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屠殺場に牽かれる執事をこじつけでハッピーエンドにしてみた。

タイトルそのままです。どう足掻いてもハッピーエンドとは言い難い『屠殺場に牽かれる執事』をジェフリー卿×オニキスのラブラブBLエンドにこじつけます。オニキス×ローザ要素もあります。
イラストはたづゅ様より

⇩プレイが前提⇩

※屋敷の外に出て「茂みに隠れ一夜を明かす」選択肢を選んだつづきの話。
大事な事なので二度言いますが、BLです。苦手な方はブラウザバック!



「モリオン!なぜ私から逃げるんだ!私たちは愛し合っていた!そうだろう!?」

ジェフリー卿の悲痛な叫びを聞きながら、僕とローザ様は息をひそめ肩を寄せ合っていた。武器として持ち出した冷たい羊肉の塊が不安と恐怖に苛まれる僕の体温をさらに奪っていく。するとまるで気持ちを読んだようにローザ様の温かい手が肩に置かれる。

「お腹、冷たいでしょう。代わってあげる。」
「いいえ、お構いなく。私は大丈夫ですから。」
「私が貸してと言っているんだから。ほら、早く渡して頂戴。」

正直に言うと、その言葉に甘えてしまいたかった。しかし気丈に振舞っているものの、ローザ様だって不安に違いない。…それに、このまま渡してはいけない気がした。それほど彼女の目に危ういものを感じたのだ。

「…それよりも聞きたいことがあるのです。」
「なあに?」
「ジェフリー卿と、前任の執事のモリオンという青年のことです。」
「!」

やっぱり動揺した。

「そ、そんなのあなたには関係ないわ…。」
「教えて下さい。」

僕はローザ様の両手首を掴み、近くの木の幹にその華奢な体を押しつけた。力に訴えるなど男としてあってはいけない行為だが、こうしてでも知らなければならない気がしたのだ。
ローザ様は抵抗するように口を噤んでいたが、やがて顔を上げ、口を開いた。

「兄さまとモリオンは……恋人同士だったわ。」
「・・・・・・。」

今更驚きはしなかった。なんとなくそんな予感はしていた。あの肖像画の中で青年が笑みを向けていた相手はやはりジェフリー卿だったのだ。

「私もモリオンのことが大好きだった。男の人として。本当に優しくて素敵な人だったの。だから、恋をしてしまったの。」
「ローザ様…。」
「私が馬術の時間に大怪我をした時にね、彼、すぐに私を抱え上げて病院まで運んでくれたの。”お嬢様のことは私が守ります”って。そう言ったのよ。」

これで期待しない方が無理というものだわ、と声に出さずに漏らすとローザ様はさらに言葉を紡いだ。

「でもね、モリオンが愛していたのは兄さまだった。それを知った途端、目の前が真っ暗になった。文字通り何も分からなくなってしまった。自分が自分でなくなってしまったの。」
「・・・・・・。」
「気が付いたら、私の周りには血塗れの破片が散らばっていた。そして頭から血を流したモリオンが横たわっていたの。勝手に嫉妬して、勝手に憎んで、そして大好きな人を殺してしまったのよ。」

あまりのことに僕は言葉を失ってしまっていた。抑えつけていた手も放してしまっていたが、ローザ様はその場で座り込んだままだった。その後、死体は焼却炉まで引き摺って行き燃やしてしまったという。

「幸か不幸か、誰ににも見られなかった。でも、きっと見つかってしまった方が楽だったのでしょうね。…そうすれば罪を隠して背負い続けるなんてしなくてよかった。」

そこで言葉を切ると、ローザ様は僕に手を差し出してきた。

「だからこそ、今罪を償わなくてはいけないの。あなたはもう行って。私がすべてを終わらせる。」
「…ジェフリー卿を殺すおつもりですか?」
「本当は私こそ殺されるべきなのだけど。だけど、今の兄さまからあなたを守るためには…そうするしかないでしょう。」

だからそれを渡して、と彼女は続けた。でも僕は首を横に振った。

「それはさせません。」
「オニキス…。」
「あのような迫り方をされたから逃げるしかありませんでしたが、私もジェフリー卿のことは敬愛しています。あの方を不幸にはしたくないのです。」
「でも。」
「私もローザ様を守りたい。だからどうか、私に任せて下さい。」

僕は立ち上がり、一度だけローザ様を振り返った。

「どのようにご自身の罪と向き合うかはローザ様に委ねます。私から他言するつもりはございません。…ただし、ジェフリー卿にだけは決して真実を言ってはなりませんよ。苦しめるだけで益はないですから。」

***

「う、うううううぅ…。」

日がすっかり落ちた頃、ジェフリー卿は屋敷のベンチに力なく腰を落とし両手で顔を覆っていた。先ほどまでの殺気は嘘のように消えていた。

「ジェフリー卿。」

彼を刺激しないように僕は優しく声を掛ける。

「モリオン…戻って来て、くれたのですか…?」
「大丈夫ですよ。私はもう逃げも隠れもしませんから。」

そのまま彼の大きな体を両腕で抱きしめた。ジェフリー卿は戸惑ったように僕の身体に触れてくる。

「どうして私から逃げたのです…?今までどこに行っていたのですか…?」

彼の声は震えていた。すべてを知っている僕は返すべき言葉が見つからず、それでも彼を安心させるために何度も同じ言葉を繰り返した。

「大丈夫。もう二度とどこにも行きません。ずっとあなたの傍に…。」
「モリオン…良かった…ずっと探していたんだ…。」
「ジェフリー卿、こんなところにいては風邪をひいてしまいますよ。一緒にお部屋まで戻りましょう。そして今日はゆっくり眠って下さい。」

泣きじゃくるジェフリー卿をどうにか寝室へ連れ帰ると、ベッドに腰かけた彼に少量の睡眠薬を混ぜたハーブティーを手渡した。手を出されるのが怖かったのもあるが、単純に彼にはぐっすり眠って欲しかった。

「ん、んん…、まだ、眠りたくない…。」
「いけません。お疲れになっているんですから。」
「眠ったら、またあなたは…いなくなってしまう…。」

僕はシングルのソファを運んできて、ベッドの傍につけて起き、そこに腰をかけた。彼の手を優しく撫で、それから強く握りしめた。

「どこにも行きませんよ。今夜はずっとこうして手を握っていますから。」

ジェフリー卿の手は大きくて暖かい。彼の穏やかな寝息に誘われるように、僕の瞼も落ちて行った。こうしてそのまま一晩明かした。

***

「おはようございます、オニキス。」
「!!!?」

目を醒ますと覆いかぶさるようにジェフリー卿が立っていた。

「お、おはようございます…。」
「約束通り、一晩中傍にいてくれたのですね。」
「・・・・・・・。」

恐る恐る様子を窺うが、彼に狂気の跡は見られない。

「…モリオンは、私を愛してくれていました。私が彼を愛しているのと同じくらい。だから分かります。彼は逃げたのではなく…死んで、しまったのですね。」
「・・・・・・!」
「昨日は彼を演じてくれたのでしょう。こんな酷いことをした後では謝罪のしようもありませんね。もう私の顔を見るのも嫌でしょうから…」
「いいえ。それは違います。」
「!?」

僕は咄嗟に彼の指を握った。ジェフリー卿の目が見開かれる。

「確かにあなたを落ち着かせるために話を合わせはしました。…ですが、決してどこにも行かないと。その言葉は本当です。」
「オニキス…。」
「あんな性急な形ではなく、もっとゆっくりあなたのことを知って関係を深めたいのです。……あなたが愛した人の代わりにはなれないけれど。」

彼は信じがたいものを見るように僕を見詰めていた。何か言いたげに唇が動いたけれど、結局それは言葉にならなかった。僕も黙ったままで彼の背に腕を回した。

こんな関係、自分でもどうかしていると思う。
それでも絶対この人を一人にはしたくない、できない。それだけは疑いようのないことだった。

END

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