『傘差しの少女達<ラガッツァ> 〜人類の天敵と戦うことになったけどとりあえずヌードデッサン描きたい〜』2話脚本
※あらすじや1話脚本はこちらから
#2『嫌悪される世界』
■住宅街
晴れ渡る街並み。
呆れ顔のガット、リサッカを連れて歩いている。
その手には傘。
リサッカはデート気分でウッキウキ。
リサッカ「ねえガット、ジェラート食べてこー? おススメの店あるんだよね」
ガット「遊びに行くんじゃないんだぞ……」
リサッカ「だって何も教えてくれないじゃん」
リサッカM「私は画家見習いのリサッカ、彼女はガット。何やらと戦う『組織』に勧誘されているのだけれど……」
ガット「口が軽そうだから。重要な顔合わせをバラされたら困るんだ」
リサッカ「重要って、こんな街の真ん中で?」
声「葉っぱを隠すなら森の中ってね」
見ると、自転車に乗ったウーバー的な配達員男性、ヴィスキオが「よっ」と手を挙げている。
リサッカ「ガット、何か頼んでたの?」
ガット「ご苦労さま」
ヴィスキオ「こいつが例の新人だな、ガット」
リサッカ「は……? え?」
ヴィスキオ「俺はヴィスキオ・ヴァラキ。『ケントゥリア』の連絡係さ」
リサッカ「いや、てかその格好」
ヴィスキオ「ご時世的に身を隠しやすくてね。どこにいてもおかしくないだろ、この姿は」
リサッカ「せっかくならジェラートも持ってきてほしかったですけど」
呆気に取られるヴィスキオ。
ヴィスキオ「ガット、なかなかのを捕まえたな」
ガット「だろ。早くも手を焼いてる」
じっとヴィスキオを見つめるリサッカ。
リサッカM「イケメンではあるけど……私の夢は究極のヌードモデルだし……」
ヴィスキオ「場所を移そう、新人」
■同・広場(ローマの休日的な)
階段に座り、嬉しそうにジェラートを舐めるリサッカ。
複雑な顔でジェラートを持つガット。
ヴィスキオは、上の段から二人を眺める。
ヴィスキオ「我々が雨と共に現れる『嫌悪』に対処する組織であることは、聞いてるな」
リサッカ「(幸せそう)うっめー」
ヴィスキオ「聞いてるな?」
リサッカ「(舐めながら)あっはい。聞いてまふ」
ヴィスキオ「……『嫌悪』は体を持たない。そのため、自分の器としての人間を探して、その魂と同化する」
リサッカ「それが『配偶者』ってやつ?」
× × ×
前回のイメージ。
太陽恐怖の配偶者の顔。
ヴィスキオ「そうだ。お前も会っているな」
× × ×
ヴィスキオ「通常、配偶者と出会ってしまった人間はその種の『嫌悪』に囚われ、日常生活に支障を来す。しかし稀に、その『嫌悪』を己のものとして克服する者がいる」
リサッカ、何食わぬ顔でガットを見る。
ヴィスキオ「ガットや、お前のように」
リサッカM「可愛い」
ヴィスキオ「『嫌悪』に立ち向かうためには、お前達のような少女が必要不可欠だ」
リサッカ「しつもんです」
ヴィスキオ「なんだ」
リサッカ「ガットは『傘の少女<ラガッツァ・デ・オンブレロ>』って言ってたけど。『嫌悪』を克服できるのって女の子だけ?」
ヴィスキオ「原則的にはな。理由は我々にもわかっていない」
リサッカ「へえ。あ、もひとつしつもん。『嫌悪』って、そんな昔からいるの?」
ヴィスキオ「少なくとも二百年前から記録が残っている」
リサッカ「そんな前から……? でも別に、世界ってそんな変わってないような……」
ヴィスキオ「原因に覚えがなく、何かを嫌いになっていることはないか。食べ物でも、何かの娯楽でもいい」
リサッカ「そりゃまあ、生きてれば嫌いなもののひとつぐらい……」
ヴィスキオ「それはお前の主観ではなく、『嫌悪』の蔓延による『過度な一般化』がもたらした現象である可能性が高い」
× × ×
イメージ。
SNSに「ありえないんだが?」と書き込む女性。
「公共性がない、アップデートしろ」と書き込む男。
× × ×
ヴィスキオ「たとえ間近に見なくとも、配偶者とその被害者は、周囲に影響を及ぼし続ける」
リサッカ「……!」
ガット「世界は少しずつ、世界を嫌悪することを受け入れている。そういうことだよ」
ヴィスキオ「それがイヤなら戦うしかない」
ヴィスキオ、ケースに入れられた傘をリサッカに渡す。
ヴィスキオ「雨に背く、この傘<オンブレロ>を使ってな」
リサッカ「傘! ガットとお揃い!?」
ヴィスキオ「残念ながら違う。『傘』は克服した嫌悪とセットのワンオフだ」
リサッカ「なーんだ。ちょっと残念」
ヴィスキオ「にしても、珍しい『嫌悪』に当たったものだ。『太陽』への嫌悪など前例がない……技師も戸惑って――」
そのとき、ヴィスキオとガットのスマホからアラーム音が。
ヴィスキオ「!」
ガット「!」
リサッカ「ん? なになに?」
ヴィスキオ「……通り雨の予報だ。『嫌悪』が現れる」
リサッカ「えぇ!? い、今ぁ!?」
ヴィスキオ「しかし、最近多いな……前から数日と経っていないのに」
ガット「(笑い)梅雨の時期なんでしょ」
ヴィスキオ「(笑い)日本じゃあるまいしな」
リサッカ、二人の和んだ様子が面白くなさそう。
リサッカ「(小声)なんだ。結構誰にでも笑うんだ」
ヴィスキオ「悪いがさっそく実戦だ。傘の使い方を教えてやれ、ガット」
ガット「了解」
リサッカ「りょ、りょうかいでありますッ!」
■同・裏通り
走るリサッカとガット。
雨が降り始めている。
リサッカ「うわわ……前と同じだ、いきなり降ってきた……」
ガット、傘を差しつつ。
ガット「おい、リサッカ」
リサッカ「ほわ!?」
ガット「な、なんだよ?」
リサッカ「今までずっと『お前』とかだったのに名前で呼んでくれたあ! ちゅきぃ!」
抱きつこうとするリサッカを制して。
ガット「いいから傘を出して、差せ。『嫌悪』の雨は、体力を奪うよ」
リサッカ「あ、そうだった。まだケースから出してもなかった」
いそいそとケースのジッパーを開き、
中から傘を取り出そうとするリサッカ。
リサッカ「…………」
その手が止まる。
ガット「どうしたの?」
横から中を覗き込むガット、愕然。
そこにあったのは、シンプルで質素なビニール傘。
ガット「び……ビニール傘?」
リサッカ「ま、待って。まだ慌てる時間じゃない……差してみればいろいろと……」
ワンタッチで傘を開くリサッカ。
何の変哲もないビニール傘、傘布の向こうが透けてみえる。
ガット「……スケスケだね」
リサッカ「セクハラなんだが!?」
むせび泣くリサッカ。
続く
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