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【僕とKさんのエシカルな日常 #6】世界の学校とランチビュッフェから、多様性を学んだ話

記録的な猛暑が続いた8月も
そろそろ終わりを迎えたころ、
僕は大汗をかきながら
子どもたちとフットサルコートにいた。

実は今日、僕とKさんが所属するチームが
夏休み中のイベントとして
地域の子どもたちにフットサルを
教えることになったのだ。

いやぁ、子どもたちはすごい。

暑い中でも、ボールを追いかけ回るし、
この異常気象のような気候に
小さい頃からチューニングがあっているのか、
僕たち20代後半の社会人に比べて、
暑さへの耐性が強い気がする。

それでも、僕たちの小学校の頃と
なんだかんだ変わらないなぁと感じたのは、
ゲームが終わった後の子どもたちの会話。

「おまえ、夏休みの宿題終わった?」
「まだだよーやばいーー」

あぁ、これぞ8月末の風物時。
2学期が始まる前のこの憂鬱は、
今の子どもたちも同じなんだなぁと。

そのとき、ふと気になる会話が聞こえてきた。

「でも、タケシはいいよなぁ。
アメリカって宿題ないんだろ?
夏休みも2、3ヶ月あるし」

するとタケシくんらしい、
体の大きな子どもが答えた。

「まぁ、向こうは9月から新学期だしね。
そもそも休み中に宿題がある国って珍しくて
日本とかアジアの国ぐらいらしいよ」


「えー、なんでオレ日本に生まれたんだーー」

おちゃらけた大袈裟なリアクションに
子どもたちは大笑い。

それを見ながらKさんが、
仏のような表情で笑っていた。

子どもたちとの交流イベントも終わり、
僕とKさんは一緒にランチに向かった。

フットサル場から出て、二人で歩きながら
さっきの子どもたちの会話が気になって
僕はKさんに聞いてみた。

「Kさんって世界中を旅してきたじゃないですか。
海外の学校の話とかって聞いたことあります?」

「ああ、同じドミトリーにいた人たちと
スクール文化の違いはよく話題になったよ」

「海外の人って、日本の学校の何に驚くんですか?」

そうだなぁ、とKさんは自分の髪の毛をさわった。

「皆が同じ制服を着ていることもそうだけど、
一番は髪の毛を染めたら校則違反みたいな話かな」

はぁ、なるほど、なるほど。

「日本は『和』を大事にする文化だから、
教育でも『皆と同じ』ということに
重きを置くところがあるけれど」

確かに、青春の1ページには
校則に違反しないギリギリを攻めて、
どう『皆と同じ』から脱却するかを
こそこそ競い合っていた思い出がある・・・

「海外では、そもそも多民族国家が多いから、
髪や肌の色とか、服装とかを同一化してはいけないし、
個人のアイデンティティを大切にしているんだと思う」

日本とは、そもそも土壌が違うんだなぁ。

「教育方針も、日本は皆と同じレベルの勉強をするけど、
海外では一人一人の可能性を伸ばす意識が強い気がする」

「飛び級とかもそうですよね」

「そうそう、逆に義務教育でも落第することがあるし」

え、それはびっくり。

「北欧なんかは、テストや入試がないのが普通みたいだよ」

え、それもまたびっくり。

「同じ物差しで測らない、ということなんだろうね。
それが、多様性の原点なのかもしれない」

確かに、これぞ多様性だ。

やっぱり海外の学校は進んでいるなぁと
ちょっと劣等感を抱き始めた僕の耳に、
近くの高校のグラウンドから
部活動をしている学生の声が聞こえてきた。

Kさんも同じ声を聞いたのだろう。
グラウンドの方を見ながら

「でも、日本の学校もいいところが
いっぱいあると思うんだ。例えば部活とか」

部活?

「ヨーロッパなんかは、スポーツをやりたい人は
地域のスポーツクラブに行くしかないし。
学校で好きな文化やスポーツに熱中できる時間を
用意してくれるのって、すごく贅沢だと思わない?」

僕はサッカー部だった頃の自分を思い浮かべた。

「ちなみに海外の人に、日本には学校に
プールがあると言うと、ほぼ全員が驚くよ」

へえーーそうなんだ。

「あと、掃除の時間。
日本って必ず生徒が掃除をするけど、
向こうは清掃員を雇っているからね」

あぁ、けど掃除って
結構めんどくさかった記憶が・・・

「ものを大事に使うとか、
公共の場所をきれいにする意識って、
そういうところから芽生えるんじゃないかな」

Kさんは、ふと歩道を見渡した。

「海外を旅すると、すごく分かるよね。
日本の街ってきれいだなぁって」

「それ、すごーくわかります」と
僕は心の中で何度もうなずいた。

気がつけば、僕とKさんは
ランチの目当ての店の前に着いていた。

看板に描かれた
『ランチビュッフェやってます!』の文字が
らんらんと輝いている。

フットサルで消費したカロリーは
食べ放題ぐらいでないとカバーできない。

僕とKさんは、そそくさと入店し、
和洋中の料理の数々を前に戦闘態勢に入った。

そして思い思いのプレートを仕上げて
テーブルにつくと、Kさんが話し始めた。

「多様性と言えばね、日本の学校でも
男女共用のトイレが導入された学校があるみたい」

「それは、トランスジェンダーへの配慮で?」

「そう、もちろん男子専用、女子専用もある中で、
男女共用もあって、自由に選択できるようにしていて」

日本の学校も進化しているんだなぁと
僕はウインナーを口に入れた。
あぁうまい。

「多様性って、ある意味大変だよね」
Kさんは、スープを一口すすって言った。

「日本の昔からの教育のように、
『こうしなさい』というのは、すごく楽だと思う。
生徒からすれば考えなくていいし」

「多様性とは真逆ですけど・・・」と
僕は唐揚げを口にした。あぁうまい。

「多様性に対応した社会って、
ちゃんと選択肢があるということだから。
受け手側としては、そのどれかを選ばなくちゃいけない。
それって、自分が何者なのか、何を欲しているのか、
そもそも理解しなくちゃいけないわけだから」

そう言ってKさんは、ビュッフェの料理が
並ぶカウンターを見つめた。

「多様性って、ビュッフェみたいだよね。
誰にでも対応できるように料理を揃えて・・・
そこで何を選んだかによって、
その人の本性が現れるというか・・・」

僕はハッとして、手を止めた。
そしてKさんのプレートを見てみた。

そこにはスープから野菜、主菜、副菜と
彩りも栄養もバランスよく配置された、
見事なプレートがあった。

そして僕といえば・・・

ウィンナー、唐揚げ、ハンバーグ、カレー、焼きそば・・・

茶色! 見事に茶色だ! 子どもか!

どこか恥ずかしくなって、
僕は食べるスピードを早めた。

多様性に対応した社会を前にして、
僕は自分の子どもっぽさを再認識することになった。

多様性とは、自分と向き合うことから
始まるのかもしれない。
とにかく、もっとバランスのいい食事を心がけよう。



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