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「禁じられた街」

この街では、とあるデザートが禁じられている。そのデザートの名前を口にすることすら、禁じられている。

その理由は、この街の権力者の名前がそのデザートと同じだからだ。親がかわいい子供に付けたその名前はあまりにもかわいらしく、当人はそれを全く気に入らなかったため、権力の座についた時に禁じてしまった。

しかし、禁じられれば食べたくなるのが人情。街の片隅のバーで、名前を変えてひっそり提供されている。

「おい、あれをくれ」
「あれというのは」
「あれだよ。『シルキー』をくれ」
「・・・少々お待ちを」

マスターはそのデザートを蓋で隠しながら持ってきた。
「これだよ、これ」

皿に乗ったそれは、地上に舞い降りた黄金の奇跡だった。バーの穏やかな間接照明に照らされて淡く黄色い光をたたえている。全体を装飾する琥珀色の影は光の加減で色合いが変わり、デザートの見た目に変化と深みを添えている。自らの重みでたわんだ表面は上質のシルクのベールのように滑らかで、しっとりと艶やかだった。店の中の微かな振動でデザートは絶えず揺れていて「ぷるん・・・」という音のない音が今にも聞こえてきそうだった。その柔らかな様子は舌に吸い付く甘美な口当たりを予感させる。そして周囲に漂う優雅で甘い香りは鼻の奥深くを通り、身体の中を満たして、肋骨を甘くしめつける。それは心の奥底に深く満ち足りた幸福感をもたらしてくれる。目の前に置かれただけで、まるで夢を見ているかのような多幸感に包まれる。

「こんなものを禁止するなんてどうかしてるよ」
「お客様、あまりそのようなことを口にしないでください」
「悪かった。しかし、本当においしいな。このプ・・・シルキーは」
「お客様・・・」

そのとき、突然ドカドカと足音がバーに近付いてきた。
マスターがデザートに蓋を被せた瞬間、バーのドアが開いた。
「動くな!ここで例のものを提供していると通報を受けた。店を改めさせてもらおう。」

【続く】

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