予備試験R6 商法

第1 設問1(1)
1 本件株式の買取りは、甲社の自己株式の取得であるため、分配可能額を超えてはならない(会社法(以下、法令名を省略する)461条1項3号、157条1項、156条1項)。甲社はDから本件株式を総額1000万円で買い取っているところ、実際の分配可能額は800万円であったため、財源規制違反である。もっとも、財源規制違反の効力について、法に明文がなく問題となる。
2 461条1項柱書が「効力を生ずる日」と規定していること、また、財源規制違反を無効とすると、会社が買い取った株式を処分した場合、会社が株式買取価格相当額の金銭の返還請求をするときに、売主から同時履行の抗弁権を主張され不都合が生じることから、有効であるとも思える。しかし、「効力が生ずる日」とは、仮に効力が生じた場合を意味するにすぎない。また、462条1項を、売主からの同時履行の抗弁権を排除する特則であると解すればよい。さらに、甲社は非公開会社であるため、株式の流通が予定されていなく、買い取った株式を処分することによる不都合を考慮する必要がない。むしろ、会社財産の流出により損害を受ける、甲社の債権者の保護を図る必要がある。したがって、本件株式の買取りは有効である。
第2 設問1(2)
1 Dについて
 Dは、本件株式を買い取った者であり、「金銭等の交付を受けた者」にあたるため、1000万円全額について、甲社に対して返還義務を負う(462条1項柱書)。
2 Aについて
(1)Aは甲社の代表取締役であり、本件株式の買取りについての「株主総会に係る総会議案
提案取締役」にあたるため、1000万円全額について、甲社に対して返還義務を負う(同項2号イ)。なお、この返還義務はDと連帯して負う(同項柱書)。
(2)また、Aは甲社の取締役として、423条1項の責任も負いうる。Aは、461条1項違反という法令遵守義務違反(355条)を行っており、任務懈怠が認められる。これにより、本件株式の買取り価格1000万円が流出しており、損害及び因果関係も認められる。たしかに、財源規制違反は、Gが甲社の一部の取引について会計帳簿への記載を失念したために生じたものである。しかし、Aは、甲社の経理及び財務を担当しており、分配可能額の計算を自分で行うこととしていたのだから、その基礎となる会計帳簿について誤りがないか十分に確認すべき注意義務を負っていたといえる。それにも関わらず、会計帳簿の作成をGに任せきりにしており、自ら会計帳簿の確認を行うことを怠っていたので、過失(428条1項参照)も認められる。したがって、Aは423条1項に基づき、甲社に対して、損害賠償責任を負う。
3 Fについて
 Fは甲社の監査役として、423条1項の責任を負いうる。Fは、善管注意義務(330条、民法644条)として、適正な会計監査を行う義務を負っているため、会計帳簿が正しく作成されているか否かを確認する必要があった。それにも関わらず、漫然と会計帳簿が適正に作成されていると思い込んで、計算書類と会計帳簿の内容の照合を行うことしかしておらず、当該義務を怠っているので、任務懈怠が認められる。当該義務を果たしていれば、会計帳簿の過誤に気付き、会計帳簿が是正され、甲社の分配可能額を超える自己株式の取得は起こりえなかったのであるから、本件株式の買取り価格1000万円の流出という損害及び因果関係も認められる。また、取締役であるBですら会計帳簿の過誤に気付くことができているので、監査役であるFならば当該過誤に容易に気付くことができるといえ、過失も認められる。したがって、Fは423条1項に基づき、甲社に対して、損害賠償責任を負う。
第3 設問2
1 Eは、本件売渡請求(179条1項)に係る甲社株式の取得をやめることを請求することが考えられる(179条の7第1項3号)。税理士Hによって、甲社株式の1株当たりの適正な評価額の範囲が示されているところ、B・C・Dに対しては、その範囲の最高額によって甲社株式が取得されているにも関わらず、Eに対しては、その範囲の最低額での売渡請求が行われている。Eが、他3名と異なり、甲社株式の売却を拒否したこと理由に、このような不公平な区別が行われたと考えられるため、甲社株式の対価としてEに交付する金銭の額(179条の2第1項2号)について「著しく不当である」といえる。また、Eは、本来であれば他3名と同様に1株当たり10万円で売り渡すことができるところ、1株当たり6万円で売り渡さなければならないとすると、400万円もの損失を被ることになるので、「不利益を受けるおそれがある」ともいえる。したがって、上記請求をすることができる。
2 また、令和6年9月2日は、本件売渡請求の取得日の20日前の日から取得日の前日までの間にあたるので、裁判所に対し、Eの甲社株式の売買価格の決定の申立てを行うことが考えられる。以上

本年度所要時間約85分 (昨年度成績:F)
決して良い答案を書けたとは思っていないが、昨年度に比べれば、マシであったと思う。

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