製品化されたのですが、NECのような大企業でも決裁を待つ時間を長くかけるのではなく、そういう形で商品化しているという点も新しいなと感じました。
また面白い機能として、耳の中の形は一人ひとり違いますので、音響のはね返りを基に使用者を特定することで、装着したときの耳の形がパスワードになって自分を認証させるという点が挙げられます。イヤホンとして音質の良さを上げるということも重要ですが、特にコロナ禍で、オンライン会議が盛んになったご時世に、こういった商品が出てきたことがおもしろいなと思いました。

ヘッドセット [子ども(小学生)向けオンライン学習用有線ヘッドセット]

ヘッドセット [子ども(小学生)向けオンライン学習用有線ヘッドセット](エレコム株式会社)

手槌 このカテゴリーではテクノロジーの要素が高く、高単価のものも多い中で、こういった子ども向けに開発された安価なもので、ターゲットを絞って作ったプロダクトも評価したいなということで紹介させていただきます。この製品の面白いところは、デザインを決める要素が、奇抜なものだと学校側からノーと言われてしまうので、ベーシックなスタンダードを作るということを目標に、子どもが普段持っているものをベースに作られているという点です。コロナ禍で子どものオンライン学習も当たり前のようになってきている中で、この製品のメインの機能の一つに、音が大きく出ないということがあります。子どもの耳を守るという要素と、子どもの頭のサイズに合わせているということ、余分な機能を削除しながら、ターゲットに合わせてまとめ上げた点に好感が持てました。

AIボイス筆談機 [ポケトークミミ タブレット]

AIボイス筆談機 [ポケトークミミ タブレット](ソースネクスト株式会社)

ペニントン とてもシンプルな製品で、聴覚障害者のためのタブレットです。会話を認識して、それを素早くクリアにタブレットのディスプレイに表示します。スマートフォンのアプリでも似たようなことができると思うかもしれませんが、これはニッチな場面やニッチな市場に特化したデザインになっています。そしてこれは人々の生活に大きな価値をもたらす素晴らしいデザインだと思います。
聴覚障害者全員が常に補聴器を使うことができるわけではないので、そういった方々がよりクリアにコミュニケーションできるようになるということはとても重要です。このデバイスを使えばどんな場面でもシームレスにコミュニケーションできるようになります。
この会話認識システムは反応も早く、やるべきことをシンプルに成し遂げることができています。この製品は、明確な価値を人々にもたらします。グッドデザイン賞にもAIを利用した製品はたくさん応募されていますし、さまざまなフィールドに活用されていますが、それらはときに市場主義的になりがちです。その市場はあまり大きくないかもしれませんが、素晴らしい仕事を成し遂げていると思います。

 ソースネクストはポケット翻訳機などで過去にもグッドデザイン賞を受賞しています。今回もシンプルな形で、生活の背景として存在しているような主張の少なさも好感が持てました。やっぱりそれが目立ってしまうと、聴覚障害に対して意識がいってしまうところもあるので、意識しないで済むような存在の薄さは重要な点だと思います。それでいて見やすさ、視野の広さもあり、フォントも注意深く選ばれていて、横目でチラチラと見ても、文字が正確に読み取れる大きさであったり、配慮が行き届いています。

自律型会話ロボット [Romi(ロミィ)]

自律型会話ロボット [Romi(ロミィ)](株式会社ミクシィ)

ペニントン ロボットのようなデバイスは他にも多く応募されており、大きな展示会でガイドをするような大きなものから、こちらのような小さなデバイスもありました。ロボティック・デバイスやインテリジェント・アシスタントのカテゴリーでもたくさんの応募がありましたが、きちんとそれを経験して審査をすることは難しいと感じました。
Romiは、反応のスムーズさや動きや目の表情を魅力的にすることなど、かわいらしくできています。これが本当に家に必要かどうかはさておき、よくデザインされた経験を提供していることは確かです。この種の魅力的なロボットが、製品と人間の良い関係を築くのは難しいこともあるかもしれませんが、この製品は小さいけれど最初のステップになり得るものではないかと思います。ですので、このような製品を応援したいですし、障害者の方に役立つものになると良いでしょうし、今後ロボティック・デバイスと意味のある関係が築けるようになるのではないかと思います。

小林 これはサイズがよく考えられていると思います。こうしたものは稼働部分が壊れやすかったりするのですが、それが2つの軸だけで効果的なところを狙っているというところなど、バランスも非常によく考えられていると思います。目の部分もよく考えられたインタラクションになっていると思いました。今までにもこういった家庭用の、特にコミュニケーションを重視したロボットはいろいろ出ていますが、1つの新しいラインをつくる原型になっていくのではないかと期待しています。

まとめ

渡辺 冒頭でもお話ししたように、いいプロダクトというのは、まずはユーザーの熱量があって、それに対する開発者の熱量があって、そのことでプロダクトの良しあしが決まっていく部分もあるのかと思いました。これは普段、われわれがデザインする上でも同じことが言えるのですが、特にこのカテゴリーでは、例えば先ほどのプロ仕様のカメラやゲーム機などは、ユーザーの思いが極端に強いプロダクトだと思うのですが、それに対して開発者がいかに応えていくかという、熱量に対して熱量を持って応えるという感じを受けました。今回取り上げたプロダクトは、そういう開発者の気持ちがダイレクトに伝わってくるものが多かったという印象です。今回受賞したものをじっくり見ていただいて、今後の製品開発につなげていただきたいと思いました。

手槌 開発の皆さんが、クオリティの小さな詰めを、技術に対しても造形に対しても地道にやり続けながら、それがあるとき飛躍的に向上したり、そうでもなかったり、その山あり谷ありが、会社ごと・年ごとに現れるので、そこは非常に感動を持って見させていただきました。
今回はコロナ禍で環境が変わっていく中、そこに適したものもいろいろ出てきました。そういった状況下ならではの体験ができたのは、貴重な経験だったと思います。

ペニントン 新しいスペースや新しい価値を人々や暮らしに届ける製品を見るのはとても楽しみでした。典型的なものとしては、興味深い技術を応用したものです。今年は少し残念だったのは、ARメガネなどの応募があまり多くなかったことでしょうか。どれも生活に対して意義のあるインパクトにまで至っていませんでした。ロボティックスやAIについて申し上げたように、まだまだこれらの領域には求められているところが多くあります。ですので、今後スタートアップ企業も大企業にも技術の意義のある使い価値を見つけることを期待したいです。そして、私たちにワクワクするような製品を見せてほしいと思います。それらが暮らしに、より価値を与えることや、サステナブルで、手に入れやすいものとなることを期待しています。グッドデザイン賞に応募されるものを見るのはいつも大変楽しみですし、私自身も刺激を受けています。また「グッドデザインとは何であるか」を考えることを試される場でもあります。来年も、新しい興味深い製品を見ることができるのを、楽しみにしています。

小林 今回担当した情報機器のカテゴリーは、もしかすると今後いくつかの新しいカテゴリーになるかもしれないなという予感がありました。
熱量という話が渡辺さんからありましたが、私もそれはとても大事だと思います。競合する人々同士の切磋琢磨の中から、どんどん全体の完成度が上がってくるということが期待できます。従来のカテゴリーの製品が漸進的に良くなっていくことも期待したいと思いますし、新たなところを広げていくようなものが出てくることにも期待したいと思います。

山﨑 皆さんのお話とはちょっと違う視点からですが、一つ一つどこまで設計者とデザイナーが意見を交わして、ニーズに合わせ込んでいくか、またはシーズ側のほうから新しい使い方を提案できているか。そういうところに期待しながら今年も見ていました。コモディティ化が進む今の時代に、企業が個性を出したり、アイコニックにデザインの面白さを感じられるような造形や機能性というのは、どういうものなのだろう?という見ていました。
新しいだけではなく、研ぎ澄まされた作り込みや、誠実な設計といったものにも魅力を感じることが多かった気がします。アイデア勝負の製品もたくさんありますが、やはりデザイン賞という評価の中では、そういう研ぎ澄まされたクオリティに対して、引き続きよく見ながら審査をしていきたいと思いますし、そういう方々にぜひ受賞していただきたいなと思いました。
そういう意味では、応募資料の中で、製品の魅力やポイントを分かりやすく語っていただくことも、とても大事だと思いました。審査委員としても一生懸命見ていきますので、皆さんにもぜひアピールしていただければいいなと思っています。

 山﨑さんもおっしゃっていたとおり、来年以降応募されるときに、応募資料の「工夫した点」などの項目はデザイナーの方に書いていただくといいのではないかと思いました。あまりデザインに関わっていない方が書いているのかなと思われるものも中にはあるのですが、製品の中でどういった切磋琢磨があったのか、とか、工夫があったかの部分は、ぜひ強調して書いていただけるといいなと思います。
新しいトレンドというのは、どこか1社が作ると、その技術がナレッジとして、あるいは部品として共有されて、いろいろなメーカーがそれを使って製品を作るということが多いと思います。それぞれのメーカーで工夫があっても、限られた時間での審査の中で、製品を見るだけで読み取りきれるとは限らないので、ぜひそのあたりも詳しく応募資料の中に書いてもらえればと思います。
情報機器というのは正常進化が多いジャンルのカテゴリーだと思います。たとえばスマホの充電ケーブル1本でも、ちょっと素材を変えるだけで絡まりにくくなるといった工夫も見られれば、あるいはWi-Fiルーターで表面処理をすこし変えるだけでインテリア的にも見えて、放熱処理も良くなるとか、工夫できるところはまだまだ余地があるということに感動していました。
応募された皆さん自身がどういった評価を受けたかということも大事だと思いますが、今年受賞しているほかの製品、特にグッドデザイン・ベスト100に入っているような製品を見ていただくと、新たな発見が多いのではないかと思います。そういったものをインスピレーションの参考にしながら、そこで生まれてきた工夫があれば、審査のときに分かりやすくプレゼンテーションしていただけるといいなと思いました。今回も非常に楽しい審査でした。ありがとうございました。

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