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一寸法師とおやゆび姫
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一寸法師とおやゆび姫が出逢う二次創作童話です。以前にカクヨムにて書いたものです。
〈本編〉
『プロローグ』
強きことは美しきかな
小さきことは美しきかな
この美しき武士と美しき姫様が出逢うことも
いと美しきことかな。
『一寸法師』
摂津国(大阪府)住吉神社のそばで、一寸法師は生まれました。
一寸法師は成人しても小さい(一寸:3cm)ままでしたが、志は大きいようで、
「京都に出て武士になる。そして姫様と結婚する!!」と言い切りました。
育ての親のお爺さんとお婆さんは、お椀いっぱいのご飯と小魚を用意しました。
「心配無用!!」と平らげると、残ったお椀を船に、お箸を船を漕ぐ櫂にして川を下り京都に向かいました。
旅の途中、仕立て屋の娘が追い剥ぎに遭い、その追い剥ぎを一寸法師が退治しました。
仕立て屋の娘は「ありがとう。これから京都へ向かいます。それまで守ってはくれませんか?」とお願いしました。
「良いだろう。オレも京都で手柄を立てて武士になる。丁度いい!!」
「ふふふ、その服では武士に取り立ててもらえませんよ。そうだ、私が旅の間、あなたに武士の服を作ってさしあげましょう!」
京都に到着しました。仕立て屋の娘は、仕立てた服を届けると、また来た道を帰っていきました。
「そうだ、あなた武器はどうするのです? これをさしあげましょう!」
一寸法師は、仕立て屋の娘にお礼に作ってもらった立派な武士の服。武器に、娘が使っていたお針子の針をもらいました。
京都には恐ろしい鬼がでるとの噂でした。一寸法師は、これ幸いに、その鬼を退治してやろうと思いました。
鬼は金銀財宝を奪い、武器を奪い、女を奪っていました。
一寸法師は、仕立て屋の娘から紹介された、お金持ちの娘の護衛に雇われました。お金持ちなので一寸法師以外にも護衛はいます。
ある日、3人の護衛と一寸法師、それに娘を乗せた籠がくらい夜道を進みますと、6尺6寸(2m)の赤黒い鬼が現れました。3人の護衛はあっという間に切られて、一寸法師は無視されました。鬼は籠の娘を担ぐと一目散に走り去りました。
一寸法師は、針の刀で鬼の肩に突き刺しました。鬼は気にせずそのまま根城へ一直線です。さらってきた娘を檻に入れると、グーグーと寝てしまいました。
「こら無視するでない!!」一寸法師は怒りました。寝ている間に退治してしまおうかと思いましたが……「オレは武士になるのだ。卑怯な真似はしない」鬼が起きるまで待ちました。
鬼が目覚めると目の前に小さな武士がいました。目の錯覚かと思いましたがそうではありません。
「これはまた、小さな武士様だ。寝首を掻かなかったのは褒めてやろう!」
一寸法師は鬼と決闘をしました。
鬼の剣が一振りすると、一寸法師は風で飛ばされました。鬼に踏まれそうになり、足の裏に針の剣を立てますが、鬼は平気です。
「がはは、このまま潰してやろうか!!」
「まっ待て!! お前には借りがあるはずだ?」
「ん? 命乞いをするのか?」
「オレはお前が寝ている間に殺すことも出来た。だがしなかった」
「……よかろう。お前に慈悲を与える。このまま立ち去れ!!」
一寸法師は鬼に負けました。
鬼の慈悲で殺さないでくれました。
でも屈辱でした。
一寸法師は、折れ曲がった針の剣を引きずりながら立ち去りました。
「まて……お前のような境遇のお姫様を知っている」
鬼は世界を巡って旅をしていました。その先で、おやゆび姫に出会っていました。
「小さきもの同士、心細いだろう。見つけて共に暮らすと良い」
一寸法師は、鬼にもらった地図を頼りにおやゆび姫を探す旅に出かけました。
そしていつか修行して鬼を退治してやろうと心に決めました。
『おやゆび姫』
ドイツの北、デンマークの森でチューリップの花が咲きました。その赤く美しく咲く花の蕾の中に、小さな親指ほどの女の子が生まれました。
名前をおやゆび姫といいます。
コウノトリが赤ちゃんを配達中に、チューリップの蕾の中に落っことしたのかもしれません。あるいはチューリップの妖精が人間の赤ちゃんに生まれ変ったのかもしれません。
おやゆび姫が目覚めたとき、森の動物たちが騒いでいました。イイエ、うるさくて目覚めてしまいました。
ヒキガエルの王様が言いました。おやゆび姫を息子の嫁にもらいたい。
蜂の女王が言いました。子守役にちょうどいいわね。
コガネムシの配達人が言いました。運び手が欲しかったんだ。
ネズミのお婆さんが言いました。ちょうど掃除夫が欲しかったんだよ。
モグラのおじさんが言いました。オレの奥さんにぜひ欲しい。
おやゆび姫は、チューリップの蕾の中で聞いていました。
ガタガタと震えていました。
このままだと、この森でずっと働かされる。
おやゆび姫は、動物たちが寝静まった夜、チューリップの蕾から逃げだしました。一目散に逃げました。地面を転がり、川に流され、泥まみれになりながらも逃げました。
逃げた先で、月明かりに照らされ、傷ついた一匹の燕と出会いました。
「可愛そうな燕さん。私が慰めてあげるわ!!」
ずっと逃げてきたおやゆび姫は、飛びつかれて死にかけている燕と自分が似ていると思いました。
「似た者同士この地で果てましょう!!」
その時、月の光に照らされた、おやゆび姫が赤く光り、燕を包みました。
「まあなんてことでしょう」
死にかけていた燕は、息を吹き替えし、元気に羽ばたきました。
「ありがとう、お嬢さん。お礼にボクが君をどこか遠くへ運んであげるよ!!」
おやゆび姫は言いました。
「どうか動物たちのいない土地へ。わたしたちが静かに暮らせる土地へ連れてってください!」
「お安いごようです!!」燕は喜んで言いました。
おやゆび姫を乗せた燕は海岸線を南下していきました。
そして日本の蝦夷地(北海道)へ到着しました。
★★★
一寸法師は、地図をたよりに日本を北へ進みました。ある日、船で北上中、嵐に遭い難破してしまいました。海岸に打ち上げられ瀕死でした。
一匹の燕が、一寸法師のそばへ降りてきました。
燕の背中に小さな女の子が乗っていました。
「まあ大変っ!! 死んじゃったのかしら?」
一寸法師と同じ背丈の女の子が覗き込みます。
小さな外国人の女の子でした。
女の子は、おやゆび姫と呼ばれていました。
おやゆび姫は、月の光を浴びると体が赤くひかりました。
燕を生き返らせたときと同じです。
一寸法師は、おやゆび姫に助けられました。
こうして小さなふたりは出会いました。
「ありがとう、君は命の恩人だ!!」
「あなたも、わたしと同じ丈ね?」
「そうみたいだね」
「あなたの国では、普通のことなのかしら?」
おやゆび姫は、一寸法師を見て、小人の国があることを期待しました。
「いや、おれはひとりだけだ。だから君を探していた」
おやゆび姫はがっかりしました。
一寸法師は、今までの出来事を話しました。鬼に倒されたこと、鬼はおやゆび姫を知っていたこと、いつか鬼を退治したいと思っていること……。
「鬼にさらわれた人がいるんですよね?」
「はい」
「助けに行きたいんですよね?」
「はい」
一寸法師は泣きました。悔しかったのです。それを話せる相手が出来て嬉しかったのです。だから泣きました。
「だったら行きましょう。ちいさなふたりの決意ですが、ないよりはマシです」
ふたりは燕に乗って、鬼のいる島へ向かいました。
『鬼ヶ島』
鬼のいる島は、鬼ヶ島と呼ばれていました。鬼ヶ島には、たくさんの鬼がいました。さらわれた娘たちもいました。あの時一寸法師が護衛していた、お金持ちの娘も生きていました。娘たちは鬼たちの世話をしていました。
おやゆび姫は花に隠れる魔法が使えました。花を頭からかぶると見えなくなりました。おやゆび姫は鬼たちを調べました。人数を、性格を、そして誰がボスかを……。
「調べてきたわ。ボスを倒せば、言うことを聴いてくれるわ、だから……」
一寸法師は、あの鬼ひとりを倒せば良かった。
「勝算はあるのよね?」
「ああ、鬼は大酒飲みで、大食らいだ、オレは小さい、ひと飲みにされるだろう。そこで、胃の中から攻撃する!!」
「危ないわ。あなたの針の剣が鬼の胃に通用するのか心配だわ」
「心配無用。必ず倒して見せる!!」
「じゃあ、次の満月の日まで待って。わたしは、月の光を浴びると生き返らせる魔法が使えるの。お願い、満月の日まで待って!!」
『満月』
一寸法師たちは、鬼ヶ島のそばの村に頼み、貢物を用意してもらいました。
鬼たちは、おいしい食事や、お酒に酔いしれています。
一寸法師は、おやゆび姫の花に隠れる魔法で、鬼のそばまで連れて行ってもらいました。
鬼は食事中でした。
「いくぞ!!」
鬼が大きな肉を丸呑みするため口を大きく開けました。一寸法師は、勢いよく鬼の口の中に飛び込みました。一寸法師は、鬼にパックリ食べられてしまいました。
「エイエイエイ!!」
「んん。イタイ? 痛いイタイいたい!! 助けてくれ──!!」
鬼はすぐに降参しました。
鬼の口から飛び出した一寸法師は、手に金色に輝く小槌を持っていました。
「それは、なんでも願いを叶える打ち出の小槌じゃ!!」
鬼はそれを一寸法師に献上しました。
「武器も金も捕らえた女も、みんなやる!! だから命だけは助けてくれ!!」
鬼たちは、島を離れて逃げていきました。二度と帰って来ませんでした。
『打ち出の小槌』
「なんでも願いを叶えてくれる打ち出の小槌。さっそく、一寸法師を大きくして差し上げましょう」
おやゆび姫は、大きな打ち出の小槌をゆっさゆっさと揺らしてみました。
揺らすたびに打ち出の小槌から金色の光が弾け飛んで、同時に一寸法師の身長を伸ばします。
ゆっさゆっさ
ぐんぐん
やがて一寸法師は人間の大きさになりました。
「これで十分ですね?」おやゆび姫は笑いました。
「いやいや、大きな鬼を退治するにはもっともっと!!」
「それでは」
ゆっさゆっさ
ぐんぐん
一寸法師は、6尺6寸(2m)鬼と同じ身長になりました。
「これで十分ですね?」とおやゆび姫は一息ついた。
「いやいや、もっと大きな鬼を退治するにはもっともっと!!」
「……そうですか、あなたも……」
ゆっさゆっさ
ぐんぐん
「これで十分ですね?」おやゆび姫はもう笑っていませんでした。
「いやいや、もっともっと大きな鬼を退治するにはもっともっともっと!!」
「あなたは自分の姿を見た方がイイですヨ?」
おやゆび姫は、宝物庫から鏡を持ってきました。
一寸法師が、鏡に写った自分の姿を見つめると、そこには、
「鬼だ……!!」
大きな赤黒い凶暴な鬼の姿がありました。
「打ち出の小槌は、あなたの望みを叶えるのですよ? あなたは、鬼のように強い体を望みました。わたしとの幸せを望まずに……」
おやゆび姫は、打ち出の小槌を振ると自分の願いを叶えました。
「待ってくれ!!」
鬼(もと一寸法師)は、逃げるおやゆび姫を捕まえると、パックリと食べてしまいました。
でも大丈夫。おやゆび姫は、花に隠れる魔法が使えます。こっそり隠れて、燕に乗って逃げてしまいました。
最後におやゆび姫が打ち出の小槌に願ったのは、身代わりの魔法。鬼(もと一寸法師)が食べたのは、おやゆび姫に変身した打ち出の小槌だったのです。
燕は言います。
「また小さな仲間に会えるといいね?」
「2度会ったのです。3度めも……」
おやゆび姫は「次こそは」と月に願いました。
『エピローグ』
一寸法師 「なんでー」
おやゆび姫「今のトレンドは、女性が結婚しない選択肢では?」
一寸法師 「あああー」
おしまい
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