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アルバムを利く〜その14
Jeff beck group
"cosa nostra beck-ola“
1969年
曲目紹介
all shook up
spanish boots
girl from mill valley
jailhouse rock
plynth
the hangman's knee
rice pudding
1.all shook up
ダンダーン!!
アルバムを再生するとまずロックな響きのリフが飛び出してくる。それからきらきらと水滴がはねるような生ピアノの音。
そして
「いったいぜんたい俺はどうしちゃったんだ!」
(Bless my soul,what's wrong with me?)
と若きロッド・スチュワートが歌い始める。
曲はプレスリーのカバー「恋にしびれて」。シンガーは熱っぽく「可愛いキンポウゲちゃん(buttercup)」の魅力を語っていく。ここでの可愛いあの子の魅力はそのままロックンロール讃歌でもある。バンドのデビューアルバム「truth」はブルースナンバーが中心だったが今回はハードなロックナンバー。冒頭から「こんどはロックで行くぜ!」と宣言しているのだ。
それにしてもイカしたメンバーが集まったもんだと思う。ボーカルがロッド。リードギターはもちろんジェフ。ピアノが名セッションマンのニッキーホプキンスでベースはロンウッドだよ?このアルバムを聴くとジェフはソロじゃなくてバンドやりたかったんだな、とわかる。
ぼくはスタジオでレコーディングしたことはないから詳しいところはよくわかんないけど、1969年の録音技術でいうと実際にギターアンプから相当デカい音を出しながらレコーディングしたんじゃないかな。現在のコンピュータで編集や調整する音づくりと違って、ジェフのギターから吹き出すとんでもない風圧に吹き飛ばされそうになりながらバンドが一丸となって演奏する姿が思い浮かぶ。それがいい!それがこのアルバムの魅力なのだ。
アウトロ近くでロッドは「膝はがくがく肘もがたがた 2本の足で立っていらんない」という歌詞をアドリブで歌い崩す。ほんとに素晴らしい。歌手にとって大切な資質は単に譜面どおりの音程を正確に出すことだけじゃない。大切なのはこういう表現力なんだと思う。
すかさず即興で返すジェフのギターも素晴らしい。スライドバーを使った「ケタケタケタケタ・ばきゅーんばきゅーん!」という超人的なフレーズ。こんな音ジェフ以外で聞いたことがない。はじめてアルバムを聞いた高校生の時、ぼくはこのフレーズに心臓を撃ち抜かれた。あれから何十年と経ったいまもぼくの心はジェフに撃ち抜かれたまんまなのだ。
2.spanish boots
二曲目に入っても勢いは落ちずにハードな演奏は続く。
歌詞の内容は工場で働く若者の物語。ぼくが高校生のときに読んだ対訳は「でもスペイン皮のブーツにさよならを言うまでそんなに長くはかからなかった」となっていて全く意味がわからなかった。
そうじゃない。
アルバムジャケットを見てみよう。石造りの小部屋の中いっぱいに青リンゴが描かれている。有名なルネ・マグリットの絵だ。絵のタイトルは「視聴室」でこれがアルバムジャケットに選ばれた理由だと思う。
では画面中央の大きな青リンゴは何を意味しているのか?マグリットの意図は別として、ジャケット制作者はこれを「十代の若者」の象徴として扱っているように思う。大きく育っているけど、まだ青い。そして部屋いっぱいに広がった自分の体を窮屈に感じ、しかし石造りの壁を壊すこともできない。このアルバムはそんな欲求不満の若者に「そんな壁ブッこわしてコッチに来いよ!」と誘っているのだ。
また曲に戻りますが、スペイン皮のブーツは編み上げのロングブーツ。会社員や工場の労働者が履くものじゃない。これは会社や社会に縛られないロックで自由な生き方の象徴。これ、ガマンして工場で働いてるけど、給料もらったらスパニッシュブーツ買って自由に生きる!という意味なのだ。だからスパニッシュブーツにさよなら、じゃなくてスパニッシュブーツ履いたらこんな生活にオサラバ、だ。
そう捉えると間奏のハードな演奏も歌詞の内容に呼応したものだということがわかる。アウトロにはロンウッドがベースソロまで弾く。現ローリングストーンズのロンだがこのソロ聴いてるとこんな演奏できるミュージシャンにキースリチャーズの控え選手みたいなことさせといてホントにいいのかと思ってしまう。
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3.girl from mill valley
名セッションマンだったピアノのニッキーホプキンスの曲。ニッキーはたとえばプログレ界のキースエマーソンみたいにバカテクで音を並べ立てて圧倒するタイプではない。脇役のセッションマンらしく必要最低限の音しか弾かない。でもその少ない音からここにしかない詩情が立ち上がる。
わがままで気まぐれな独裁者のように形容されるジェフベックだけど、ここでの控えめなバッキングを聴いていると彼がこのピアニストの才能を大切に思っていたことがよくわかる。
ハードな演奏が続くこのアルバムの中では異色の静かでリリカルな演奏だけど、少年のロックに対するピュアな想いが伝わってくるという点では他の曲と変わらない。アルバムコンセプトは継続しているのだ。
4.jailhouse rock
そして再びのプレスリーナンバーの監獄ロック。また思いっきりハードな演奏が戻ってくる。
ここでアルバムタイトルについて考察したい。「ベックオラ」は「ロックオラ」というジュークボックスの名前をもじったものだと言う。じゃあ「コーザノストラ」は?これはマフィアの名前っぽい響きを狙ったものだと何かで読んだことがある。全体的になんちゃってイタリア語っぽい雰囲気はあるけどだからこれは「ベックとその一味たち」くらいの意味なんじゃないだろうか。このアルバムでは世間からのはみだし者であるロックバンドのメンバーたちをマフィアになぞらえているのだ。
だからこそ「監獄ロック」。可愛いキンポウゲちゃん(ロックの比喩)の魅力にやられてスパニッシュブーツを手に入れて世間からドロップアウトした若者は捕まって監獄行きとなる。
一般にジェフベックって細かい事考えずにばばばっと演奏して上手くいったナンバーをできた順にぶっ込んでアルバムつくる、みたいなイメージがあるけど、このアルバム意外とコンセプチュアルなのだ。
5.plynthと6.hangman's knee
ここからレコードではB面となる。
PLYNTH=台座。ラウドでカッコいいギターリフの鳴り響くなかなかかっこいい曲なんだけどタイトルの意味がわからない。けれどそのつぎのhangman's kneeは死刑囚が執行人に慈悲を乞う歌だから、PLYNTHという曲は監獄に捕らえられたマフィアが死刑執行を待ち受ける内容だとわかる。歌詞をよく聴くと「オレが死んでも泣かないでくれよ」なんて言っているのだ。
とにかくこのアルバム、何も考えずに聴いてもかっちょいいロックナンバー満載のホットな作品で楽しめるんだけど、よく聴くとA面から引き継いでひとつのドラマを描いているのだ。
7.rice pudding
最後は歌詞のないインストゥルメンタル。ジャムセッションっぽい曲でハードな部分とスローで静かな部分が交互にあらわれる。タイトルはなんじゃそりゃ?という感じだけどこれは本編のあとのデザートみたいなものなんでしょう。唐突に切れる終わり方もご愛嬌。
プレスリー(とチャックベリー)から始まったロックンロールは海を渡りロンドンの若者たちの試行錯誤を経てよりハードでソリッドな「ロック」になった。1969年制作のこのアルバムにはそんな「ロック」黎明期のプレイヤーたちの野心と音楽に対するピュアな想いのつまった胸踊る名盤だとぼくは思う。少なくともぼくはこのアルバムを聴くと高校生のあの頃と同じように胸のふるえとときめきを覚えるのだ。
おわり
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