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課長、敵勢力を打ち破る
オーガを前に、俺はボクシングの構えを取った。ジャブ、フック——太ってきたと奥さんに指摘されたことがきっかけとはいえ、真剣にスポーツジムに通い鍛え上げたこの身体。その成果を今、試す時が来た。牽制のジャブを放ち、間合いを測る。オーガは巨体に似合わぬ俊敏さで身を揺らし、こちらの動きを観察しているようだった。だが、躊躇している暇はない。一気に踏み込むと、渾身のストレートを叩き込んだ。鈍い音とともに拳がめり込む。しかし…固い!全然効いてる気がしない。まるで鉄の塊を殴ったかのような衝撃が拳を襲う。激痛に思わず自分の拳を見つめた。
だが、それと同時にオーガの巨体が僅かに震え、まるで何かが弾かれたかのようにたじろいだのだ。信じられない思いで見つめる俺をよそに、オーガは苦しげにうめき声を上げ、数歩後ずさった。その場にいた騎士たちも目を見開き、驚愕の声を上げる。「今の……魔法か?」「まさか、素手でオーガを怯ませるなんて……!」「やはり!神官の占いは正しかった。我らの勇者は、規格外の力を持つ者だった!」騎士たちは歓喜の声を上げる。いやいやいや違うでしょ、一瞬たじろいではいるが、今の一撃がオーガにまともなダメージを与えたとは到底思えない。
直後、元気いっぱいのオーガが巨大な拳を薙ぎ払うように振るう。衝撃が体を突き抜ける。まるで車に跳ね飛ばされたような感覚とともに、俺の体は宙を舞い、地面に叩きつけられた。視界が揺れ、肺から空気が押し出される。全身が激痛に包まれ、腕を動かそうとしても力が入らない。オーガは容赦なく迫ってくる。手に持ったグレートハンマーを振り上げ、俺に止めを刺すべく振り下ろしてきた。
死を覚悟し、最後の悪あがきとして拳を握りしめ、やけくそで殴り掛かる。頭が真っ白になるその瞬間、自分がどうなっているのかわからないが何かの力が沸き上がる。だが本能のままに拳を突き出した拳に手ごたえはなく、またもや全然効いていないのか、そう思った瞬間俺の手から青白い炎が放たれた。炎は一直線に伸び、オーガの強じんな肉体を貫く。そしてそのまま弾けるように燃え上がり、巨大な体を覆い尽くす。刹那、オーガが苦悶の叫びを上げる。俺は自分の手を見つめた。信じられない。これは魔法か?理解が追いつかないまま突き入れた拳から爆発が起こる。炎がさらに燃え広がり、オーガの皮膚が焦げ、苦しげにのたうち回るオーガ。
その瞬間、急激な眩暈と倦怠感が全身を襲い、膝がガクンと崩れる。息が切れ、心臓が痛いほど脈打っている。視界がぼやけ、手を見ると指先が痙攣していた。まるで全身の力を根こそぎ奪われたかのようだ。もはや立っているのがやっと、強烈な熱風にオーガの姿が消滅していくのを見つめながら、俺の意識もまた、深い闇へと沈んでいった。