水無月の爆撃作戦:04
CASE:03 ELICOの場合
ELICOは出産から3年の歳月しか経過してないので
育児にも、もっと力を注ぎたかった。
それでも、依頼の発注は、留まることを知らない。
「壊し屋」と語る解体業者(?)の女の子は
結構、マジな眼で、彼女のことを必要としていた。
主題歌を求めている、とのことだったが
何を主題に音符を置いていくべきだろうか?
出逢いは「六月」だったと、彼女は語る。
ざあざあ降りの中を傘も差さずに走ったことを思い出したと。
そういうのは、先に作詞家に伝えるべきだとも思ったが
「試練の雨」みたいなコンセプトを掴む。
「爆弾投下」の中を掻い潜って好きな人に逢いに行く、みたいな。
イメージを膨らませるために、サチコを帰したあとで
近所の音楽スタジオに篭ったELICOは
不慣れなドラムスの前に着座して
ゆったりしたテンポで規則正しいリズムを刻んでいく。
(……これが、小雨のイメージか)
「試練の雨」欲しいのはこのイメージだ。
スネアドラムを力の限り叩いてみる……ざあざあ降りの感触。
バスドラムを何度もキックしてみる……爆弾連続投下の感触。
「六月の止まない雨」「爆弾投下による悲劇の雨」
マフィアの銃撃戦に、敢えてアリアを挿入する編集技法がある。
激しい状況に美しい調べ。そのミスマッチに美学を感じる。
ELICOは先入観を捨てて、美しい旋律を紡ぐことに専念した。
肝心のサビはどうしよう? 逆接路線を貫くか?
……否、ここは戦火(戦渦)の過酷さを表現しよう。
そして、作詞を担当する誰かに
思いっきりおんぶにだっこされよう。
作曲家として、できるお膳立ては全部やった。
作詞家は、依頼主の深層心理を深掘りして
状況理解に努めないとならない。