ビバリウム 感想
『ビバリウム』
ロルカン・フィネガン監督 ジェシー・アイゼンバーグ、イモージェン・プーツ主演
※予告の内容以上のネタバレはないけど、まっさらな状態で観たい人は読まない方が良いぜ
【予告】
92点
「ただ家が欲しかっただけなのに・・・」若いカップルが怪しい不動産屋について行った結果、同じような家が延々と立ち並ぶ異様な住宅地に閉じ込められてしまう。そんなカップルの元に「育てれば解放される」と書かれた箱に入った赤ちゃんが届き、2人はそれを信じて育てはじめる・・・というホラー
まず、不条理ホラーとして最高だった!
不条理な状況に陥ってしまった人間の精神崩壊する様を丁寧に上手く描けていたし、それを支える主演2人の演技も光りまくりだ
同じような家が大量に立ち並び、絵に描いたような雲が浮かぶ・・・そんな「一見ふつうの物しか無くて何がおかしいのか説明はしにくいのだけど狂気的」なビジュアルが本当にすばらしい!こういうビジュアルを眺めてるだけで楽しかったよ
ほら理想的やろ?と言わんばかりの均等さがすげ〜気持ち悪くて最高
ただそんなビジュアル以上に気に入ったのが非常に練られた脚本!
人間の営み…つまり生殖し子供を産み育てていくサイクルを繰り返す人間の生活というものを極端に誇張したような映画なんだよね
いつの間にやら出来てて腹が減ればギャーギャー喚くわ悪い言葉を真似して可愛くないわ…と散々なクソガキとの共同生活に加え、飯はまずい景色もみんな同じ自由意志はなく誰とも出会えない・・・そんな異常空間であるヨンダー
しかし人間性を極端になくし生物的なサイクルだけを強調すれば現実の人生もこんなもんなのではないか・・・この映画を観ているとそんな疑問が湧いてくる
そう考えると赤ちゃんが入っていた箱に「育てれば解放される」と書いてあるのも非常に性格が悪い隠喩に思えてくる・・・
そこに似たような家が乱立されたり、大量製造された飯を食ったり、などと言った近代の人間性の欠如を皮肉るような描写が挟まれるのが巧い!
これによりただ不条理な状況に陥る人間の恐怖だけでなく、我々が生きている「普通の」生活にも矛を突きつけ恐怖を与えることに成功しているのです
この映画はヤベー不動産おじさんについて行ってしまったせいでカップルが地獄に迷い込む映画だけど、もしこのおじさんが普通の不動産屋だったとしてもカップルの人生に起こった事は大差なかったのではないか・・・というのが面白いね
この映画を観てて、人間が狂わせられる不条理な状況というのは人間が人間らしくあるための人間性、つまり前述したような旨い飯やら変化やら人間の関わりやらを徹底的に排除した空間であるということなのだろうなあと思ったよ(そんな中で車から流れる音楽で少しばかりの人間性を取り戻したように見えるシーンがまた良い・・・)
つまり、そういった人間性を軽視するような社会をどんどん加速させていくとこの映画のようになってしまうという監督なりの警鐘なのではないかと
僕の家の近くにも同じような団地が乱立するマンモス団地地帯があって、観ててなんかそれ思い出しちゃったねぇ・・・(そんな僕も団地育ちなんだけど)
僕はとても忙しかったりして辛い時とかに「人間はこうして一生働いたり子孫を残したりするためだけに生きそしてただ死んでいくためだけに生きる生き物なんだろうか・・・」みたいな(中二病的な)ことをいまだに考えてしまう人間なのだけど、そういった考えだったりとか大量の団地などを見かけた時に僕が感じてしまう違和感だったりとかをグツグツと煮込んでぶつけてくるような映画だったなあ
そういう皮肉もすごく楽しめたんだけど、それだけに終わらずラストで人間も含めた生物全体の自然の摂理を俯瞰するかのような展開になりもう感服・・・!観ててものすごく胸糞悪くなる映画なのだけど、最終的には善悪もない「そういうもの」なのだという達観を得られる不思議なラストだったねえ
あえて欠点を言うとするならば短編向けな題材で少し長すぎに感じる部分はあったかな〜?基本的に予告でやった内容以上のもんはあんまないしね
というわけで僕はビジュアル、ストーリーともにかなり好きな映画でしたね
暫定今年ベストレベル
こういう90分くらいのホラー映画もっともっと公開してほしいよね〜。今の時代色々大変なのは分かるけどさ〜
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