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絵本を読む


11ぴきのねことぶた  馬場のぼる
こぐま社 1976年

2次元で描かれた3次元



この絵本は3歳のうちの娘のために購入した。馬場のぼるさんの名前は知っていたし代表作である11匹のねこのこともなんとなくは知っていた。でも絵本を読んでみるのははじめてだった。
読んでみて娘より先にぼくと妻がこの本に恋に落ちた。すばらしい!
なんといってもすばらしいのはこの絵である。景色がすごく広いのだ。単純な線と色で構成された平面的な絵である。でもその描かれた世界は3次元的な広がりを持っている。3次元的に演算された世界が平面的な2次元として出力されているのだ。だから絵本という窓から覗いたむこうにはこことは別の世界が見える。ワクワクする。ぼくはもうオトナだけど、馬場のぼるさんの絵を眺めていると小さな子どものようにはしゃいでしまう。

11匹のねこたち


その絵の中に登場するのは…トラねこ隊長をリーダーとするごぞんじ11匹のねこたちだ。ほんとうにしょーもない連中だ。わがままで勝手で臆病で怠け者。気まぐれだし人のものを取って反省もしない。彼らは徹底的に自由だ。まるで3歳のうちの娘みたいだ。
絵本はしかし彼らを責めない。「おともだちと仲良く」なんてしたり顔で教訓をたれたりもしない。むしろねこたちと一緒に破壊と混乱のかぎりを尽くす。このお話ではさいごにぶたの家を奪ったねこたちは台風に吹き飛ばされていくが、空を舞うねこたちはむしろなんだか楽しげだ。


馬場のぼるさんという人


馬場のぼるさんは1927年生まれ。海軍航空隊に入隊して特攻隊員として出撃を待つ中で終戦を迎えている。戦後は教職についたがGHQにその経歴を問われ職を追放されている。その後仕事を転々とする中で絵を描くことをおぼえて漫画家になった。飄々としたキャラクターだったけどけっこう苦労されているのだ。
彼が戦争というものに対してどのような意見を持っていたのかぼくは知らない。彼が入った予科練は志願制だったはずだから、「のらくろ」を愛読していた馬場少年は軍国少年だったのかもしれない。
いずれにせよ世の中の価値観が180度ひっくり返った戦前・戦後の時代を馬場のぼるさんは多感な青少年として生きた。大人たちのずるさやいい加減さをたくさん見たんじゃないかとぼくは想像してみる。ねこたちの自由奔放な姿にぼくは世間の正義や正論なんて信じないという反骨心を感じるのだ。

自由のうた


馬場さんの遺した「11匹のねこ」のシリーズはぜんぶで7篇。それほど多くはない。ノンシャランとしたこの作品は、しかしそのひとつひとつに馬場さんの生命のエネルギーがぎゅっと詰め込まれている気がする。
ここにあるのは不自由な時代に培った感性が描く自由の歌。常識にしばられないねこたちの姿は幼い子どもたちそのままだ。

おわり

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