B@CK HΦME S7:01
B@CK HΦME SEASON7
鴻峯「図々しいお願いでしゅけど、
オフィスアダチに力を貸して欲しくて……。
世界一の、鍵盤弾きを目指して、ピアノ留学をさせて下しゃい!」
オフィスアダチ社長室。
フォーマルな服装で、カチンコチンになる鴻峯珠莉唖。
代表取締役社長が笑顔で立ち上がる。
安達「あなたほどの弾き手がオフィスアダチに所属してくれるのは、
むしろ願ったり叶ったりよ! しっかり技術を学んできてね。
骨太は、世界を変える!」
その場にへたり込む珠莉唖。夢叶い、未来が一歩、
自分に歩み寄ってきた心地だ。
海外まで同行取材に向かえない為、修行の日々はあえて割愛。
帰国後の珠莉唖の活躍に迫る。
司会「日々輝音楽プロデューサー作曲の
『月の涙』を完璧に演奏できるのは、
この人を差し置いて他にいません。
鴻峯珠莉唖さんに、もう一度、盛大な拍手を!」
口角を器用に引き上げ、丁寧におじぎする鴻峯珠莉唖。
国内最大級のピアノリサイタルは、コロナ禍でも、大盛況だった。
奈津「ピアノバー荒らしに興じていた過去が、なんだかくすぐったいわね」
鴻峯「お二人の思い遣りが生んだ、ドキドキミッション!
ブレーカーが落ちた、
暗闇の中で弾くピアノの鍵盤は、指先に、今でも鮮やかな感触を……」
奈津「CODENAME:ウワバミの酒浴びせは、
究極の必殺技だったわね。
あなたも、彼と酒の呑み比べに興じたんでしょ?」
鴻峯「お持ち帰りできない鍵盤弾きが一枚看板だったんでしゅけどね、
ウワバミさまの底無し胃袋はブラックホールよりも深いんじゃないかって」
奈津「歓楽街で相当鍛えられたらしいからね。人に歴史あり。
私も台所で食器洗いながら、快傑ナッコだった頃を懐かしく思い出すのよ」
鴻峯「その後、竜子しゃんとは、どうなんでしゅか?」
奈津「周囲には内緒だったけど、仲良し姉妹は昔からよ。
幼少期から習い始めた格闘技も、いつも決勝戦は竜子が対戦相手だった」
鴻峯「日々輝しぇんぱいから頂いた『月の涙』が私の自慢の名刺でしゅ。
そろそろ、新曲が欲しいかな、なーんて」
奈津「海堂くんに伝えておくね。私も聞きたいわ。
旦那の新曲と、世界屈指の骨太演奏」
鴻峯「腕が鳴りましゅ。自分をディスるみたいだけど、
私なんて、合挽肉の様な立ち位置だと思ってました。
プロジェクトがかいしゃん(解散)したら、二度と交わらない、
親交の薄いエキストラの様な、取るに足らない風景の一部」
奈津「人生、生きる人全員が主人公だったら、
きっと脚本家の仕事が間に合わないわ。
あなたは、エピソードを与えるだけの魅力を最初から兼ね備えていた。
ウワバミと善戦した辺りから、既に物語は動き出していたのよ」
鴻峯「これ、連作のSEASON7って知ってましたか?」
奈津「えっ? 連作って?」
鴻峯「自称:幽霊作家の黄泉一労しぇんしぇいが、取材を通じて、
代筆原稿を常時書いているんでしゅ。
これだけの実績、幽霊といえども、地に足は着いてるはずでしゅが……」
奈津「全然知らなかった。ちなみにSEASON6は誰が主人公なの?」
鴻峯「文学高校生の北条桜時くんと、水湊未来虹ちゃんでしゅ。
甘酸っぱい青春グラフィティ。
オフィスアダチに全ての原稿が保管されているんでしゅよ?」
奈津「代表取締役社長ちゃんに読ませて貰おうっと。
この一連の会話も記録されているの?」
鴻峯「無断でICレコーダーを回す様な非礼は働きましぇん。
私がイタコになり代わって、
黄泉先生のイマジネーションを刺激するんでしゅ」
奈津「そういう記憶のバトンの様なものを、
それぞれの立場の人が、クリエイターの手元に、大切に届けてきたんだね」
鴻峯「風の噂では、きたるSEASON8の主人公は、
原田紀行専属カメラマンと代表取締役社長らしいでしゅよ?」
奈津「そうなんだ。何気にあの二人、お似合いのカップルよね?」
鴻峯「濃厚な大人の男女のラヴストーリーが、今から期待できましゅね!」