身近なデザインを問い続ける姿勢〜2020年度グッドデザイン賞 審査ユニット01(身につけるもの)審査の視点レポート
グッドデザイン賞では、毎年その年の審査について各審査ユニットごとに担当審査委員からお話する「審査の視点レポート」を公開しています。グッドデザイン賞では今年、カテゴリーごとに20の審査ユニットに分かれて審査を行いました。審査の視点レポートでは、そのカテゴリーにおける受賞デザインの背景やストーリーを読み解きながら、各ユニットの「評価のポイント」や「今年の潮流」について担当審査委員にお話しいただきます。
本記事では、審査ユニット01(身につけるもの)の審査の視点のダイジェスト版をレポートします。
ダイジェストではない全部入りは、YouTubeで映像を公開していますので、よろしければこちらもどうぞご覧ください。
2020年度グッドデザイン賞審査の視点[Unit01 - 身につけるもの ]
担当審査委員(敬称略):
吉泉 聡(ユニット01リーダー|デザイナー / クリエイティブディレクター|TAKT PROJECT株式会社 代表取締役)
岡本 健(グラフィックデザイナー|株式会社岡本健デザイン事務所 代表取締役)
廣川 玉枝(クリエイティブディレクター/ デザイナー|SOMA DESIGN)
本田 敬(プロダクトデザイナー|愛知県立芸術大学 美術学部デザイン・工芸科 准教授 / Design Studio CRAC 代表)
ユニット01は、どんなものを審査するのか
吉泉 ユニット01は「身につけるもの」というカテゴリーの名前も付いていますが、シンプルに本当に身に付けるものが中心になっています。
具体的には、着用している衣類や、日常履きをする靴(スポーツ用のシューズは除く)、バッグ、財布などの小物類、腕時計類(時計に関しては、スマートウォッチを含む)などがあります。身に付けるものなので割とテクノロジーがバリバリ入っているというものよりは、もう少しアナログ的なものも多いです。
スマートウォッチなどは、一番テクノロジーが入っているものかなと思います。あとは、今年の大きな出来事ですけれど、新型コロナウイルス対策に関わるような、マスクやフェイスシールドのようなものもカテゴリーに入っていて、非常に身近なアイテムを取り扱うようなユニットになっています。
眼鏡 [JINS SCREEN Nose-Pad Less]
岡本 僕は、このような一般的なメガネの構造とは異なる製品というのは、かけてみると、掛け心地に違和感があるというものが多くて。それが今回、この製品を使用した時、違和感が全くなかったんですね。なので、思わず「あれっ?」て声を出してしまうほど、一般的なメガネとの掛け心地の差異がなかったというのが、かなり驚いたところでした。
廣川 私もメガネは毎日かけるんですが、どうしても鼻のところに赤い跡が付いてしまいます。それがずっとストレスだったのですが、そういったストレスは、もう解消できないものだと思っていたんですね。それを、こういう考え方でメガネが作れるんだと、新しい発見があったので、本当に商品としてありがたいなということを身をもって感じました。
本田 僕は、リーディンググラスをつけるくらいなので、いつもは裸眼でメガネの経験が浅い者ですけれども、鼻パッドに関するユーザーの声は聞いていました。
この製品を見たときは、鼻パッドを無くすのは、ストレートな回答の一つだけれども、耳のつるの部分で保持するのはなかなか無理があるんだろうなと、かけるまで勝手にそういった読みをしていました。しかし予想以上にきつくもなく、違和感なく、ちゃんとかけられて。特に髪の長い方なんかがかけた時に、ちゃんと見えない形でおさまっていて、問題がクリアに解決されていて、ちょっと驚いたというのが正直なところです。
吉泉 メガネというプロダクトで面白いなと思うのが、機能的な部分と、ファッションの一部で自分がどう見られるか、どう見るか、ということがあって。この商品は機能的に難しいこと、解決として難しいなと思いつつも、耳のテンプルの部分の見られ方というのが綺麗にデザインされていているんですね。パッと見て、普通のメガネであるという、そこの視点が素晴らしいことかなと思っています。
スライドファスナー [マグネットファスナー]
吉泉 これは、百発百中で成功できて、ちゃんと問題が解決されて、本当にすごいなと率直に思いました。こちらも、メガネの話に少し似ているかなと思うのですが、もともとユーザーには、ファスナーがスムーズに上げ下げできない、面倒だなという悩みがあったと思うんですけど、結構そう言うのって諦めてますよね。
だから「交感」というテーマに触れて、どこのタイミングで交感が起きるのかなと考えると、ユーザーもまさかというところで新しい手法で解決される、「そういえばそうだよね」とハッと思う瞬間とかが生まれるなと思っていて。
どこまで作り手側が突き詰めて、当たり前だと思っていることにも向き合う姿勢ということに、「交感」が生まれる、そういう粘り強さを感じました。
廣川 ファスナーにも色々な種類があって、私たちは何気なくファスナーをしめるという動作に慣れていると思うんですよね。
「パッとくっついて、すっと上にあげられる」そういった些細なことなんだけれども、もう少しだけ前に進めるデザインというか、そこを突き詰めていかれる企業の姿勢、不自由のある方ですとか、スポーツやられる方とか、子供とか、そういう人たちの視点で物事を捉えて新たなものを開発するというのは、すごく社会的にもいいなと感じました。
本田 この製品は、専門性の掘り下げにちょっと驚くというか、ユーザー側が求めていること以上のものをメーカーさんの方が先に掘り進んでいると感じました。
また、プレゼンテーションで価格のお話をされているのをお聞きしたのですが、通常商品の7〜8倍というようなこともおっしゃって。価格がちょっと高いなと思ったのですが、おそらく汎用品が相当安いんだと思うんですよね。
そういう意味では、通常のスポーツシーンよりも、エクストリームスポーツのようなシーンであれば、その価格も全然吸収できるんだろうなという印象を受けました。
岡本 僕は、二次審査でファスナーを触りながら、一人の人間が人生の中で一体何回ファスナーを開け閉めするんだろうって考えたんです。
子供がファスナーの開け閉めがうまくいかなくて、すごくイライラしている時があったりして、僕がしめてあげたりするんですけど。
そして今、僕はそのファスナーを自分で開け閉めできるようになっていますが、また僕が歳をとり、手があまり動かなくなった時に、ファスナーの開け閉めがしにくくなるということを考えると、ファスナーという物自体の適応年数みたいなことが結構短いんじゃないかと思っていました。
その適応年数がぐっと幅広くなるというのがこの製品だなと思ったので、すごく価値のある構造だなと思いました。
半袖シャツ・長袖シャツ [MIENNE]
廣川 形はすごくシンプルで、パッと見は普通の体操服ですけれども、素材の段階から開発されていて、そういった機能的な部分を追求していくというところは、なかなかできない視点だと思いました。菅公さんは、学生服などをずっと作ってこられて、遂にそういう悩みを解決したっていうのは素晴らしいことだなと思いました。
吉泉 これはいいなと思った製品の一つですね。機能的なところでは、今、廣川さんがおっしゃったみたいに、素材から開発されていて、もちろん素晴らしいし、また、菅公学生服さんという会社がこれを作ったところに、すごく意義があるなと思いました。学生服のようなアイテムは、学校が指定をしている中のものを選んだり、親が選んだり、あまり学生自身が自分では買わない、みたいな構造の中で、こういった製品があることで、本当にじわーっと学生の生活がいい形でクオリティアップできると思いました。そういう状況がパッと思い浮かび、すごく意味のあることだなと見ておりました。
岡本 僕は、こういった製品を見て、確かにそういった問題が大きく根深くあると言うことが理解できたし、それに対して技術的にクリアしているというところは非常に良い取り組みだなと思いました。吉泉さんがおっしゃったように、菅公学生服が作るところがすごく意味があることで、この先のチャレンジとして、もっと奥深く、例えば、そもそもなんで白シャツじゃなきゃいけないのか、白じゃないくてもいいんじゃないか、というところまで、こういった企業が踏み込めたりすると、学校そのもののシステムが変わっていくんじゃないかと思って期待しています。
本田 皆さんもお話されたように、もちろん体操着なので通気性などそういうことの関係から、薄くて白い・透けて当然みたいに思われていたことも、先に話したメガネやファスナー同様に、そこを解決したんだ、という驚きが一番ありました。根本的なところで支えていくという意味ですと今回は体操着ですけれども、学生服も、今はジェンダーレスの話が出てきていますよね。社会を変えていくような、そのうちの一歩かなという印象をこの体操服からも感じました。
カテゴリーごとに審査を振り返って [時計・アクセサリー類の審査]
吉泉 時計は一番難しいなと言えるくらい、皆さん悩むところなんです。
何で難しいかというと、ある程度成熟している分野というところもあるんですけど、新しく出てきている製品の「新しい」と言う理由が、例えば、今までのシリーズのアップデートであったりだとか、もしくは、今すでにあるような価値観を買いやすい値段にしているものだったりだとか、結構そういったものが多いんですよね。もちろん買いやすくなるというところも良いですし、今まで歴史的に作り上げてきたものをさらにアップデートしていったりとか素晴らしいことだとは思うんですけども、ある正当性を持って評価するときに、人にどういう風にそこの価値を伝えるかというところが、結構、嗜好品的な話になりがちなところがあるんですよね。そういう意味では本当に議論を結構尽くしてるんですが、改めて皆さんも時計の審査を終えて、あの時こうだったねという感想を今日聞いてみたいです。
ハイブリット型スマートウォッチ[wena3]
廣川 時計は主にメンズ向け商品の応募が多いんですが、wenaというスマートウォッチは、最初、製品を見ただけではよくわからなくて。
ヒアリング審査を行った時に、今、アナログウォッチをみんな使わなくなってきて、携帯電話の時計機能を使ったり、スマートウォッチをするんだけれども、スマートウォッチって普段、表側のデザインをするんですが、wenaは、スマートウォッチ機能をバックル部へ集約させていくということで、それで例えば BtoBで他の時計メーカーと組んで、ヘッドやバンドとのコラボレーションも実現可能になったり、自分の好きな腕時計をスマートウォッチとして使用することができますよと言っています。
そういったコンセプトを聞いた時、単純にアナログウォッチとスマートウォッチというもので分けていたところを、全く新しい視点で物事が生まれる可能性がまだまだあるんだなと発見をさせてもらって、これはすごいいいなと思いました。
本田 僕は、アナログ時計について触れたいと思います。
世の中にたくさんの腕時計、スマートウォッチが出てきてるにも関わらず、今でもアナログの人気も高まっていたりして、今回受賞されたアナログ時計は、前のモデルもしくはそのずっと継承されてきたそのブランドの中で、すごく重要な進化を遂げているって言うものが評価をされたんじゃないかなと思うんですね。
沢山のモデルをリリースされているメーカーさんが多いと思うんですけど、継承の仕方とか、その中で通常の進化だけではない、もう一歩強い進化を起こしてそのブランドをしっかりしたものにしていこうという心意気みたいなものを感じられたのが受賞されている気がしました。こちらとしても審査の中で、そういったところを評価できるんじゃないかなと。とにかく今の時勢に乗って沢山作っていくという姿勢ではない、逆の大事なものを伝えていくという価値感のものに評価が集まったような気がします。
アクセサリー [イクエ〜紙と金のジュエリー〜]
岡本 せっかくなので僕はアクセサリー分野の話をしたいと思います。
今、これまでの情報の発信の仕方や販売の方法が変わっていったことで、一般的な流通のルートに乗らなくてもいい、出口と入口がひとつのルートじゃなくてもいいっていう状況が起こっているなと思っていて。
それが今回受賞したikueは、まさにその最たる例かなと思います。
アクセサリーを作るからアクセサリーブランドが製造しなきゃいけないということではなくて、本を作る・紙の加工をする会社さんが製法技術を使ってアクセサリーを作るという、これまでの入口と出口が全然違う方向でものが作られた時に、全く新しい見方の価値が生まれるっていうところがすごく面白いなと思いました。そういったところを評価できるのがグッドデザイン賞の意義なのかなというふうにも感じました。
バッグ・財布などの小物類
吉泉 バッグも難しいんですよね。これの難しさって何だろうと考えると、やっぱり世の中にある製品数がめちゃくちゃ多いものだからだと思うんですよね。
グッドデザインの審査基準の中で、社会性みたいなところを考えると、応募されてきたものだけを評価するのではなくて、これは今の社会における現時点のバッグの中で、どんな立ち位置にいるんだろうかというところまで考えたいなというのが審査としてありました。
そういう意味では出てきているものはどれも素晴らしいクオリティではあるんですが、これってどうなんだっけ?という問いを、審査委員の皆さんとなるべくやるようにしたかなと思っています。そういうふうに考えて、一つ底上げしてくれる視点だったり、未来に繋がっていく何かがある、もしくはクオリティ的に非常に素晴らしい何かがある、というようなことを議論しながら見つけていく審査だったかなという感じています。皆さんはいかがでしょうか。
廣川 バッグもお財布も、どちらも世の中には沢山溢れていて、お財布に関してだと、ちょっとずつ会計のシステムも変わってきて、カードで決済できるとか、スマホで決済できるようになってきたときに、鞄もなるべく持たないでコンパクトにしたいとか、名刺入れや、小さく折りたためるお財布など、小さいことに対してフォーカスしてると思うんですね。
それでいてやっぱり機能的に優れているか?とか、すごく細かく審査でみたと思います。お財布だったら薄くても使った時に小銭が落ちないか?とか、そういうところをちゃんと考えられているか協議したりして。鞄もやっぱりある程度は機能性というところが重視されるんですけど、今回は例えばピクニックやビジネスなど、何かあるシーンにおいてフォーカスした品揃えは多くて、そういった中でもこういうものがあったらすごく良いかもしれないねっていう小さな発見が生まれ秀でているものは受賞できているのかなと思いました。
岡本 審査をしている時に、製品をもちろん見てはいるんですが、その周辺の、例えばプレゼンボードや、パッケージだったりとかロゴマークがあるものはロゴマークだったりとか、その全体のたたずまいを含めてみているときに、やっぱりバッグや財布って、持っていることで自分の気分が高揚したりとか、そういったこともすごく重要な要素なんじゃないかなと思ったときに、それが一つ、例えば自分が好きなブランドを持っているとか、このブランドを持っている自分が好きとか、何かそういった感覚も必要なんじゃないかなと思っていて。そうなってくると、ただ製品が良いだけではなくて、例えば購入した時のパッケージが素敵とか、そのロゴマークが素敵とか、何かそういったことの全体のブランディングを含めて評価をしていきたいなと思いました。今回のエレコムの名刺入れなどは、そのパッケージの佇まいもすごく丁寧に作られていたので評価をしました。
名刺入れ [MINIO_名刺入れ]
本田 皆さんの話を総合してになるんですが、やっぱりファッション性・嗜好性みたいな話になってくると、どこを見て審査していいんだというところがあって。多分それは、購入者も同じようなことが起きていると思うんですね。
それで今、岡本さんも触れたように、売り方もどんどん変わってきて、今まで店舗などで大量にかかっているバッグの中からとか、並んでる財布の中から選んでいたっていうのから、もう少しちゃんとエンドユーザーに語りかけて売っていくということが、すでにネット販売なども使いながら起きてると思うんですけれども、そこら辺を踏まえてこちらの応募でもそこがちゃんと語られると、審査委員の方にも伝わってくるので。今回、その視点があるブランドやメーカーさんのものが強かったんじゃないかなと思いますし、今後も強さを増していくのかなという気はしました。
衣類、シューズ類について
廣川 靴も色々な種類の靴があって、どういったものを選ぶのかというのは、個人の嗜好性によるんですが、靴はやっぱり履き心地がすごく良いですというところをフォーカスしている製品は、結構あったかなと思います。長く履いていて疲れないとか、働くシーンにおいて機能性に優れているなどにフォーカスしたものっていうのは、裏側の構造や作りがしっかりしていて、そういった製法にちょっとこだわった、良くしたという視点も合わせて、総合評価されたものが多かったのかなと思います。インナー類に関しては、糸からの開発や、編み方の開発・構造とかも機能を伴って連動してきていて、例えばガードルとか、キャミソールなどもすごく完成度が高く、よくできているなという印象はありました。
岡本 僕は、この分野が今回一番難しいと感じました。例えば、靴もある程度の正解は出てしまっている中で、じゃあこの靴は何がいいのか?という、少しいいところを探す審査になってしまっていたなというふうに感じています。
個人的には、機能を深堀していいものを作る、というところはすごく大事なことだと思うんですけども、やっぱり一瞬でパッと見た瞬間に、僕が明日にでも買いに行こうとか、これ履きたいとか、これ着たいっていうものが出てくるといいなというふうにちょっと今後の期待を込めて評価させていただきました。
本田 シューズに関しては、機能性のものが、スポーツ系のものでも、ビジネス系のものでも、すごく謳われている時代になっていると思うんですけれども。
そこで、今回、下肢障害のある方に向けたシューズがあったのですが、昔からそういった取り組みがあったといえばそうなのですが、今回受賞したものに関しては、ビジネスシューズというか、ドレスシューズとしての完成度も高くて、ある意味そこまで独自性や、主張がはっきりしているものに関しては審査がしやすかったかなと思います。逆にみると、やはりそうではないものたちは、沢山あるシューズのうちの一つという見方にどうしてもなりがちだったので、そこでの差があるかないかというところは審査する側にとっては、きっかけになるというかトリガーになるかなという気がしました。
吉泉 皆さんにおっしゃっていただいたことと同じなんですが、この辺は本当に難しいですよね。他にもたくさん審査対象があって、受賞されている数がだいぶ絞られてるというのはお伝えしておいた方がいいかなと思うんですけど。
この審査の難しさは、ファッションとしての側面と機能としての側面って両方あるので、そこをとても深い次元でまとめあげている製品はどれなんだろうかと考えながら審査をしていたかなとは思います。
そういった形で来年度以降も、是非いろいろご応募頂けて、活況をもたらしたいパートかなというような気はします。
コロナウイルス対策関連商品について、コロナが影響して審査に対して目線は変わったか?
岡本 審査の基準が変わったということに直接は繋がらないんですけども、去年から僕は審査委員をやらせていただいて、審査の方法がものすごく変わったっていうのが今回感じたことです。審査をするにあたって事務局の方が感染対策をいろいろとってくださったりとか、ヒアリングの審査もすべてビデオ会議で行ったりとか、その審査の方法が違うだけで、おそらく自分は小さな基準も変わっているだろうなというふうに感じていて。これがまた来年度どういう審査の方法になるのかによって、おそらく審査委員のそれぞれの感性も変わってくるんじゃないかなというふうには感じました。
本田 この審査に向けてもっとたくさんのコロナ関係のものが応募されるのかなと思っていたんですけども、意外にそうでなかった。もしかしたら一時的なもという形で作られたメーカーさんもいらっしゃるので、応募しても・・・ということもあったかもしれませんが。本当は今年もう少し選定できて、どういう部分が評価されて社会にとってどう有益だとかいう話がここでできると良かったのかなっていうのが、ある意味ちょっと少し残念だったかなという印象でした。
廣川 こういう世界の状況になって、私たちのライフスタイルも大きく変化したし、どこまで続くかわからないけど、コロナと一緒に寄り添って生きていかなきゃいけない。今はそういう状況なので、今までとはやっぱり頭の中を切り替えている、違う視点で物事をとらえていると思います。
そういった意味で、他のユニットでもコロナ対策関連の応募はあったと伺っていますが、応募はいっぱいあるけれども、やはり良いものというのは、良いものを目指して作られていて、グッドデザイン賞でもそういったものが選ばれています。その環境において必要だからといって作られて、ものはいっぱいできるんだけれども、我々はグッドデザインという視点でみているので、長い時間軸で考えれば、この製品はいつでも通用していくか?という視点で見ていると思うんですけど、審査に対しては本当にいいものを選んでいるという意識で、コロナ前と後とでは変わらないです。
吉泉 今年の審査は、本当に真っ只中というところでやったと思うので、応募作についてもまだまだそういったものは少なかったし、我々もそこにあまり振り回されないで、もう少し深いところで共通している何かを考えたものに評価ができるよう心がけて審査をしました。
全体的な話でもあるんですが、ユニット1はすごく成熟しているものが多いというところがあったと思うんですが、結局成熟しているということは、ある価値観のもとに法って成熟してるわけなので、そこに対して少し物足りなさみたいなのを感じている部分もこのユニットはあると思うんですね。
身につける物っていうのは結構ライフスタイルそのものにすごく関わってくるものですし、精神的なところに関わってくるものだと思うので、そういう意味では成熟とはまた別の可能性みたいなことを一番出しやすいものでもあったりするのかなと思いました。
2020年度の審査を振り返って
岡本 今回コロナウイルスのことももちろんですが、キャッシュレスが普及したりとか、レジ袋が有料化されたりとか、我々の生活が大きく変わる時代がちょうど今来ているなという状況で、強制的に変わったことによって消費者の方々がすごく気付くようになったんじゃないかなと思っています。
例えばリモートワークとかはやってみたらなんとか出来ちゃったし、レジ袋もなくても意外と不便じゃなかったとか。
グッドデザイン賞もちろんですが、デザインというのは、そういう気づきを与えてあげなくてはいけない場で、気づける人が増えたからこそ、今、その気づきを与える者たちが今後も増えていけばより良くなるんじゃないかなと思っています。おそらく来年はそういった気づきに対しての答えがたくさん出るんじゃないかなというふうに期待をしています。
本田 他のユニットであれば、システムみたいなものであったり、無形のものもあったり、逆に建築とか車みたいにすごく大きなもの、動産・不動産みたいなレベルのものもあったりするんですが、ユニット1の身につけるものは、価格的にも安価であったり、自分たちが手にとって使えて、ほとんどの人に影響のあるようなプロダクトという意味からすると、我々の普段の生活に一番関連してきて、そこから、コロナみたいな影響もありますし、インフラみたいなことも自然に関係してくると思います。
外的な要因というか、そういったことが起こると、ほとんどすべての人に影響が起きるような製品を扱っているユニットでもあるので、そこの大きな流れみたいなのをつぶさに観察して、作り手側も、ユーザー側・購入者も、変わっていかなきゃいけない部分を細かく見つけ出して丁寧に進化をしたものも正当に評価されていくような気もしました。
大きくドラスティックに変える部分もあると思うんですけれども、今後ユニット1で応募される方は、実は社会全体がぐっと動いている時代でもあるので、その中で全体が気をつけていかなきゃいけない部分とか、そういう視点で、ものづくりをしていくのもあるんじゃないかなという気がしました。
廣川 身につけるものというのは、やはり私たちが身体に毎日身につけられる可能性があるという商品・アイテムなので、基本的には人々の豊かさや楽しさのために作られているんだっていう意識が結構あると思うんですが、今回の場合は、機能性にフォーカスしたことが多かったんじゃないかなと思いました。
ものは何で構成されているかなと捉えると、見た目の審美性とか機能性とか、時代性とか色々な構造が合わさってできていると思いますが、そういった中でももう少しユニークで楽しいものだったり、個性があるものがもっと出てきてもいいと思いました。もちろんこういった状況下というのはありますが、新時代になったんだけれども、やはり人々はすごく豊かさや楽しさとか、喜びを求めてるんだなというのは変わらないと思ったんですね。そういった意味で、新しい時代においてどういったものが求められるかなという視点はもちろん必要であるんですけれども、長く生き続けられるものをフォーカスして見ていけたらいいのかなと、そういったものを期待しています。
吉泉 僕はユニット1というところを離れて、他のユニットがどうだったのか?みたいなところを含めて考えてみると、別に変わることが正しいわけではないんですが、これから社会が変わるんだと思うようなことがたくさん受賞作にあったし、それがすごく印象的だったんですね。
サーキュラーエコノミー的なことだったり、オフグリット的なことだったり、シビックテックみたいな話とか、サスティナビリティももちろん含まれますけど。これから新しい社会を作っていかなきゃいけないなっていうふうにみんなが思っていて、しかもそれが実装できる段階でできているようなものが他のユニットの応募にあって。
そういったことを俯瞰的に考えた時に、力が個に戻ってきてる部分があって、それぞれがどういうふうに作用して、生活を作っていきたいかとか、それぞれの創造性をどういうふうに引き出していけるかとか、どういう暮らしをしたいかとか、そういったようにだんだんなってきていると思いました。
本田さんがおっしゃったことに繋がっていきますが、このユニットは身近なものを扱っていくので、結局そこがある程度一緒にシンクロしていかないと、そういった大きな概念としてのものがやっぱりちゃんと着地しないと思うんですよね。そういう意味ではもうちょっと成熟っていう意味から離れたところのものとかもこのユニット1から出てくるんじゃないかなということを期待したいですし、身近なものを取り扱うユニットが逆に仕掛けていくということが、新しい価値観の実現に繋がっていくのかなと思ったりしました。
少し大きな話になりましたが、そういったことを、全体を見ながらユニット1に応募を検討されている方も考えてみられるととても面白いのかなというふうに思っています。
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