北海道の冬と“根雪”のこと
今日、札幌に住んでいるとても大切な友人(先輩)からLINEが来た。
「〇〇くん、根雪ですね。札幌、根雪です」
「根雪」という言葉、関東で育った僕にはあまり馴染みがなくて、札幌に引っ越した時に知った。根雪とは春になるまで溶けない雪のこと。積もって溶けてを繰り返しながら冬は深まってゆき、「根雪になった」と聞けば人々は本当の冬の到来を覚悟するのだ。
道外から、特に首都圏から来た身からすると、北海道にはとても豊かな方言がある。「なまら」は有名だけどあまり使っている人は見ない。おそらく共通語にも同じことを指す言葉があるからじゃないかなと思う。僕はそれよりも、暮らしのなかにある方言(たとえば「うるかす」、「しばれる」のような)がとても好きだ。方言にはその土地に生きるひとの息づかいがある。風が吹き、水が流れ、その冷たさに触れたあたたかな指が、その土地の言葉を生んだのだろう。
そんななかで、僕にとって「根雪」とはちょっと特別な言葉なのだ。
僕が北海道に住むようになって初めての冬のこと。地面の雪が固く踏みしめられ、ふと風が吹くと白い煙のように氷の粒が舞うその様子を見た先輩が、「これは根雪になるね」と言ったのだった。
根雪。根となる雪。旅行者には感じ得ない感覚だった。自分は今北海道にいて、北海道に暮らしているのだとその時本当の意味でわかった気がした。僕は今日積もったこの雪の上で、春になるまで暮らすのだ。そして、春になってこの雪が溶け出すその時にも、僕はここにいるのだ。
当時の僕にはなんだかそれがとても嬉しくて、根雪、根雪と覚えたての言葉をたくさん使って会話していたのをよく覚えている。
今年の札幌は今の時点ではとても雪が少ないようだ。僕が初めて「根雪」を体験した7年前の冬を思い返すと、12月に入った時にはとっくに根雪になっていたような気がする。暖冬なのかもしれない。けれど、やはり根雪にはなるのだ。北海道に暮らす人々はもしかしたら憂鬱に思っているかもしれない。厳しく長い冬が、本格的に始まるのだから。けれど僕はその友人からのLINEを見て、今年も北海道に冬が来たのだなと少し嬉しいのだった。
年明けにでも、その雪を踏みにまた札幌へ行きたい。春、その雪が溶けて草木の栄養となるのを見たい。僕は札幌の冬が好きだ。そこには命のきらめきがあるのだ。
北海道に住む辛抱強い鳥や花や木々や人々は、この冬をきっと乗り越えるだろう。僕は冬が始まった札幌の街を、目をつむれば思い描くことができる。