01|はたから見たら、ただの不倫。
なんでも型にはめて考える人は、幸福度が下がりやすいという。
渡韓して約5年。韓国語が話せて、仕事は貿易会社勤務。
現地韓国人と結婚し、新築のアパートに住んで、旦那はアウディを所有。
これだけの項目でも、誰かにとっては喉から手が出るほどの夢のような生活かもしれない。
実在する項目を並べて、それを他人が眺めたとき、”幸せに見えるかどうか”を確認する作業は、現代人にとって趣味の一環のようなものだ。
フタを開けるとどうだろう。
新築に引っ越す前から、すでにセックスレス。
旦那の月給は、アウディのローンとアパートのローンで入金と同時に消える。
私の給料は生活費に消え、それ以外の出費は貯金でまかなう。
息をするだけでお金が消える。
こんな現実に、新築アパートとアウディ、日韓夫婦の3項目でフタをして、おしゃれなラッピングで自分に言い聞かせるのだ。
”それでもお義母さんは優しい人じゃない”
”それでも旦那は熱心に家事をしてくれるじゃない”
遊び歩いていた生活から一転、「ふつうの幸せを手に入れたい」という夢を叶えたはずだったのに、息が詰まるたびに思い出すのは、自由気ままに生きていた時代の自分。
皮肉なもので、こんな時こそ、家も仕事もなかった頃の私のほうが「幸せ」が何なのかを知っていたんじゃないかとまで思ってしまう。
このままじゃ干からびてしまいそうで、仕事のストレスで円形脱毛と腸炎が慢性化したタイミングで、3年働いた職場を離れる決意をした。
新しいことを学ぶ時ほど、心が癒されることはない。
これは大人になってから気が付いた私の趣向の1つだ。
相変わらず貯金は音を立てて崩れていくけど、もはやそんなことはどうでもよかった。
新しい資格をとって、就職するなり独立するなり、仕事の面で新しい自分と出会えるなら、何かを大きく変えていける気がした。
早くに離れた日本では、相変わらず不倫のニュースで騒がしかった。
タレントや歌手の不倫と、大物女優・俳優の不倫はどうやら別物らしく、演出がかった報道に違和感を感じつつも、志のある者同士の不倫は少しかっこよくも見えた。
どんなに筋を通そうったって、物理的な順序が行き違っていれば、不倫は不倫なのだ。
そして日本という国では、不倫はしてはいけないものとされていて、直接被害を与えていない国民に謝罪をするのがルールであるらしい。
芸能人じゃなくてよかったと、つくづく思う瞬間である。
私が住む韓国ではどうだろうか。
もちろん不倫はいけないものだが、そこまで大々的に連日報道されるほどのイシューではない。
まだ韓国の方が、不倫や離婚においては芸能人の人権が守られているような気もする。
不倫とか、離婚とか、自分が結婚するまでは、
いや結婚して、セックスレスになるまでは、
いやセックスレスになって、旦那が仕事を辞めるまでは、
まったくもって現実味のない問題だった。
無職の旦那。
私が脳内に並べていた項目に、とんでもないものが入ってきた。
毎月の支払いに必死で、寝に帰るだけの家は旦那が守り、掛け持つ仕事は3つ4つと増えていく。
いつ切れてもおかしくない一本の命綱は、なんとか独立した仕事で、お釣りとして用意しておいた5万ウォンを月の支払いに回さないといけなくなった瞬間に、ぷつんと音を立てた。
つづく。
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