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心臓疾患(7日目)茶トラゆずとの幸せな日々 vol.40

7日目(金)vol.39のつづき

次に呼ばれ、入るとそこには、大きなモニターがありました。
横にはビーカーのような容器に薄黄色の液体が(尿のような)入っています。
「胸水からこれだけ取れました」
200ccほどはあるんじゃないかと思う量です。
(こんなに沢山の水が肺を圧迫していたんだ!)
モニターで肺のレントゲンを映し出し、伏せている状態と横からの状態、胸水を抜く前後の4枚の写真を説明してくれます。
抜いた事で肺が広がり呼吸が少しは楽になっているようです。また、横からのレントゲンで、白く映る箇所が水分を含んでいる状態を示し、重力で下側に移動しているから、肺炎ではなく、肺の外側に溜まる胸水である事を教えてくれます。
肺水腫もあるから、わかりづらいそうで、発見するのは難しいとの事です。
その違いは、先生が教えてくれてやっとわかる程度のものです。

次にモニターに映し出された映像は、心臓のエコーの動画です。白黒の扇型に広がった映像の中央に、ドックン、ドックンと動くゆずの心臓があります。
これは素人目の私にもわかります。異常な形がわかります。

先生は、右心室、右心房、左心室、左心房の四つに分かれた心臓と、動脈、静脈、肺の繋がりを、そして、左心房が一回り大きくなってしまっている状態を説明します。
モニターで拡大して映し出されているから実物の大きさは分かりませんが、右心室、右心房、左心室が1円玉の大きさとすると、左心房だけは、500円玉ぐらいの大きさの差はありそうに見えます。
この左心房が異様なのは、左心房から左心室に流れる血液が滞っているからで、左心房の血液から染み出した液体が胸に流れて胸水になるという事です。
逆側の右心室の押し出す力が弱くなると肺からの血液の流れが悪くなり肺水腫になると説明されました。
全ての原因はこの心臓にあり、これまでの治療でゆずの症状が治らないのもやっと腑に落ちた感じです。
そしてレントゲンで白くなった肺のすぐ隣り、ど真ん中に位置し悲鳴をあげている心臓を見つけてあげられなかった事に、謝っても謝りたいない気持ちになります。
(ゆず、ごめんね…。)

今後の治療内容も説明されましたが、退院は2、3日は無理なので、お任せするしかありません。
「会っていかれますか?」
「会えるんですか」

手術台や、酸素ハウスの並ぶ大部屋に通され奥のゆずのいる場所に向かう間も、治療されているワンちゃんや猫ちゃんがいます。
低いパーティションで区切られ目が行き届くような配置になっています。
飼い主の方は誰もいません。
室内は設備も綺麗で総合病院の雰囲気です。

ゆずは髙酸素室で顔に透明なエリザベスカラーを巻きこちら向きで大人しく伏せています。ゲージの上側に赤い紙の札が括り付けてあります。重症度マックスの札です。
こちらに気付き少し反応しました。奈々はすぐに近づくと、小声で話しかけます。
「ゆず、頑張ったねー。偉かったねー。ごめんね、今日は帰れないんだよー。」
手には点滴の管がついています。
3人でじっとゆずを見つめます。少したって先生が言います。
「今は、強心剤も入れていますが、もしも心停止になってしまったら、蘇生させますか?」
(そこまで酷い状態なの!)
頭の中でそうなってしまったゆずを想像し、どうやってするのかわからない人工呼吸を想像し、この小さい心臓が強制的に上下される場面を想像します。
私は答えます。
「蘇生はしなくていいです。」
先生も多分それがいいという顔に見えます。奈々がすかさず
「でも若いんだから…」

自分だけの考えで事を決めてしまっているのに気がついて、奈々に向かい、お父さんに向かいます。
病気になってずっと一緒にいて見ている私ですが、急に病気になったと言われ、入院したと言われ、さらに蘇生しますかと言われた奈々の気持ちをないがしろにするわけにはいきません。私は、
「若いけど、肝心な心臓が悪いんだから、その心臓をまた動かすのは可哀想じゃない?それは人間のエゴじゃない…」
(ゆずをこんな目にあわせて、エゴを語れる立場か!)
お父さんは、
「心臓が止まるのは、それが寿命だと思うよ」
奈々も本当に辛そうに、2人の意見に納得していても気持ちがついていけない、それでも…という気持ちを振り払う様に
「そうだね…」

診察室をでる間も
(心臓が止まらなきゃいいんだから、まだ止まるわけないじゃん!)
絶対に帰って来るだろうと思う気持ちの方が勝っているので絶望感は有りません。
先生は万が一の事を確認しただけだと思います。
非常事態が起きた場合の連絡先を聞かれた時、私が耐えられないと言うと、奈々が代わってくれました。強気と弱気が交錯します。

明日の夜(正確には今日の夜)電話を入れる事を確認して退席します。奈々は会いに来たら中に入れて貰えるのかを聞いています。

家に帰り着いた時は午前3時は過ぎていました。

私も奈々も布団の中で、無言で猫の心臓疾患の検索をします。



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