【入院4】病棟へ戻ろう。
こんにちは
九芽です
顎変形症の手術を受け、次の日を迎えることができた日(2023年3月某日)のお話です。
新しい朝
手術を終えて迎える初めての朝って、鏡で自分の顔を眺めたくらいにして、なんかもっとこう、清々しいものなのかなと思っていました。
でもちょっと、いや結構違った。
時計がないから時間が分からん。
口が開かない上、話せない。
昨夜の疲れが溜まりまくり。
しかもここは集中治療室という名の馴染みのない空間。
とにかく睡眠不足の朝です。
自分の体調はさておき、集中治療室にはピリピリした空気が流れているイメージを勝手に持っていました。何と言いますか、青白く冷たい感じ。
でも私の体感では全然そんなことなかったです。
窓を覆うブラインドから漏れる太陽の光はそこそこの明るさで、人の声、機械の音が遠くから持続的に聞こえてきて。それはどことなく、家で迎えるいつもの朝と雰囲気が似ているような気がしました。
その当時 窓に目をやりながら「外はいい天気だなぁ」と思った記憶はないですが、今振り返ってみるとちょうど3月の下旬らしい、少し肌寒くも暖かそうな日の光だったと思います。
採血したり、全身を綺麗に拭いてもらったりしました。あと、一晩でずれた体勢を整えてもらったり。「テレビ観たい?始業式はいつ?」という看護師さんとのほっこりした会話も。
テレビは、ちょっと余裕ないかな。
一学期は…いつから始まるんだっけ、私も知りたい。
その日までには退院したいなあ。
集中治療室、退室
朝から何回か口腔外科のナツカワ先生(仮名)が顔を出してくれました。
先生の雰囲気は若いゆえのエネルギッシュさがありながらどこか穏やかで、「気持ちだけでも元気でありたい」と願う私の波長ととても良く合っていました。
とはいえこの時の私はびっくりするほど眠たい上に、少し吐き気もあって ほとんど目が開けられない。
でも聞いただけで元気になれる、ナツカワ先生はそんなヘルツの声の持ち主です。
先生たちは私の元気のなさを察し、車椅子で移動するところをベッドに変更、「途中で具合悪くなると大変だから」と予定されていたパノラマ(レントゲン撮影)は延期に。
「試合に勝って勝負に負けた」
きっとこういうことを言うのかな。ちがうかな。私にはちょっとよく分かりません。
退出の時間が近づいてくると、人の出入りが多くなり始めました。
Aライン抜きます、と先生が言うのと同時に手首についていた何かが抜かれます。
これがおそらく例の動脈カテーテル。術前の説明で教えてもらったんですが、動脈に挿入すると持続的に血圧を測ることが可能になるスグレモノなのだそうです。
(のちに調べたことですが、動脈は英語で「artery」と書くらしい。きっとその頭文字のAかな)
へぇ〜、それAラインって呼ぶんだ。
動脈に入っているとあって抜いた後、止血のための圧迫がまあまあ痛かったです。「へぇ〜」なんて言ってる場合ではなかった。
痛いなら、先にゆってぇ。(T-T)
でも、私はそれに対して顔をしかめることもなかったようで。今振り返れば、見るからに具合が悪そうな顔をしていたと思います。
退出の時間になり、病棟から運ばれて来たベッドに体が移されました。「お大事にしてください」と集中治療室の通路で、すれ違う何人かが声をかけてくれます。
お大事にします。
一晩ありがとう。
心の中で呟きました。
ベッドに寝ながらエレベーター乗るというのは私にとってそうそう経験しないこと。ドアの溝を通る時、「段差あるよ」と教えてくれるナツカワ先生と看護師さん。
ありがたすぎる。
聞こえているのかどうか分からない状況の私にも事あるごとに声をかけてくれて、嬉しかったです。
集中治療室と違って病棟の明かりは柔らかくて穏やかでした。帰って来たなって、そんな感じがするのです。
ただいま。
病室に着いてベッドを固定すると、先生たちはそのまま退出していきました。
急に訪れる一人の時間。
だんだんハッキリしてくる意識。
少なくともこの24時間は管理してくれる誰かが必ず私のことを見てくれていて、それがなくなった今、なんとなく変な感じがするのはきっと気のせいではなかった。
なんかもう、本当に手術終わったんだ、って。
それにしても尿道カテーテル、通称おしっこの管と呼ばれるそのチューブの存在感が大きすぎてエブリタイム残尿感。本来であれば集中治療室から退出するタイミングで抜管できる予定だったのですが、その時点ではベットから自力で起き上がれなかったために、エレベーターと廊下を通って遥々 病棟まで連れてきてしまいました。
ここまでくると色々思考が巡って、この管は一体どうやって入れたんだろう、Aラインを入れる時もし意識があったら痛かったんだろうか、気管挿管するとき私はどんなツラしてたんだろう……など、考えるだけ無意味な疑問ばかり浮かびます。
唯一の意義あったものといえば
「今、私の新しい顔はどんな感じなんだろう」
ということくらい。
鏡で自分の顔と対面。
想像以上の腫れで本能的に一瞬目が逸れました。上下の歯は後戻りを防ぐためにゴムで括られているし、下顎には血を抜くためのドレーンも付いているので、しっかりと噛み合わせを見ることはできません。それでも反対咬合が改善されていることがすぐに分かりました。
その時の感情は一生忘れないだろうな。
ほんとにもう、別の病気を発症したんじゃないかってくらい動悸がした。
胸がいっぱいでした。嬉しかったです。
栄養剤の味
パックに入ったコーンスープ(厳密に言うとコーンスープ味の栄養剤)を持って来た看護師さん。
今は一本だけだけど、これから二本三本と増えていくらしい。しばらくはこれを飲むのが仕事ね、とのこと。
基本給はおいくらですか。(黙りなさい)
でも、これがまた想像以上に美味しかった。具合が悪かったっていうのもあるのかな。元気な時に飲んだらとても味わえるものではないと思いますきっと。そんな味です。
早く尿道カテーテルを抜いてもらいたくて、「意地でも歩かなければ!」と思っていました。というのも、歩ければ抜管できると言われていたから。
尿の溜まったプラスチックのケースをスタンドに掛けてもらい、振り絞った力でやる気なさげな笑顔を浮かべ、本当は今すぐにでも足の力を抜きたかったけれどなんとか歩くことに成功。
そんな努力の甲斐あって「管抜ける判定」は難なく合格できました。
管を抜いた後バッグとチューブ片手に、早々と病室を出ていったその看護師さんは、本当にかっこよかったです。
口腔外科
ナツカワ先生が私のことを処置室に呼びに来ました。母も病室にいたので、一緒に。
「歩けそう?これ使って歩いて!」
と点滴スタンドを私の元まで持って来てくれて。
軽く傷口を見てもらい、術中に撮ったレントゲン写真を見ながら、レントゲンの撮影が後日に延期になったことを改めて説明されました。
ケータイをいじるただの高校生
人の出入りが少なくなると、間違いなく始まるスマホタイム。体がしんどい時ってスマホが薬になってくれるんだよね。
と言いつつも、やっぱり身体の調子は良くなかったです。全身がだるくて、氷枕が恋しい。
でも、こうやってイヤホンを耳に入れて、スマホを手に持って。YouTube見たり音楽聴いたり。
そんなふうに高校生らしいことをできるのが、素直に嬉しいです。
処置室から病室に帰る途中のこと。
ナツカワ先生は私に向かって言いました。
「頑張ったねえ」
今までの呼吸の苦しさと、回復に向かいつつも自分のことを自分でやれない悔しさと。
同時にいろんなことを思い出しました。
そのとき初めて思ったんですよね、ああ、確かにわたし頑張ったかもって。もう高校生だけど、私より辛い思いをしてる人たくさんいるけど、もっとそう言ってほしい。褒めてほしい。
わたし、よくがんばってるわ。
ナツカワ先生の一言は、自分にとって嬉しい、そして涙が出るほど心を包み込んでくれる言葉でした。
日記の最後に、私にも一つ言わせてください。
私は先生の何も知らないけれど、もしかしたら余計な一言だと思われるかもしれないけれども。
口腔外科を専門にしてくれて、
この病院に勤めてくれて。
ありがとう。
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