
【創業3年目】気候変動に立ち向かうスタートアップの育て方
熱の脱炭素化に取り組むスタートアップBlossom Energyで代表をしている濱本です。
1本目を書いた後、月1くらいで書こうと思ってたんですが、
2本目のnoteを書き始めるまで1年かかりました。
この1年何をしていたかと言いますと、チームの再構成、資金調達、新しい技術のデモ機の設計製作、オフィス移転、支店設立、複数の開発テーマでの協業体制構築などでしょうか。(こう書くと普通のことのように感じられるので、記事1本書くのに1年かかった理由になってない気がしてきました。)これらの取り組みのなかで、1つポイントを抜き出すとすれば、熱エネルギー貯蔵技術を応用したボイラ(以降は、蓄熱式ボイラと書きます)のコンセプトモデルを完成させたことだと思います。次の記事でしっかり書きたいと思いますが、この技術はエネルギー利用の世界を変えることになると感じています。
で、どういう外観をしているのかと言いますと、こちらです。

本noteは、1年ぶりということもあって、約1年の間に開発していた蓄熱式ボイラに焦点をあてて、「なぜこの技術を開発しているのか」と、「どういうチームで開発しているのか」の2点について記したいと思います。
1.なぜ蓄熱式ボイラを開発しているのか
1.1 何が重要なのか
世界で消費されている化石資源の7割は熱を得るために燃やされています。地球温暖化の原因となる二酸化炭素(CO2)などの温室効果ガスの排出量を減らすために、化石資源に頼らずに熱を得ることはきわめて重要です。
1.2 どのようなチャレンジがなされてきたか
この熱の用途としては、暖房のため(民生用)、車のエンジンを回すため(輸送用)、そして石油を精製したり食品を加工したりなど(産業用)、と様々です。この暖房や移動のための化石燃料の消費は、ヒートポンプやEVの発展により、将来的に化石燃料を消費する必要はなくせると期待できます。
しかし産業においては、温度を上げなければ化学反応が始まらなかったり、物が柔らかくならず輸送や加工ができないという理由があるため、高温に加熱する工程はなくせません。そしてこの工程に用いられる化石燃料の燃焼熱の利便性に匹敵する代替技術は、すぐに現れそうにありません。このため、地球温暖化対策としてCO2の排出低減に世界的にチャレンジされている状況でありながら、産業部門からのCO2排出を低減する道筋が見えない状況です。
1.3 いま焦点をあてるべき課題はなにか
しかし幸いなことに、この課題に挑む多くの企業が存在します。家庭用エアコンの原理で蒸気を生成できる高温用ヒートポンプや、水素やアンモニアを燃料としたボイラは、既存の技術的な蓄積が活用できるため、日本国内でも早くから開発に着手されていました。ただそれも難所があることが分かり、近年はさらに多くの新しい技術の開発が進められています。それが熱エネルギー貯蔵技術です。この技術は、ナトリウムの化合物や、コンクリート、石や砂、そして黒鉛など様々な物質を、再生可能エネルギーを用いて温め貯蔵し、数時間から数日かけて、その熱を利用します。
高温用ヒートポンプよりも高い熱の供給が出来て、再生可能エネルギーの弱点である変動性を解消できるため、安価に成立させることができれば、私たちの産業を支えるエネルギーの構造を大きく変えるポテンシャルを持っています。焦点をあてるべきは、変動性の解消(Dispatchable)と、安価(Cost effective)です。この高温の熱を再生可能エネルギー起源で生成する技術の一つが、熱エネルギー貯蔵技術です。
1.4 Blossom Energyが着目する熱エネルギー貯蔵技術
僕らが開発している熱エネルギー貯蔵技術とは、電気を貯蔵するいわゆる蓄電池と異なり、エネルギーを熱の状態で貯蔵する技術です。熱の起源は、何かしらの排熱を利用するものと想像されることが多いのですが、近年はそうではなく、再生可能エネルギーの電気を利用して熱を作ります。電気で物を加熱して、温めた物を断熱材で包んで冷めにくくして、時間をおいて熱を利用する、という認識が現代の蓄熱です。
そして今、蓄電池とともに、熱エネルギー貯蔵技術の発展が期待されています。期待されている理由は、太陽光などの、いわゆる変動性再生可能エネルギーの難点である、自然の成り行き次第で出力が変わってしまうという特性を解消する手段になるからです。
Blossom Energyは、熱エネルギー貯蔵技術の1つの応用として、産業に不可欠なボイラを作ろうとしているスタートアップです。そして、2024年6月にその実働するコンセプトモデルを完成させ、現在このスケールアップに取り組んでいます。人が地球上で永く存在できるようになるためには、様々な課題に取り組む必要がありますが、この”熱の脱炭素化”に道筋を付けるのは、今取り組むべき重要な課題であることは間違いありません。この挑戦に関心のある方は、ぜひ私たちの仲間になって欲しいです。
2.チームの生まれ変わり

Ref: https://www.jiji.com/jc/d4?p=rwj023&d=d4_rr
この1年、「どのようなチームを作りたくて、どのようなチームが育ちつつあるか」、いち研究者だった私が経営者らしく、考えに考えてみました。
2.1 Blossom Energyのチームメンバーに求める行動指針
約1年前にチームのメンバーに求める行動指針(バリュー)を以下のように定めました。
本質を追求せよ
利他的であれ
執着せよ
発明家たれ
個人的には、このなかで出来る人と出来ない人が分かれる行動指針が1と4だと思っています。
「1. 本質を追求せよ」について説明します。
私の理解では、本質とは物事のなかで最も大事な要素であり、欠けているとロジックが成立しない原理、捉え損ねて放置するとプロジェクトをスタックもしくは瓦解させる課題、などです。
自分の解きたい課題がまだ解けてない時、(それは生きている限りその状態だと言えるかもしれませんが)、自分が物事の本質を捉えきれていないから、解けずにいるのかもしれません。そうであれば、物事の本質を捉えることは非常に難しく、一生できない、もしくは出来ていない可能性があるのでしょうから、自分は本質を捉えられているかという問いを、つねに自分自身に投げかける必要があると考えます。
次に、「4. 発明家たれ」について説明します。
これは言い換えれば、新しく、役に立つものを生み出してください、ということです。これだけだと分かりやすいのですが、分かりにくくなるのがここからです。やってはいけないことがあります。発明おじさんみたいな発明はしてはいけないのです。オリジナリティ(独創性)の度合いが高いことが好ましいですが、新規性と有用性の高さが優先されます。ただ、有用性が明らかになるには時間がかかることもあります。そのため、まずは創造性を発揮してもらう必要があります。この行動指針は、技術開発、事業開発、コーポレート部門すべてに求めます。
なんだか堅苦しいバリューだなと思われる方もいるかもしれませんが、私たちが挑むエネルギー事業の特性を鑑みれば、最低限の要求だと考えています。エネルギー事業は、多くの人の利益に寄与する公益事業であり、既存プレーヤーは社会的な要請とそれに応える自負をもつ、高い倫理観を持った人たちだと認識しています。その中で、変革を願う私たちは、すでに十分厚かましい存在ですので、その点を重々踏まえた態度で挑まないといけないと考えます。
2.2 いまどんなチームが育ちつつあるか
「熱の脱炭素化」というミッションと、本質・利他・執着・発明を行動指針とするチームの現状をご説明します。
弊社が初期段階で社内において重点を置いている機能は、技術革新、組織運営、そして連携です。
中心を担うメンバーは私を含め5名。
技術革新を推進するエンジニア3名(私を含む)、
パートナーや顧客との「連携」を担うビジネス部門が1名
組織を円滑に運営するコーポレート部門に1名
となっています。
「ビジネス部門」の役割は広く言えば事業開発ですが、その役割を「事業連携」と限定しています。この理由は、現状僕らBlossom Energyは製品の開発に注力する段階であり、売る役割に力をかけていないことと、かつ製品開発にあたっても弊社単独ではなく、多くの会社様と協力させていただきたいため、事業連携という機能を抜き出して明確化しています。
この5名を中心として邁進するBlossom Energyですが、事業を推進するにあたりさまざまな役職、ポジションのメンバーが参加してくれるようになりました。
大手企業で中枢を担っているエンジニアやマーケター、大企業の待遇とミッションの大きさに満足せず野心を持って参画してくれる若手のホープなど。
雇用形態問わず合計15名が事業にコミットしてくれています。
多様な人材が集まると、やっぱり私たちが解決したい課題がどれだけ価値があるのかを思い知らされます。
だからこそチームが一丸となって突破力を高められるようにしなければならないと、そんなことを思う毎日です。
このチームの活躍もあり、蓄熱式ボイラのデモ機の完成、そして商用の蓄熱式ボイラ開発に関する複数企業との連携や複数の実証試験先の獲得、さらに原子力事業でのリード獲得と、この1年間で多くの挑戦と成果を産むことができたと思います。
特に蓄熱式ボイラのデモ機では、ディープテックではあまりみられないデザイナーとの協業をいち早く進め、商品を扱うクライアント様の視点からプロダクトデザインを行いました。
結果、多くの報道関係者の方やパートナー企業様からお問い合わせをいただき、技術のみならずBlossom Energyとして大事にしている価値観も含め、発信をすることができたのではないかと思います。
3. 次回予告
このように一丸となれるチームを作ることも大事ですが、僕らと製品開発、事業開発を一緒にやっていただける方々も、等しく重要です。これらコミュニティがどのようになっているか、また僕らと同じような製品を開発しようとしている人たちには、どのような例があるか等について、次回は書いてみたいと思います。