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活動電位を知る Part.1

1. 活動電位とは何か?

ニューロンは電気信号を用いて情報を遠方の細胞に伝えます。この電気信号のことを活動電位 (action potential) と呼びます。

ニューロンは核などが存在する細胞体に加えて、他のニューロンからの活動電位を受け取る樹状突起と、自分が発生させた活動電位を他のニューロンに伝える軸索を有しています。このような構造はニューロンに特異的に見られ、人体の別の細胞には見られない特徴です。

2. イオンの移動を理解する

私たちの思考や運動の根源にあると言っても過言ではない活動電位ですが、どのように発生するのでしょうか?その仕組みを理解するためには細胞内外でのイオンの移動を理解する必要がありニューロンに限らず、一般的に細胞内にはK⁺イオンと負に帯電した有機物イオンが多く存在し、細胞外にはNa⁺イオンとCl⁻イオンが多く存在しています。

細胞は閉じた構造物(袋のようなもの)ですが、厳密には細胞膜に小さい穴のようなものが開いていて、それを通じて細胞内外で物質をやりとりしています。穴にはいくつかの種類がありますが、今回の話で重要になってくるのは「ポンプ」チャネル」という穴です。ポンプとチャネルは、あるイオンを選択的に通過させ、その他のイオンは通過させないという性質を持っています。ではなぜ名前が異なるのかというと、「ポンプ」はイオンの能動輸送に関与し、「チャネル」はイオンの受動輸送に関与するという違いがあるからです。

難しい言葉が出てきたので整理しましょう。その前に電気化学的勾配というものについて触れます。電気的勾配というのは、正の電荷を有するものが負の電荷を有する領域へと流れること、化学的勾配というのは物質が濃度の高いところから低いところへと流れることを指します。電気化学的勾配というのはこの両者を合わせた呼び方になります。話を戻すと、能動輸送というのは電気化学的勾配に逆らった物質の輸送を、受動輸送というのは電気化学的勾配にしたがった物質輸送を表します。能動輸送にはエネルギーが必要になります。たとえば井戸を想像してください。地下深くにたまった水を地上までくみ上げるには人間やポンプの力が必要になります。一方、受動輸送はエネルギーを必要としません。例えばダムの弁を開放すると、ダム湖の水がもつ位置エネルギーによって水が勢いよく放出されます。したがって、細胞膜にある「ポンプ」と「チャネル」は、どちらもイオンを選択的に通すという特徴がある一方で、前者はエネルギー(正確にはATP依存的なエネルギー)を利用してイオンを移動させ、後者はエネルギーを用いずにイオンを移動させます。

細胞膜のNa⁺/K⁺-ATPアーゼというポンプにより、細胞内外のNa⁺・K⁺濃度は一定に保たれています

また細胞膜には、K⁺を通すK⁺漏洩チャネルというものがあります。これは常時開いているチャネルで、K⁺だけを特異的に通過させることができます。K⁺は細胞内に多く細胞外に少ないので、基本的には内から外へと漏洩します(化学的勾配)。ただK⁺イオンの漏洩が延々と続くかというとそんなことはなくて、あるところまで漏洩すると、今度は細胞内部が負に帯電するので電気的勾配により漏出が止まります。

Na⁺やK⁺以外にも様々なイオンの移動が起こっており、それらをここですべて説明することはできません。しかし、膜電位(細胞外と細胞内の電位差)になると、見かけ上イオンの移動が起きなくなります。このときの膜電位を静止膜電位と呼びます。その値はおおよそ-70mVです。つまり、細胞内部は細胞外部に比べて負に帯電していることになります

説明が長くなってしまいましたが、まとめると以下のようになります。

・細胞内外には様々なイオンが存在し、細胞内部にはK⁺や有機陰イオンが、細胞外部にはNa⁺やCl⁻が多く存在している。

・イオンの移動はポンプとチャネルによって厳密に制御されている。

・細胞内外のイオンの移動が見かけ上なくなるときの膜電位を静止膜電位と呼ぶ。

3. 活動電位の発生

2.で説明した静止膜電位のバランスが崩れると活動電位が発生します。細胞膜には電位依存性Na⁺チャネルというものがあり、他のニューロンから活動電位が伝わると、このチャネルが開きます。その結果、Na⁺/K⁺-ATPアーゼというポンプのけなげな努力によって維持されていたイオンのバランスが崩れ、細胞外のNa⁺が化学的勾配によって一気に細胞内に流れ込みます。その結果、負に帯電していた細胞内部は正の方向へと上昇します。この現象を脱分極と呼びます。電位依存性Na⁺チャネルは、脱分極が起こると開くという性質を持つことから、次のサイクルが生じます。

脱分極 → チャネル開口 → 脱分極 → チャネル開口 → 脱分極 → ・・・・

この爆発的な自己増幅により、活動電位が発生するのです。
このサイクルはあるところで停止します。電位依存性Na⁺チャネルは、脱分極がある程度まで達する(およそ+30mV)と不活性化し、閉口します。その結果、Na⁺の流入が止み、遅れて反応した電位依存性K⁺チャネルが開口
して電気化学的勾配によりK⁺が細胞外に流出します。その結果分極が進みます。K⁺の流出が進むと、静止膜電位よりもさらに低い電位になります(過分極)。その状態からNa⁺/K⁺-ATPアーゼやK⁺漏洩チャネルのはたらきにより、最初の状態に戻り、膜電位は静止膜電位へと回帰します。

これで「活動電位を知る Part. 1」は終了です。Part. 2では、活動電位の伝わる機構についてまとめる予定です。





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