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B@CK HΦME:05

割引あり

『17:柔軟思考で企画を再建』
「マジョリティ、マイノリティ。
この二極化が進んでいない今だから提唱するけど
私は方向性を再検討する必要があると思う」
誰かの意見だが、皆の意見のようにも聞こえた。
正直、企画の中心人物である海堂自身も、英断をすべきでは? 
という思いは、
頭の中に既にあった。では、どんな企画が自分たちを活かすのだろう?

例えば、UNICORNの「大迷惑」
オーケストラを完全再現するという企画は面白いし、
バンド単体では細部にこだわるのに多少の限界がある。
だから、挑む価値がある。
ただ、唄はどうするか? という問題に焦点が集まった時
「ここまでこだわったから奥田民生の声質に合った人物を
メンバーから選出しよう」
「あえて女性ヴォーカルを起用して、
私たちらしさを垣間見る仕様はどうかしら?」
二つとも採用したい、しかし、それでは優柔不断。
ただ、解決法もあるにはあって、
男性ヴォーカルのTake
女性ヴォーカルのTakeをそれぞれ録音して、
リスナーに聴き比べてもらう……これ自体が既に新企画ではないか!
男性の:male 女性の:female
例えば5曲、演奏候補に挙がった楽曲があるとする。
「コピリニクス」のメンバーは、全力で演奏に打ち込む。
男性ヴァージョン5曲、女性ヴァージョン5曲を
それぞれ歌唱してもらい収録。
レーベルに送ったり、動画サイトに投稿したりして世間の反応を見る。
充分過ぎる軌道修正、自分たちの頑張り次第では、
この活動を大々的に支援してくれる
スポンサーも現れてくれるかも知れない。

『18:課題曲と通話記録』
海堂はコンシェルジュの勉強を続ける中で、
気になる楽曲に出くわしていた。
「ちっぽけな愛のうた/大原櫻子」「告白/supercell」
それぞれの詳しい解説は別の機会を設けるかも知れないが、
一方は弦楽器、他方は鍵盤楽器に生命線があると
言い切っても過言ではない構成。
全幅の信頼を寄せているフィグや、
先日からメンバーに加わってくれたジュリア。
彼女たちがキーパーソンとなり、企画が動いて行く。そんな予感がする。
「しぇんぱい?」海堂のシャツの裾をつかむ女の子。
「おっ、おう。ジュリアさん、だったよね?
 初めまして、日々輝海堂といいます。以後、お見知り置きを」
「ジュリアでしゅ。ピアノのことなら任しぇて下しゃい。
 弾くんだったら、supercellとか弾きたいな」
「へぇ、僕も好きだよ、
 supercellの告白をコピーしてみようかって話もちらほら」
「しょれは楽しみでしゅ。告白は骨太なピアノソロがありましゅからね」
「ジュリアさんは、その繊細な指からは想像も出来ないくらい、
力強い音を奏でるって評判みたいだね。
その実力をいかんなく発揮して下さい」
「お任しぇあれ! 練習用に
supercellのCD+Blu-ray 買っちゃおうかな?」
ジュリアは「サ行」が上手く言えない子だが、
おそらくキャラというか、意図的にやっているのかも知れない。
今後も注意してみたい。

『通話』【海堂】×【紅弥】
「それにしても、すげぇ飲みっぷりだったな! 感謝してるぜ、相棒」
「ふん、あんなの朝飯前よ。ギャランティさえ振り込んで貰えるなら、
 どんなウワバミだって、成敗して遣わすわよ!」
「はは、依頼が毎回酒の飲み比べとは限らないだろ?」
「なぁに、言ってんのよ! 人生なんて呑む! 打つ! 買う!
 呑んで、打って、買って、なんぼのもんでしょうが。
 たまには四つ葉館にも顔を出しなさい。
 もっとも、今はジュンジュンが中心となって
忙しく賑やかにやってる中途なのだけど」
「おぉ、そうか。じゃあ、早く土産話こさえて凱旋しないとな」
「それで、プロジェクトは、今、どのくらい進んでいるの?」
「限りなくゼロに近いよ。根本から見直すことになったんだ。
 まぁ、折を見て、第二の故郷の海に沈む夕日でも拝みに帰るよ。
我ながら詩人だ。
 ちょっと、巡波にも電話してみるよ。
今度は落ち着いて酒を酌み交わそう」
「ええ、楽しみにしてるわ。それじゃね」

『通話』【海堂】×【巡波】
「海堂さん、こんにちは。お元気ですか?」
「あぁ、風邪一つ引かずになんとかやってるよ」
「その後、プロジェクトはいかがですか?」
「気にかけてくれて、ありがとう! 思うようには行かないけど
 楽しみながら進めているよ。こっちに紅弥が来ていたのは知ってる?」
「はい、なんでも生意気な小娘を退治したのだとか……」
「う、う~ん。まぁ、そんな所かな。
 結果的に鍵盤弾きが仲間に加わったから、
 感謝以外の言葉が見つからない。
 あいつって、本当に頼りになるオネエだよな」
「海堂さん、あんまり褒めると、あの人図に乗りますよ?
 役に立ったのは事実みたいですが……」
「そうだね、あいつとの付き合いは長いから、そこら辺の塩梅は、
 上手にしないといけないのは解ってる。そっちも忙しくやってるって
 あいつから聞いてるよ。原田君にも電話してみようかな?
 電話番号、入居時と変わってない?」
「変わってないですよ。海堂さん、失礼します」
「はい、失礼しまーす」

『通話』【海堂】×【紀行】
「も、もしもし原田ですけどっ?」
「こんにちは。四つ葉館の日々輝です。
 巡波の力になってくれているみたいだね。
 共同生活にはもう慣れたかい?」
「は、はい。力になってます。慣れました」
「ごめん! 急に電話したりして。硬くなることはないんだよ。
 僕たちは、ひとつ屋根の下に暮らす同志じゃないか」
「ひとつ、屋根の、下に、暮らす……。
 ひ、日々輝さんっ! ぼくの志って何でしょうか?」
「うん、難しい質問だね。例えば僕の志は
 音楽で誰かを幸せにすること。誰かっていうのは、
 真っ先に自分自身のことかも知れないし、
 最愛の女性のことかも知れない。
 音楽に携わる全ての人々っていう拡大解釈もあって然り。
 仮に、誰も幸せに出来なくても、
 多くの場合、僕はその人生を悔いることはないと思う」
「あっ、安達輝さんの役に立ちたい! 
……これも志と言えるでしょうか?」
「うん、立派な志だと思うよ。巡波は、多くのファンの憧れの的。
 原田君だけ見てくれるとは限らないけど、良き理解者であって欲しい」
「良き、理解者……ぼ、ぼくっ、もっと、もっともっとカメラのこと、
 勉強しますっ!」
「そっか、正式なカメラマンになって、
 彼女の専属に志願するのもいいかもね。
 カメラの勉強、励んで下さい。今日はこの辺で」
「日々輝さん、ありがとうございましたっ!」

電力を大量に消耗したスマートフォンが熱病にうなされている。
三者三様の会話を終えた海堂は、少しだけ四つ葉館が恋しくなった。
しかし、「コピリニクス」は暗礁に乗り上げたばかり。
感傷に浸っている場合ではない。
フィグを中心に据えた「ちっぽけな愛のうた」、
ジュリアの奏の下で進行する「告白」
再スタートは、この二曲から。より結束が固まれば、
「大迷惑」のような大仕事も
無理なく着手出来るかも知れない。
演奏・歌唱にはそれぞれ先導者が居るが、
「コピリニクス」自体のリーダーは、他でもない日々輝海堂だ。

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