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【短編小説】今がすき

今日もやっと仕事が終わった。今から帰って、ご飯を食べて、寝るだけ。
電車の中で今日の1日を振り返る。
研修生の指導とお客様対応に追われながら自分の仕事をこなす毎日。今日はお客さんに不安な気持ちにさせてしまった。でも説明もしたし帰り際にはしっかりフォローもできた。だがお客様に不安な気持ちにさせてしまったことは事実、しっかり反省して次は同じことが起こらないように気をつけようと気持ちを落ち着かせ目を閉じた。

ふと意識が浮上し、目が覚めた。ちょうど最寄りの降りる駅だった。
明日は休みだし、ビールとお惣菜を帰って帰ろう。
そして明日は何をしよう。家の掃除でも良いし、カフェでゆっくり読書でもいい。ショッピングでも、温泉でも、それとも田舎に行こうか。
なんて妄想をしながら帰宅し、ひとり優雅にビールを流し込む。少し現実から目を背けた今この瞬間がすきだ。

お風呂に入り、身支度を済ませて布団に潜る。明日のことは明日考えよう。
そして目を瞑る。真っ暗になった意識の中にふと今日の出来事が蘇った。

あぁ。今日はダメな1日だった。

ふと意識が浮上する。空が透き通って、空気も心なしか美味しい。今日のモーニングティーは何にしよう。あぁ、この瞬間がすきなんだ。
そして今日はショッピングに行って、カフェに行こう。
夏服のワンピースとスカート、Tシャツを買って、欲しかったヒールのあるサンダルも買った。夏といえば麦わら帽子。理想の帽子が見つかって、即座に購入。
あぁなんて幸せ。
たくさんの買い物袋を持って、カフェで休憩。
テラス席で優雅にひとりコーヒーを飲む。
ウェイトレスは外国人男性で、最近見た映画の好きな俳優に似ている。
あぁなんて素敵な空間。

実家で見た綺麗な夕焼けの空が見えてきた。社会人になってあんまり見てなかった光景に自然と口角が上がった。
あぁ今がすきだな。

そんな素敵な1日が終わって、意識も真っ暗になった。

お休みなのに、いつもと同じ時間に起きた。明日からまた仕事が始まるからと今日はゆっくりとお家で過ごそうと決め、コーヒーを飲みながらテレビを見る。お昼寝をしてご飯をしっかり食べて明日に向けてしっかり眠りに入った。

いつも同じ時間に目が覚める。顔を洗って、朝のコーヒーを飲む。今日から仕事が5連勤で頑張ろうと気合を入れた。

今日も同じ仕事内容をこなして帰る。今日の反省は、お客様の求めていることがうまく読み取れなかったことだ。表情や声のトーン、話し方、どういう感情だったのかを分析しながら目を閉じた。

家について、ささっと食事を済ませささっと就寝の準備をする。明日も今日の反省を生かして頑張ろうと目を閉じた。

ふわふわと意識が浮上する。今日もいい天気の朝だ。モーニングティーを選んで、テレビを見る。今がすきな時間だと思いを馳せながら仕事の準備をする。今日はなぜだか良いことがありそうだ。

仕事が始まり、いつものように自分の仕事をこなしていた。ふとお客様がお店に入ってきたので、挨拶をする。昨日のお客様だ。今日はどうしたのだろうか。昨日の対応でなにかクレームがあるのかと、ビクビクしていたがそうではなかった。
昨日の説明で、商品を定期購入したいと言ってくれたのだ。
私は嬉しくなり、お客様の求めているものが段々と分かるようになってきた。表情も声のトーンも話し方も、全てが分かった。
あぁ、朝の予感はこれだったのか。
夢を見ているみたいだ。

そんな幸せな1日を噛み締めて、意識を閉じた。

また同じ時間に目を覚まし、朝の準備をする。
幸せな気持ちを余韻に仕事に向かう。そしてまた仕事を始める。今日は特に良くも悪くも反省は無かった。
仕事も早く終わったので、いつもより早い時間に帰宅できた。
今日はゆっくり湯船に浸かり、1日の疲れを流した。
こんな日が続けば良いのにと思いつつ、布団に入り目を閉じて意識も閉じた。

急に目の前にひまわりの花畑が広がった。ひまわりは私のすきな花だ。夏っぽくて、キラキラして太陽みたいな花。あぁ私もそんなふうになりたい。太陽の熱さに負けず、太陽に向かう姿勢。太陽に向かって綺麗に笑う姿。太陽に向かって綺麗に伸びる姿勢。
そんな姿になりたい。今のすきな景色を忘れたくない。自分のすきな一つに私もなりたい。

いつもと同じ時間に目が覚めた。夢だった。
でもなんて幸せな気持ちなんだろう。すきな景色が見渡す限り続き、私自身もひまわりのように笑っていたからだろうか。

あぁ、すきだ。今がすきだ。
夢の中にあった理想を噛み締める今が。
幸せで、いつもと違う日常、理想の夢の記憶。





頬に涙が伝う。
目覚めたく無かった。
また同じ1日が始まる。
あぁ、現実なんて嫌いだ。



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