『デザインのまなざし』のこぼれ話 vol.13
マガジンハウスが運営している、福祉をたずねるクリエイティブマガジン「こここ」で、グッドデザイン賞の連載『デザインのまなざし』の最新エピソードが公開されました。
第13回に登場していただいたのは、2020年度グッドデザイン賞を受賞した「ソーシャルグッドロースターズ」を運営する〈一般社団法人ビーンズ〉の代表 坂野拓海さんです。
このショップは、障害のある人々の挑戦として始まったコーヒー焙煎所です。グッドデザイン賞の審査会では、「社会から支援される側ではなく、価値を生み出し社会を支援する側になれる場をつくり、障害者の労働のあり方を新しくデザインし直した素晴らしいプロジェクト。これからの福祉施設、障がい者雇用の手本になると言えよう」と讃えられました。
このnoteでは、本編には文字数の関係で載せきれなかった 坂野さんのパーソナリティに関することを中心にこぼれ話としてお伝えします。
―グッドデザイン賞を受賞された際は、どのような反響がありましたか?
坂野:自分たちで手掛けたものが第三者から認められると、誰でも嬉しいものですよね。特にグッドデザイン賞のように多くの人が知っているものですと、働いているスタッフをはじめ関係者のモチベーションがぐっと上がりました。
特に、当時はまだ就労施設の受賞は数少なかったので、パートナーである千代田区の担当者はとても喜んでくれました。また全国各地から視察が多いのですが、行政の方に説明する際に、受賞したことに触れると認識や納得度が変わるようです。それだけブランド力があるアワードだと知りました。
―インタビューをしてみて、坂野さんは福祉の世界にはあまりない、とてもクリエイティブな視点をお持ちだと思いました。
坂野:そうですか。私自身の背景は、確かに福祉というよりデザインに近いのかもしれません。前職はコンサルティング会社で、与件を整理し、事業を構想し組み立てるのが得意でしたし、大きな組織の経営や、組織のデザインをやっていました。また、流通の仕組みづくりなどもやっていたので、ものごとを設計するのは手慣れています。
―そうでしたか。さらにブランディングなどの知識もお持ちだったのですね。
坂野:社会のニーズや要望があったので、しっかりしたブランドをつくろうと決めたのですが、最初に二つのことにぶちあたりました。一つは法律の壁です。もう一つは福祉施設でつくった商品はクオリティが低いという偏見です。福祉施設なのだから、コーヒーの値段は30円とか50円とかにするべきと言われたこともありました。
その偏見を覆すために考えてできたのが、「ソーシャルグッドロースターズ」という名称であり、パッケージなどを統一したコミュニケーションデザインです。
名称はかっこいい名前、というよりも、実際にやることが直ぐにわかる名前にしようと思って、名付けました。
―それで「ソーシャルグッド」を店舗名にしたのですね。
坂野:コーヒー豆を仕入れ、焙煎し、販売して終わりでなく、得た利益は、生産者支援や医療福祉施設への寄付などに循環されることがわかるような名前にしたかったのです。また、一方的に支えられている弱いイメージを塗り替えたいとも考えていました。
ブランディングと言っても、何もかもが初めてでしたので、コーヒーの味も、パッケージも、グッズの開発も自分たちでやっています。ユニフォームもみんなで話し合いながらつくりました。最初からあるブランドを単に使うのではなく、自分たちでつくっていく過程そのものが、一人ひとりの経験になり、それがブランドになることを目指しています。
開業当時は「ソーシャルグッド」という表現は、日本ではまだあまり使われてなく、それほど広がらないだろうと予想していました。今でも検索結果で上位に表示されますので、戦略的なネーミングだったとも言えるのではないでしょうか(笑)。
―最初に始めた渋谷のものづくりを中心にした就労施設「TEN TONE」では、3回目の連載で取材した「シブヤフォント」で制作したパターンも、雑貨などのプロダクトで使っていますね。
坂野:はい、そうです。実はここのテラスにある木製のベンチは全て、TEN TONEでつくりました。市販の家具を買う予算がなかったからなのですが、3週間かけて自分たちで手作りしました。
そもそもTEN TONEは、本当に何をしたいのか自分でもわからない人や、挑戦したことがない人が多かったので、何でもチャレンジできる場として最初に開設しました。ここで、女性が活躍できる場所が欲しいと聞いて青山で花屋を始めたり、コーヒーショップに挑戦したい方がいてこの店になったりしたのです。
―ちなみに、ソーシャルグッドロースターズが入居するこのビル「神田テラス」も、2018年にグッドデザイン賞を受賞しているのですよ。
坂野:え、それはこれまで知りませんでした……。となると、うちはグッドデザインビルの中にある、グッドデザインショップのソーシャルグッドロースターズなのですね!