見出し画像

闇の魔法学校 死のエデュケーションLesson1

今回読んだ本はこちら⬇️

  • 闇の魔法学校 死のエデュケーションLesson1

  • ナオミ・ノヴィク

  • 静山社

こちらも、恒例となっていいますが、読んだきっかけはTwitter(現X)でフォロワーさんが読んでいたのを見て、読みたくなったから。

魔法使いの少年・少女が学校で過ごす物語と聞いて、小学生の頃ハリー・ポッターにハマって全巻読んだし、世界観好きだし楽しんでサラサラっと読めるだろうなと思ってたけど、意外にも読み終えるまでに時間がかかってしまった(ページ数、文量がやや多めで、かつ、英語を日本語翻訳したような独特の言い回しに慣れない)。

結果的に、読み終えたし、ものすごく良い作品に出会えたと思っている。これは、きっと全巻読むし、何度も繰り返して読みたい作品の一つであることには間違いがないと思う。


あらすじ

虚空に浮かぶ魔法使い養成学校「スコロマンス」3年生のガラドリエル(通称「エル」)は孤独な学生生活を送っていた。

スコロマンスには先生や大人が存在しない。授業は学校が課題を用意して、生徒がそれぞれ課題をクリアしていく方式で行われている。
通常の学校とは大きく異なり、魔法使いを襲う怪物が校内には多数存在している。

魔法を使うためには、それなりのエネルギーが必要であり、「マナ」と呼ばれている。マナを貯めなければ魔法を使うことはできない。

エルは、同級生でかつ何人もの生徒を魔物から救ってきた英雄(と周りから言われている)オリオンという男子生徒とある事件をきっかけに知り合い、物語が進んでいく。

スコロマンスを卒業するためには、卒業ホールという魔物の巣窟をくぐり抜けることが必要となる。

現在エルは3年生。卒業まで約1年と残された時間は少ない。孤独なままでは、卒業が難しい状況でエルは様々な工夫をしながら、様々なものと戦い続ける物語

疑心暗鬼の中で生まれた絆、友情、愛がどうなっていくのか。

傷つきながらも懸命に生き延びる姿に心打たれる。

こんな人におすすめ

  • ファンタジー物語好きな人

  • 少年漫画(バトル漫画)好きな人

  • それなりに、文量が多くても読める人

ファンタジー物語好きな人

本作は言わずもがな、ファンタジー小説に分類されるものだと思う。私の個人的な感覚だけど、ハリー・ポッターが好きな人なら、この物語も好きな可能性が高い。

ただし、エルが通う学校は普通のファンタジー小説に出てくるような学校ではない。タイトルにもあるように「闇の」魔法学校である。

青春漫画的な努力。友情といった清々しい内容ばかりではなく、ジメジメとした陰鬱な雰囲気が漂い、学生同士が疑心暗鬼、まさにサバイバル状態の学園ものとなっっている。

ダークファンタジーが好きな方向けかもしれない。

少年漫画(バトル漫画)好きな人

学校に住む魔物と戦う場面が多数出てくるため、戦闘場面の描写も度々出てくる。というか、この物語に出てくる学生たちにしてみれば、常に戦闘状態なのだが。

また、全体的に暗い雰囲気の作品だが、後半は、じわじわと熱い展開になってくる。急に主人公がヒーローいなるとかではなく、自然と学生同士が絆を深め、敵に立ち向かっていく場面は、なかなかに引き込まれた。

それなりに、文量が多くても読める方

本作は、全492ページとかなりボリュームのある小説となっている。そして、文章領も最近の小説と比べるとやや多く感じるため、普段あまり本読まない方は、読み切るまでに時間を要し、断念してしまう可能性がある。
そのため、私の個人的な意見だけど、普段からある程度読書する人のほうがおすすめしやすいと思う。

また、基本的に登場人物が日本人ではないため、名前が覚えづらい…。こればかりは仕方がないが、カタカナの名前を覚えるのが苦手な方は、人物相関図を書きながら読み進めるとより楽しめるかもしれない。

感想

本作を読んでいると、常に何かと戦っている。学校に出てくる怪物もそうだが、一番の敵はやはり人間なんだと感じた。

個人的には、その人間同士の戦いが一番ダメージがあって、心えぐられるような場面がいくつかあったと思う。魔法自治領に所属していない独立系魔法使いであるエルの「孤独との戦い」。魔法自治領に所属している者とそうでない者の「格差との戦い」。卒業に向けた、チームを作って戦っていくうえでの駆け引き等「卒業に向けた戦い」。個人的にはこの3つの戦いにおいて、エルの心情変化が描かれているところが読みどころなのではないかと思う。

孤独との戦い

基本的に、エルはあまり好きに慣れないタイプの人間だと思った。しかし、それには理由があった。幼少期から、訳も分からず、ずっと敵意を向けられていたから。そして、スコロマンスでも同じ状況が続き、半ば仲間づくりを断念せざるを得ない状況であった。

そのような背景を鑑みると、エルの捻くれた、口のへらない感じは納得ができてしまう。

そのような調子なので、学校では常に孤独な存在として描かれている。

一方で、魔物を倒して数多くの生徒を救っているオリオンはニューヨーク魔法自治領出身で、かつ仲間に恵まれており、一見楽しそうに学校生活を謳歌していると思いきや、実際はそうでもなかった。

オリオン自身も孤独な学校生活を送っていた。みんなを救っている英雄としてしか接してもらえないことで、周囲との間に壁を作って接している。魔法自治領出身でコネを作りたいという打算で同級生が近づいてくることが明白であり、本当の友達がおらず、ずっと孤独な生活を送っていた。

学校で孤立しているエルが、オリオンも孤独なんだと気づく場面がある↓

わたしたちのいたところから出口のあいだには、同級生たちが四つか五つのグループに分かれて立っていた。その全員が、そばを通りすぎていくオリオンを振り返る。その顔には、すがるような期待と打算が見え隠れしていた。…(中略)…
オリオンが望んているのは−ひざまづいてひれ伏したりしない誰かと友人になることなんじゃないだろうか。

闇の魔法学校死のエデュケーションLesson1(著:ナオミ・ノヴィク)

孤独な者同士仲良くしたいけど、自分の変なプライドが邪魔をしてできない。そんな感じに読み取れた。

なんだか私自身にも身に覚えがあるような気がして、読み始めは嫌なやつだったエルに対して、親近感をいただくようになった場面は特に印象的だった。

格差との戦い

学校外でも重大な設定がある。それは、魔法使いのコミュニティの問題だ。

魔法使いも人間同様にコミュニティを作っており、大小様々存在している。特に規模が大きいのは「ニューヨーク魔法自治領」「ロンドン魔法自治領」である。

こういった大規模なコミュニティに所属している魔法使いは豊かで、地位は高く、それは学校内でも変わらない。大規模な自治領に所属していれば、たくさんの仲間ができるし、良いものがもらえる。代々受け継がれている大量のマナが使え、生命の危機に陥ることは少ない。

一方で、小規模な自治領に所属している魔法使いや、独立系の魔法使い(魔法自治領に入れてもらえない)は学内でのカーストは低く、マナも自分自身で作り出さなければならない。当然仲間とマナが少ないため、魔物と対峙した際には生命の危機に晒されやすくなる。

結局、わたしたちみたいな独立系の魔法使いは、前線で使いすてられる兵士で、人間の盾で、便利な臓器提供者で、使いっ走りで、雑用係で、メイドだ。負け犬たちが、卒業チームと魔法自治領に入れてもらうために懸命に働くおかげで、自治領出身の生徒たちはぐっすり眠り、たっぷり食べ、なにかと世話を焼いてもらうことができる。…(中略)…わたしたち負け犬は幻想でしかないチャンスが現実になる日を夢見る。だけどあいつらがわたしたちに与えるのは、自治領出身者たちに都合よく利用されるチャンスだけ。

闇の魔法学校死のエデュケーションLesson1(著:ナオミ・ノヴィク)

所属するコミュニティや地位によって、生活に困窮したり、命を落としてしまうのは、なんだか私たちが住む現実世界の縮図のようになっていると感じた。

豊かな者は生まれた時から豊かであり、貧しい者は努力をし、運に恵まれない限りは、豊かになることは難しい。

本書に出てくる魔法使いたちも、自治領に生まれた者は豊かであり、独立系魔法使いは、貧しく虐げられた生活をしている。

さらには、自治領に入れるチャンスをちらつかせながら、自分たちが快適に暮らせるようにコントロールをする。まさに現在の、一部の権力者が一般国民をいいようにコントロールしようとしている様が書かれているように感じた。

卒業に向けた戦い

スコロマンスに入学した生徒は4年生になると卒業することになる。私たちが想像するような感動的な卒業式ではなく、卒業ホールと呼ばれる学校の出口(ゲート)でたくさんの魔物と戦って学校から抜け出すことを卒業と呼んでいるらしい。

一人で戦うには無理があるので、生徒たちは、何人かでチームを組んでお互いに守り合い、魔物と戦いながら学校を去る。

ここでも、自治領出身の生徒は優秀な生徒と手を組むことができ、安全に卒業できるが、エルはどこの自治領にも属さないため、必死で仲間を集めている。

エルがなんとか必死になって仲間をつくろうとしている姿、その過程で熱い友情が芽生えるところは、全体的に暗い物語だったものを、明るくしてくれる要素があって、とてもバランスがとれており、気分が落ち込むことがなく読めた。

本作もまだ第1巻ということで、ここでできた卒業式に向けたチームメイトとの関係、友人との関係、オリオンとの関係がどうなっていくのかとても楽しみなところ。

本作の続編である、「闇の覚醒 死のエデュケーションLesson2」がすでに刊行されているらしいので、早速買って続きを読みたい。

それでは、また!

本作の作者

「ナオミ・ノヴィク」
1973年ニューヨーク生まれ。2006年「テレメア戦記」シリーズ刊行。
ジョン・W・キャンベル賞、コンプトン・クルック新人賞受賞。
その他にも、長編ファンタジー小説「ドラゴンの塔」や「銀をつむぐ者」などの作品がある。

本書の翻訳は井上里さん。
1986年生まれ。早稲田大学第一文学部卒業の翻訳家。

いいなと思ったら応援しよう!