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「核兵器禁止条約」その批准への希望

2022年8月6日、今年も広島で原爆の日を迎え、平和記念公園(中区)で原爆死没者慰霊式・平和祈念式(平和記念式典)が開催されました。今年はロシアのウクライナ侵攻もあり、核兵器を巡る不安定さが浮き彫りになる中、核兵器も戦争もない世の中を模索する「8・6」となったのではないでしょうか。

そして今、世界で注目されている「核兵器禁止条約」批准への取り組み。これがどのような条約で、これまでの条約とどう違うのか。それによって世界はどう変わるのか。気になるところを考察してみたいと思います。

「核兵器禁止条約」批准の背景

まず問題となっているのは、一向に進まず、解決に至れない核保有の世界事情。「持たず、作られず、持ち込ませず」の非核三原則を基本政策としている我が日本ですが、同じことが世界各国で求められます。そのために何が必要か。

これまでは既に核を保有している国はそれを認め、または削減し、そうでない国は開発保持させないという方針で平和を模索してきました。しかしながらこれでは解決にならないのでは。そもそも核の保有が認められる国とそうでない国があるのは不公平ではないか。そういう声が世界的に上がっているのです。

「核兵器禁止条約(TPMW)」とは

「核兵器禁止条約(TPMW)」は核兵器を「非人道兵器」として、その開発や保有、使用あるいは使用の威嚇を含むあらゆる活動を例外なく禁止した国際条約です。条約の前文では、広島・長崎の被爆者や世界の核実験被害者がこうむった受け入れがたい苦しみと、核兵器廃絶に向けたこれまでの努力について言及されています。また、条約は現在核兵器を保有している国がそれらを廃棄するための基本的な道筋を示すとともに、核兵器の被害者の権利を定めるものとなっています。

核兵器削減へのこれまでの試み

核兵器の不拡散に関する条約(NPT)は、核軍縮を目的にアメリカ・フランス・イギリス・中国・ロシアの5ヶ国以外の核兵器の保有を禁止する条約で、1963年に国連で採択されました。1968年に最初の62ヶ国による調印が行われ、1970年3月に発効。その期限に当たる条約の発効から25年目の1995年には、NPTの再検討・延長会議が開催され、条約の無条件・無期限延長が決定されています。

軍備増強に対しての歯止めとして、冷戦期において核兵器の開発・生産競争を行っていた米ソ両国が、核兵器運搬手段に関しての制限交渉を行うことになりました。1969年よりヘルシンキで交渉が開始。1972年5月に交渉は妥結し、モスクワで調印が行われました。

その第一次戦略兵器制限交渉(SALT I )からABM制限条約 (1972年)、SALT II (1972年-1979年)、INF全廃条約 (1987年)と両国間における相互核軍縮に関する一連の条約・交渉が続きます。そしてSTART I (1991年)及びSTART II (1993年)、モスクワ条約(2002年)と続き、2010年には最新の新戦略兵器削減条約(新START)が締結されています。

核兵器を持たない国々からの提唱

核不拡散条約(NPT) で約束された核軍縮が進まない状況に不満を持つ国々。その国々の間で、核兵器を法的に禁止しようとする動きが、2010(平成22)年頃から高まりました。 

そのような核兵器を持たない国々の主導の下、3度にわたる核兵器の非人道性を考える国際会議や核軍縮に関する国連作業部会が開催され、国連での「核兵器禁止条約」採択に向けた交渉会議が行われます。

2017(平成29)年7月、国連加盟国の6割を超える122か国が賛成し、「核兵器禁止条約」が採択されました。多くの国が核兵器廃絶に向けて明確な決意を表明し、同年12月には、条約採択への貢献などを理由に「核兵器廃絶国際キャンペーン」(ICAN)がノーベル平和賞を受賞しています。

条約の批准そして発効へ

平成29年(2017年)9月20日から各国による署名が開始され、令和2年(2020年)10月24日に、批准した国が発効要件である50か国に達しました。条約は、批准から90日後となる令和3年(2021年)1月22日に発効を迎えました。

第1回締約国会議が、令和4年(2022年)6月21日から23日にオーストリア・ウィーンで開催。核兵器の非人道性を再確認するとともに、核兵器に依存した安全保障を批判しています。条約への参加促進や核被害者援助など、条約の内容を実現する方策を盛り込んだ最終文書である「ウィーン宣言」と、具体的な手順や行動を定めた「ウィーン行動計画」が採択されました。

今後の展望と課題

この条約では、核兵器廃棄の期限や後戻りしないための措置などを、締約国会議で決めることとしています。

今後これらの具体的な措置を検討するには、核保有国及びその同盟国の参加が不可欠。同条約を広く浸透させ、核兵器廃絶の推進力としていくために、署名・批准国の一層の拡大を図っていくことが課題です。

しかしながら未だ根強い、核兵器があるから自分の国と地域の安全が守られているという「核の傘」理論。
核の脅威があることを前提とした、この核保有国を中心とした考えが、「核兵器禁止条約」の拡大を阻んでいます。

まとめ

歴史上唯一の被爆国である我が日本。その日本にとって、核兵器を世界から無くし平和な世界を創ることは、積年の悲願であると言えるでしょう。

今、世界の核兵器を保有していない国々を中心に湧き起こっている、世界における核兵器保有全面禁止の声。これはまさに、これまでの「核保有を前提とした削減への試み」といった「歴史上の軍縮視点」を、大きく転換するものになります。

本来なら、世界に先駆け、平和世界の実現に向けた解決策を提唱していきたい我が日本。しかしながら、日米安保における「核の傘」理論の下、「核兵器禁止条約」批准について日本の歴代総理は口を濁します。

ここにきて我々は、平和実現のための視点を大きく転換されることが求められているのではないでしょうか。


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