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「乾山 見参! 着想のマエストロ」 を読む (2015年5月27日備忘録)

「乾山 見参!」の図録

2015年5月27日~7月20日まで東京ミッドタウンにあるサントリー美術館で開催された「乾山 見参! 着想のマエストロ」の図録をようやく入手しました。
この展覧会は、「乾山 見参!」というオヤジギャグはいまいちですが、充実した作品が揃った良い展覧会だったと思います。
しかし、実施の時期が乾山の生誕352年目という中途半端な時期です。生誕350年を狙って2013年に行っても良いレベルの展示会だと思いますが、なぜずらしてのでしょうね?

この展覧会は初日に見に行ったのですが、図録は「まあ、次に来た時に買えばいいか...。」と思ってその時は買いませんでした。ところが、その次の展覧会の時にサントリー美術館のショップに行って確認すると、図録はすでに売り切れたとのこと。
しまった! という感じです。しょうがないので、ヤフオクで探してようやく入手することができたいう次第です。

この図録の巻頭に、乾山研究の第一人者である竹内順一先生が、「乾山焼の技法と意匠を考える」という一文を寄せています。これがなかなか興味深い内容なので紹介したいと思います。
 
竹内先生の考える乾山焼の代表作に関して書いています。

乾山焼技法と意匠の粋を尽くした作品を、言い換えれば、乾山焼の代表作を挙げよと言われれば、躊躇なく「色絵龍田川文透彫反鉢」(出光美術館蔵)など、透彫の反鉢の一群を挙げる。

これは意外です。私のイメージでは乾山と言えば、光琳絵付けの角皿の一群を思い浮かべますが...。

京焼の歴史をたどれば、やきものの内側にも文様を施すのは、乾山焼以前にはなかった。
(中略)この反鉢は、龍田川文がどこから見ても、川の流れとして表現されている。これが立体であり、これを表現できる人物を、「立体アーティスト」と呼んでも良い。

たしかにそうですね。乾山作品には、作品に裏側にも絵付けされているものが多くてどうやって絵付けしたのだろう? と思うような作品も多いです。
そして、作陶に関する乾山自身の関与に関しても書いています。

尾形乾山が作陶のすべてを担当したのか、あるいは作陶のある一工程を担当したのか。実際のところ、これほど有名な“陶芸家”でありながら、また、これほど多数の乾山焼が伝存していながら、さらにいえば、技法と意匠に触れながら、この疑問に対する解答はいまだにはっきりしないというのが筆者の率直な述懐である。

そして、いつも私が先生の言葉として引用させて頂いている言葉です。

乾山自身が「作陶」に直接関与し、製作過程に乾山の「手の痕跡」のようなものがある作品はない。例えば、乾山が挽き上げた轆轤成形の製品と推定できるものはない。

次の言葉は、竹内先生の魂の叫びのように感じました。

乾山が描いた「絵」のある作品に出合えないだろうか。
これは、乾山焼きの魅力を知った人々が等しくいだく望みである。

最後の一文はどうでしょうか?
少なくとも私たち乾山焼の魅力に魅了された一般の人たちは、乾山がすべて自分で作画、作陶したものと考えているのではないでしょうか。今回の展覧会の図録を見ても、竹内先生のこの一文以外に、「乾山は絵付けをしていない」、「乾山の作陶ではない」という「明確な」記載も示唆もありません。(もしかすると、どこかには書いてあるのかも知れませんが、少なくとも普通に読めば分かりません。)

乾山作品の所有者や専門家たちにしても、実際には乾山が作画、作陶していないことを知っていたとしても、それを明確にすることによって所有している乾山作品の価値が下がることを懸念してあまり言えないのではないのかと推察します。(研究者ではリチャード・ウィルソン氏が米国の美術館の所蔵品について乾山自身の作品、工房作品、弟子の作品等の鑑定を行っています。日本では無理でしょう。)

例えば、ガラス工芸のガレの作品でも、ガレ自身の作品とガレ工房の作品では作品の価値(値段)が全く違いますので乾山の所有者達が乾山作品と乾山工房の作品を明確にしたくない気持ちは分かる気がします。
 
最後に先生は、先生が乾山の作画であろうと考える作品について書いています。

底部に「正徳年製」の銘がある「銹絵柳文重香合」(大和文華館蔵)の「柳の絵」は、あるいは、乾山の筆になるかも知れない。

そして、最後の最後にすごい事を書いています。

なぜなら、香合全体を立方体という「塊」として把握できず、柳を一面一面に描き、「平面の絵」の連続と見る、つまり、「平面アーティスト」の描柳文であるからだ。乾山は、「立体アーティスト」ではなかった。

以上、大事な事なので簡単にまとめると、
①現在、乾山作品と言われているもので明確に乾山が作画、作陶した考えられる作品は特定できない
②乾山焼の代表作は、色絵龍田川文透彫反鉢など、透彫の反鉢の一群である。
③反鉢の作画は、「立体アーティスト」にしか描けない。
乾山は「立体アーティスト」ではない
⑤以上より、「乾山焼の代表作である反鉢は、乾山の作画ではない
ということをになります。
 
なんとも大胆な発言だと思いますが、さすが乾山研究の第一人者ですね。
今後のご活躍を期待します。


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