#ミステリー小説部門
喫茶ライスシャワーの懺悔室~米田雫の福音書~17話
「どうやらゆいかちゃん達、やり直すみたいです」
僕はライスシャワーでカウンター越しにお皿を拭く雫さんにそう報告した。
後日、僕の携帯にゆいかちゃんからの連絡が来た。あの後家族で真剣に話し合い、一先ず離婚はせず続けることになったらしい。
アブラハムの寓話の様に治郎は金を奪いに行った。僕から、そして親と言うファラオから。結局は奪えるものなど何もなく、彼はアブラハムにはなれなかった。それはきっとゆ
喫茶ライスシャワーの懺悔室~米田雫の福音書~16話
「つまり、本当の父親じゃないってことですか?」
僕らは再び四人掛けの席に座りなおしている。但し、面子は先程とは若干異なりパンチの席には彼女の母親が座っていた。
「はい。彼は東雲治郎。先ほどそれを連れて行ったのが夫の一郎で……その死別した最初の妻との間の子、といいますか」
「えーとそれは要するに、え、ああ本当に『妹』だったんですか?」
頭の中で暫く考えて漸く理解する。
先ほどのスーツの男
喫茶ライスシャワーの懺悔室~米田雫の福音書~ 15話
「ふざけとんのか!」
パンチが拳を叩き、勢いあまり、卓の上のカップが揺れる。パンチが激高するのは立場が違えど分かる。馬鹿にされていると思ったのだろう。僕を美人局に引っかけた張本人に対してなんと挑発的な、と取られても仕方ない。
「お聴きになる、約束です」
睨み返されても彼女は意志を曲げない。じっと、彼の目を見つめている。
「……どうなるか覚えとけや」
恨みがましくそう呟くとパンチは腕を
喫茶ライスシャワーの懺悔室~米田雫の福音書~ 14話
「だからまあ、怒る気にはなれない。でも――」
出来るなら、彼女も――。
「少しでいいから、助けてくれないか? 警察でも、どこでもいいから電話を……」
返事はしかし、別の声で遮られた。
「ほんま、女ったらしやのう」
パンチだ。もう、帰ってきたのか? いや、それ以前にもしかして盗聴でもされていたのかもしれない。タイミングが良すぎる。
「仏心なんて出すんやないぞ。お前の携帯も没収や、財
喫茶ライスシャワーの懺悔室~米田雫の福音書~13話
僕が連れてこられた先は雑居ビルの一室だった。場所は分からない。ワゴンには目隠しなのか黒いシートが窓に貼られていたからだ。
僕はパイプ椅子に座らされ、さっき僕を連れてきたパンチパーマに縞のスーツに身を包んだ、全身に金色の装飾品を身に付けた人物と向かい合っている。
「まずお前が未成年のゆいかをホテルに連れ込もうとしていた証拠写真や」
そう言われ僕は彼にプリントされた一枚の写真を見せられる。あの時
喫茶ライスシャワーの懺悔室~米田雫の福音書~ 11話
第三章 東雲ゆいかの監禁
喫茶ライスシャワー内。今日何度目か、数えるのも面倒になっていた電話に僕は出ていた。
「はい、ありがとうございます! 失礼します」
ハキハキと返事をした後に、僕は身体の力が抜け、スマホをカウンターに置き、うなだれる。
「あ!」
その時僕は右手側に置いておいた名刺ケースとスマートフォンを取り落としてしまった。
「拾います」
珈琲カップを持ち傍に控えていた雫さんが
喫茶ライスシャワーの懺悔室~米田雫の福音書~ 12話
そろそろ陽も落ちかけた曇天の午後。。気だるげな空気が街に漂い、雨が降りそうな予感がしていた。
待ち合わせの西武新宿線横のレンガ塀に寄りかかる、恐らく東雲ゆいかと思われる女性に僕は声を掛けた。
「こんにちは! デイライトから来ました、REITOです。東雲ゆいかさんでしょうか?」
「……」
返事は無い。間違いだろうか? しかし、指定された特徴とは合致している。
その女性は艶のある黒い髪を肩まで下げ
喫茶ライスシャワーの懺悔室~米田雫の福音書~ 10話
「は?」
そう言ったまま二階堂真琴は口を暫く開けたまま動かなくなった。
数分して、ようやく妹の方へ向き直り、マジマジと眺めたあと「本当に?」と確認するように呟いた。
それに呼応するように、彼女は小さく頷く。
「え……っと、ちょっと待って、どういう……こと?」
戸惑い、混乱、そしてわずかに感じ取れる、真相に対する恐怖。彼女の指先は微妙に震えている。
「言葉通りです。犯人は貴方のお母様でしょう
喫茶ライスシャワーの懺悔室~米田雫の福音書~ 9話
「犯人分かったって!?」
僕の電話に出た二階堂真琴は声を弾ませそう言った。
「うん、詳しくは後で」
僕は彼女にこのライスシャワーの場所を伝える。
店の中なら彼女の警戒心も薄れるだろう、という判断からだ。それに――。
「あの――出来れば同席して頂けませんか?」
僕の方から雫さんに同席を頼んだ。
「宜しいのですか? 懺悔室でのお話は私たちだけのことで――」
「はい、でもそのほうが良
喫茶ライスシャワーの懺悔室~米田雫の福音書~ 8話
「父と母と聖霊の聖名において」
恭しく行われる儀式。肉体的なそれよりも、遥かに緊張するそれを僕は再び行う。
「では、どうぞ」
彼女はそう言うと前と同じように僕の言葉を待った。
僕は矢も楯もたまらず、今日会ったことを全て告白した。
一通り僕の話を聞いた彼女は暫く黙ったままだったが、不意に一つの名前を出した。
「ユダ、という名をご存知でしょうか?」
「ユダ、ですか? あの、キリストを裏
喫茶ライスシャワーの懺悔室~米田雫の福音書~ 7話
意味が分からない。
彼女と別れた後その言葉の意味を反芻しても全く自分の中に入ってこない。
一応僕はその言葉の意味を訊ねた。
「ですから、その華屋兄弟と私が売春したっていう証拠を見つけて下さい。お願いします!」
そう言って彼女は僕に頭を下げる。
「いや、そういうのは自分でやっているかどうか、わかるでしょう?」
自分でやっていることが分からないなんて変だ。
「ううん、詳しくは言えないけど
喫茶ライスシャワーの懺悔室~米田雫の福音書~ 6話
第二章 二階堂真琴の売春
彼女に対する最初の印象はそれほど悪くは無かった。
今回のお客様は実は事前に店から注意を受けていた。もしかしたら、出禁にするかもしれないから、と。しかし、目の前のベンチに座る彼女からは、まだその片鱗など見て取れなかった。
レンタル彼氏(この仕事)をする以上あまり先入観は持たないようにしようと努めている。誰がどんな事情で僕を呼び出すのか、そういうことは向こうから言わない
喫茶ライスシャワーの懺悔室~米田雫の福音書~ 5話
種を明かせば簡単なことだった。
僕はずっと、彼女が僕と知り合ったのは僕の登録されているレンタル彼氏のサイトを通じて、だと思っていた。でも、それは違っていたのだ。先ほどの彼女と雫さんのやり取りの中で、唯一僕の中で引っかかった言葉、『後をつけてみれば』だ。
僕は後をつけられた覚えはない。というかかなり細心の注意を払っていたと言ってもいい。自慢ではないが、他人の行動の機微には人一倍敏感なつもりだった。後
喫茶ライスシャワーの懺悔室~米田雫の福音書~ 4話
僕らが急いで部屋を出ると、店内に大きな石が投げ込まれて、窓ガラスが割られていた。僕はその割れた窓ガラスの外に立つ人影に気付いた。
「嘘つき」
『彼女』は、僕の姿を認めると大きな声でそう言った。
「嘘なんて……」
「嘘つき!」
先ほどよりも大きく、彼女は叫んだ。
「お店はもう閉まってるのに、なんで他の女と一緒にいるの!? 礼人は私の『彼氏』でしょ!」
「違う、この人は……」
「うるさいうる