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都市に開かれた産業・商業建築〜2020年度グッドデザイン賞 審査ユニット16(産業・商業の建築・インテリア)審査の視点 レポート

グッドデザイン賞では、毎年その年の審査について各審査ユニットごとに担当審査委員からお話する「審査の視点レポート」を公開しています。グッドデザイン賞では今年、カテゴリーごとに20の審査ユニットに分かれて審査を行いました。審査の視点レポートでは、そのカテゴリーにおける受賞デザインの背景やストーリーを読み解きながら、各ユニットの「評価のポイント」や「今年の潮流」について担当審査委員にお話しいただきます。
本記事では、審査ユニット16(産業・商業の建築・インテリア)の審査の視点のダイジェスト版をレポートします。
ダイジェストではない全部入りは、YouTubeで映像を公開していますので、よろしければこちらもどうぞご覧ください。
2020年度グッドデザイン賞審査の視点[Unit16 - 産業・商業の建築・インテリア]
担当審査委員(敬称略):
原田 真宏(ユニット16リーダー|建築家|マウントフジアーキテクツスタジオ一級建築士事務所 主宰建築家、芝浦工業大学 教授)
遠山 正道(実業家|スマイルズ 代表取締役社長)
永山 祐子(建築家|永山祐子建築設計 取締役)
吉田 愛(建築家|SUPPOSE DESIGN OFFICE 代表取締役)

知的な倫理性を感じる新しい商業・産業の建築の方向性

事務局 2020年度の審査も無事終了いたしました。委員のみなさまありがとうございました。まず、本年の[産業・商業の建築・インテリア]ユニットの審査のご感想についてお願いします。

原田 このユニットの審査は初めてだったんだけれども、産業と商業は利益のための施設ではあるけれど、エゴイスティックなお金を集めるだけの施設はほとんどなくて、それはまずほっとしました。
今年の全体のテーマは「交感」ですよね。だから、建物を持っている事業主の利益を上げる、お金を集めるということだけではなくて、むしろ周りの人たちがうれしいとか、他の人たちに共感を持たれるとか、あるいはエシカルであるとか、知的な、倫理性を感じて、新しい商業・産業の建築の方向性が見えたかなとうれしく思いました。

遠山 まず、今日この建築というものが、都市においても、一人一人の関心のレベルでもすごく生活の中に入ってきていて、その立ち位置がぐっと上がってきているのかなと、この結果からも思いました。
アートは、ほぼ、コンセプチュアルなコンテクストを大事にするコンセプチュアルアートになっていて、単に表面だけではなくて、その背景を理解してつくるという共通のものがあるのかなという感じがしました。

永山 このユニットはスケールに差があって、小さなお菓子屋さんから、都市開発みたいな巨大な開発、商業施設が同じユニットで審査されるということがすごく面白い。商業と一口にいっても、街の関わり方、スケール感、人との関係も千差万別で、ただそのシチュエーションにおいて何が一番今いいか、今世の中で一番求められている形は何だろうと考えるということでは、今一番商業に動きがあるんじゃないかなと、実感しているんですけれども。
物が売れない時代で、商業そのものの魅力や価値観も昔と変わってきている中で、未来に向けて、商業空間というものがどうなっていくか、審査結果を通して今後が見えてくるような、未来を占うようなところもある。ここで評価されたことが、ある意味、未来をつくる種にもなっていくので、責任を感じながら、もっとこうなったらいいな、こういうものが評価されて増えていったらいいなという夢も持ちつつ、毎回わくわくしながら審査させていただいている。今回も本当にいいなと思ったものが高く評価されたので、これから楽しみだなと思っています。

吉田 初めて審査委員をやってみて、自分も見ていいなと思ったものや結果的に上位になっているものが、都市と自然、人と動物、森と人といった、他者が介在する中で2つが両立する在り方、共生をもたらすような施設がすごく多いなと思ったんです。お互いの良さ、魅力を出し合いながら、境界の面白さも新しくつくっていく、今がそういうタイミングなのかなと。そういう「間」に、新しい多様性がひそんでいると思うので、そこの評価が、これからのスタンダードになっていけばいいなという目線で審査させてもらいました。

時間と相棒がちょっと違う感じ

事務局 それでは、ユニット16からグッドデザインベスト100に選出されたデザインを題材に審査の視点、どのように評価したかについてお伺いしていきたいと思います。
まず1つ目は、店舗・事務所「TOKYO MIDORI LABO.」です。

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遠山 本来、建築家とテナントは、時間的に分断されていて、建築が竣工してからテナントが入ってくるものなんですけれども、テナントの企業が設計の段階から関わって、建築にテナントの要素が大きく入り込んでいるということが、今っぽい。平日と休日、仕事とプライベートとか、いろんなことの境がなくなってきていて、個人と企業とか、お互いが浸食し合っている。今まで当たり前だと思っていた、縦割りじゃなくなっていく時代、テナントビルなのに、オーナーの存在があまり見えない。テナントと建築家で造っていくというそのタッグ感、時間と相棒がちょっと違う感じが面白いですよね。オーダーメイドで造ってしまった既製品が、将来、次のテナントになったときにどうなるんだということが、そのときはそのときのまた浸食の仕方がきっと生まれるとか、自分たちでルールを決めていけばいいというような、そんな態度なんでしょうか。そういうことが気持ちいいなと思いました。こういう新しいスタイル、取り組みというものがうまくいってほしいですよね。

原田 普通だったら、テナントビルは誰が借りてもいいように公約数的に造るので、個性のない街並みがどんどんできてきたということなんだけれども、ここは最初にそこを使うテナントを決めて、その人たちの意向をくみ取って個性のあるものを、建築家と不動産屋が組んでやった。だから、この人たちだから、この場所だから、あるような建築が現れてきた。これはなかなかなトライアルだったなと思いました。不動産屋も勇気がありますよね。

思わず遊びに行きたくなるような工場

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永山 本社社屋工場「コロナ電気新社屋工場Ⅰ+Ⅱ期」は、実際に見に行きましたが、工場という感じがしない。スケール感も周辺の住宅に合わせてありますし。工場の周りの塀も取っ払われていて、桜並木があって、向こうに工場の部屋部屋が浮かんで見えていてと、とても工場という感じじゃなくて、思わず遊びに行きたくなるような、みんなに対して、周りに対してすごい優しい建て方なんですね。
(工場内の)精密機械をつくっているその環境自体も自然光が入ってきて、工場としての効率性もすごく配慮されていますし、空調も、一方向から回るように造られているなど、細やかな配慮によって全体が造られていて。真ん中に樹木のように生えている柱があるんですけれども、それに支えられているトラス構造がすごく美しく、工場の合理性がありつつデザインとして、すごく周りとなじんでいる
制度的なハードルも、造っていく上でのハードルもあったと思うんですけれども、それを感じさせないおおらかさで建っている。機械のための工場ではなくて、人のため、そこに働く人たちがどれだけ気持ちよく働けるかということを重要視している。こういうものづくりの場所が増えていくことによって、日本の生産現場も底上げになるし、とてもいい事例だと思いました。

原田 僕も行ったんだけれども、施設っぽくない。工場としても非常に優れているんですよ。部品の調達から分配のシステムとして、周りの回廊が使われていて、デッドストックの部品が生まれないようにするとか。新しい工場としての合理性を持ちながら、永山さんがおっしゃるとおり、そこで働く人のことと、それから周辺に住む人のことを考えている。
多分、建築として解くべき問題を幅広に見られているんでしょうね。非常に状況にフィットしていて、施設じゃなくて建築という感じがした。

街で生まれるカルチャーを継承するビル

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吉田 複合施設「渋谷パルコ・ヒューリックビル」は、行ってみて、面白いな、意外にいいぞ、とまず最初に思いました。これぐらいの規模感で、こういう造り方ができたのはすごいなと、最初に行ったときの感覚としてありました。よくよくその話を聞いてみると、渋谷区と共にパルコが、渋谷の街で生まれるカルチャーを継承しながら、商業ビルでありながら、その中に道を引き込んでいって、渋谷の街を立体的に組み上げていくような造り方をしている。外周部に立体街路を造るという構想ですよね。
下町を歩いていると、道に植木を勝手にはみ出して置いているようなプライベートとパブリックの曖昧な場所があって、いろんな表情があるから個性が生まれて楽しいなと思うんだけれども、そういう感じがこのスケールでありながら造られている。そこがすごく印象的でした。
もう1つ印象的だったのは、もともとのパート1と3が統合されて1つの街区になっているんですけれども、その間の道が区道として残されている。だから余計に、どこまでが商業施設なのか、歩いていると分からなくなる。ちょっと迷子になりそうな楽しさが、造り上げられている。あとは、地形の分脈というか、公園通りを上がっていって、頂上手前にパルコがありますけれども、建物内も坂道の延長線上を上がっていっているような感覚がある。行ったとき、夕方ぐらいで東の空が夕焼けになっていて。ショッピングをしながらそういう風景に出合うことは、渋谷の中であまり体験したことがなかったから、そういった意味でも、立体的な構成でうまくいっているんじゃないかなという感想を持ちました。

遠山 私が印象的だったのは、今までのパルコは大きくPARCOというロゴが壁面にあったが、それが取り払われていて、すごく控えめ。建築自体の地域での存在が、もうそれを示していて、商標はもう裏側になってしまっている。その順番がすごいなと。

原田 これは、すごくいい受賞だったなと思います。外に向かってにぎわいが開いていて、街に対しての貢献度がめちゃめちゃある。これで、容積も失っているし、工事費だって上がっているわけなんだけれども、この渋谷のこのエリアを良くするという意識があって、エリアが良くなるからお客さんも入ってくるということを、パルコが先導してやってくれた。これで成功してくれたら、こういう商業施設が増えるだろうなと、すごく期待したい

吉田 これからの時代、ローカリティが絶対必要になってくる。それに対してきちんと向き合っているし、具現化してくれた。その次につながるようなものになっているんじゃないかなと思いました。

永山 都市再生法によって、都市の開発が変わってきている中で、こういう好事例が出てくると、こういうふうに開いていけばいいのかとか、うまい制度の使い方が生まれてくる。本当にいい一つの事例になっているんじゃないか。

原田 そうだね。同じくグッドデザイン賞を受賞したMIYASHITA PARKも、渋谷区と連携をして、いろんな制度で失った分を取り戻したりしながら、民間だけじゃなくて、行政と一緒にうまくやったという。

永山 制度が変わらないと、街が変わらないし、制度がうまくはまれば良くなるから、もっと制度のほうを変えようみたいな、そういう訴えかけの一つのきっかけにしてほしいなと思いますね。

コミュニティ施設としてのベーカリー

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原田 続いてベーカリー 「トイット Tiny Bakery」です。普通、デベロッパーは宅地開発をしたら全部売り切って、その後のことなんてもう知らない、となるんだけれども、ここは、デベロッパーがずっと運営をしていくベーカリーを造って、そこがコミュティ施設になるようにと考えたんです。この住宅地全体の将来的な発展に対して、デベロッパーが責任を持つという意思表示なんですよ。それが僕は頑張ったなと思うし、運営が成功していくと、また地価も多分上がっていく。再販売とかで担保価値が上がったりするわけだから、実はここに入ってくる人たちにとってもすごいメリットがある。こういう都市開発はすごく応援したくなった。
他の人たちがお店を開いたりできるような余地もあって、自立的に自分たちで運営していくようなきっかけにもなっている。小粒だけれども効果の大きい方法で、このやり方を他の区画でもやろうとしている。

自然の景観を生かしたリズムのあるたたずまい

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吉田 宿泊施設「Looop Resort NASU」は、もともと計画の段階では太陽光発電施設として利用しようしたけれども、景観法とかでそれが難しく、自然共生型宿泊施設としたという。太陽光を諦めずに、取り入れながら宿泊施設にするという試みが、まず面白い。再生エネルギーを利用するという考え方はいいなと思うんですけれども、なかなか実現できない。デザイン的にもなかなか両立できない部分を、すごくうまく解いている
木のレベルに屋根を上げて、上げたことによってできる大きな軒下を心地良く使うとか、空間内部も木の中にいるような2層分の高い空間を楽しめるというプランニングだとか。太陽光のパネルそのものを使っているのに美しく、そして効率がいい。両立がうまくできている。難しいことを実例としてやってくれた、そういう好事例になるのかなと思いました。

永山 太陽光パネルはデザイン的に難しいアイテム。それが、ちょうど影もきれいにストライプに落ちていたり、意外といい。

原田 周りの木のことも調べていて、この設計事務所はシミュレーションもかなり得意なんだけれども、その結果、こういうリズムのあるたたずまいになっているんだと。売電や宿泊費で自走できるだけの収益があるんだって。これは「型」として、どこかに普及していく可能性がある。

吉田 こういう場所がどんどんできていくと、ワーケーションなどインフラの整備があまりなくてもできるという気軽さがありますよね。

原田 僕は山が好きなんですよ。地方に行くと山の木が切られて、太陽光発電パネルでつるぴかになっている所があるじゃないですか。あれは事業的にそうなっているんだけれども、その代替案を示してくれている。それは景観としてもとてもうれしい。

「居場所」を作る建築の価値

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原田 グッドデザイン金賞も受賞したお菓子工房「みいちゃんのお菓子工房」です。金賞を選ぶ審査会でも、みんながすごく共感をしてくれたプロジェクトです。僕が何よりすごいと思ったのは、みいちゃんが、この建築ができてすごく自信を持ったんだって。建築とは世の中に場所を占めるでしょ。自分のポジションができたということの象徴になっているんじゃないかなと。彼女の社会との接続性や、病気の具合がだんだん改善していくということになりつつあるみたいで、それは本当に素晴らしいこと。建築の価値だなと。

風土の中にあるべき建築

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原田 次も同じく金賞で東アフリカのウガンダの首都カンパラにある商業施設「やま仙」です。これは、材料はユーカリで、建設重機も建設技術もない所で、ローテクに効率良く空間を生み出せる。環境条件の中で見いだされた形式なんですよ。屋根の下も空気がちゃんと流れるようになっていて、木陰に人が集まってくるような建築的なデザインモチーフを持っていて、非常に自然だし。風土の中であるべき形式を見つけたということ。そこで売られている日本製品とか日本食の、そもそも持っている、風土と適しているという倫理観が響いていて。それが、この街に、コンクリート型の建物じゃない型を示しているみたいで、それが街にとって意味があるなと思いました。
あの印象的な骨格を地組みするんですよ。それをロープで引っ張って建てて造っているの。全部人力。そういうストーリーもいいんだけれども、できた空間が気持ち良さそうなんだよ。ストーリーもいいし、空間としての質も高い。

吉田 屋根がかやぶきで湿度の管理だとか雨を防ぐとかいろんな機能を持っているから、自然が持っているその機能を上手に使うということで言うと、すごく目指すべきものですよね。

原田 非常にパッシブでサスティナブルなデザインになっていると思う。

永山 これは、メンテナンスもその部分を張り替えていけばいいんですよね。すぐに採れる材料で。やっぱりその場所で、あるもので造るということは本当にサスティナブルに循環したり、メンテナンスもすごくしやすい。

限界集落に最先端

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永山 そして最後、グッドデザイン金賞で大賞候補であるファイナリストに選ばれた宿泊施設「まれびとの家」です。本当に奥地、限界集落というか、周りに住んでいないような場所に、その地域の材料と、新しい技術、デジタルファブリックの機械を入れて、半径10キロ以内で全てを済ませられるという。デジタルで何かを作っていくことは、グローバル型なイメージがあったんですけれども、地産地消の中に入り込んだときに、むしろ力を発揮するんだということが発見で。データは世界中に持って行けて、同じものが造れはするんですけれども、造る現場が地域性を持っていて、そこに変化をもたらしてくれるということがすごい面白いし、新しい建築のありようだなと。

遠山 限界集落に最先端というその組み合わせがすごいよね。

永山 面白いし、そこにチャンスがあったんだという。

原田 自然も、人のなりわいも、敷地外の生態系の保全をしている。手仕事だけじゃなく最先端の技術を導入することで、うまく回していくという視点があって。なりわいの生態系が、うまくこのプロジェクトで回復していくんじゃないかなという予兆、予感があって良かった

吉田 建築家とかデザイナーの職能自体も範囲が変わっていっていると、その境界線のなさみたいなものも、すごく新しい気がします。

原田 根本的には、自分たちの空間を自分たちでつくることができたという喜びに基づいたコミュニティというのか、人の信頼関係みたいなものが見えたことも、とっても良かった。建築は、どうしても素人には扱えない感じがあって。ゼネコンが造るし、予算は銀行から借りて、とどんどん手から離れていくんだけれども、これは技術は自分たちのところにあるし、お金もクラウドファンディングで集めている。「建築の民主化」と言っているけれども、そういう活動の第一歩としてすごくいいなと思った。

遠山 建築に機動力が出た。これは林業と組み合わせているけれども、漁業かもしれないし、災害かもしれないし、集落とかいろんな出来事と建築が機動力をもって解決していくみたいな、そういう建築の新しい要素を発掘している感じがしますよね。

原田 方法論としての作品性も強い。発展していきやすいところが面白い。

永山 巻き込み力があるというか。こういうことに使えるかもとか、こういうことやれるのかもと思わせてくれる。

遠山 彼らの肩書も、もはや建築家だけじゃなくてメーカー。起業家でもあったり。縦割りじゃない社会を具現化している感じがします。

原田 この考え方はもっと大きな建築にも適用できていくから、いずれは公民館ぐらい、市役所ぐらい、地場の10キロ圏内でつくられるなりわいも、そこで行われる建築ができるかもしれない。そういう可能性を見せてくれましたよね。

まとめ:ストーリーが外につながっている建築

事務局 改めて今年の審査全体を振り返ってみていかがでしたか。

永山 すごくいい作品がそろっていると思います。「まれびとの家」みたいな新しい成り立ち方とか、サスティナビリティーの考え方も広い意味を持っていたり、バリエーションもさまざまですよね。地域とのつながり方のバリエーションもすごく増えてきて。
施主との協業ということも改めて感じる。建築家は造る側なんですけれども、造り手と発注主の意識もどんどん変わってきている。制度もそうなんですけれども、建築を取り巻く人全てが変わらないと、変わらない。そこがちょっとずつ変わると、全然違うことができるんだよ、こういうことができるんだよという、いい事例がそろったのかなと。なので、関わる人全て、発注主から、それを制度として見る人たち全てが変えていかなきゃいけないという中に、建築の未来があるんだろうなと思いました。

原田 敷地境界内で閉じていない作品ばかりでしたよね。ストーリーが外につながっているとか、通りの緑をメンテナンスするような人たちが中に入っていたりとか。パルコなんてスペイン坂の延長だし、地形として建築を捉えているしね。ここには出てこなかったけれども、僕はMIYASHITA PARKも、トライアルとしては一歩前に出たなと。公共建築、公共の場所だから、都市のリノベーションをしているような意識で商業施設を造っている。制度や、生産システムへのことも、敷地境界の中では全く閉じていない。そういうアウトラインがない出来事とかシステムを提示している作品が多かったし、それはこの後も続いていくべき流れだなと思った。
片やもう一方で、やっぱり僕は、建築とはいいものであってほしい。ストーリー、コンセプトもいいんだけれども、蓄積していくべき質を有しているものを、グッドデザイン賞では評価していきたい。腕時計と一緒に並んで評価されるわけだから、そういう基軸もここで保ちたいなと。だから最後に、「やま仙」が残ったことはすごくうれしかった。

遠山 グッドデザイン賞自体がデザインの解釈が広がっていて、映画がかつて総合芸術といわれたように、建築は総合デザインじゃないけれども、その地域にしろ技術にしろ、いろんな要素が絡まってきているので、すごく重要な立ち位置になってきているような。これからはますます建築のデザインがどう寄り添うかみたいな機会が多くなってくる気がします。

吉田 コロナ禍で、つくっている側としては空間の必要性ということを思うわけですよね。そういう状況の中、共感したり、コミュニティやコミュニケーションを生んだりは場所がないとできないと思ったときに、場所に、より本質的な意味が問われるんだろうなと。ストーリーを作るための場は要るし、ただ姿形ではなく、そこに意味性がある。そういう場が必要になってくるんだろうなと。何かを生み出すデザインとして秀逸なものは素晴らしいと思ったし、ストーリーと、できたものを体感したときにあるうわっという感動。その2つが両立するようなものがたくさん上位に挙がっていたので、楽しかったし、これからますますそういったところに新しい空間性が生まれてくるんだろうと思いました。

原田 現地審査とか審査会とか、その場に行ってその人と会うということの豊かさ、かけがえのなさは、ものすごく染みましたよね。どんな場所でどんな人と会うかということの価値が、すごく今回のこの事態でよく分かったし、実は逆に、遠隔で人と関係を持つということの可能性も教えてもらって、あれができたから、実は本当に会いたい人と会いたい場所で会う自由度を得たんじゃないかなとも思うよね。今年はそのかけがえのなさが分かったタイミングだけれども、来年、出てくるものに変革が起こるだろうなという予感はします。

永山 もっと質感が欲しいというか、今それこそ実空間と、バーチャルな仮想空間の2つを手に入れて。でも仮想空間で得られるものは視覚と聴覚だなと思っていて。そうするとそこに手触りとか風とか、そういうものはやっぱり感じにくいから、今度リアルな空間は土の匂いとか触った感じとか、もっと質的なものが多分求められて、そういうところが、つくるものにどんどん求めてくるんじゃないかなと。

吉田 鳥肌みたいなものが立つ瞬間とかがありますよね。感覚的なものをやっぱり求めますよね。

原田 そういう流れはありそうです。

遠山 クライアントが求める要件も変わってきそうな。幸せとか。

事務局 皆さま、本日はまことにありがとうございました!

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