甘夏の肉離れ #毎週ショートショート
甘夏が肉離れしたのは5限目の体育だった。特にふくらはぎの果肉と薄皮に損傷があり、医師からは「次一投でも変化球を投げれば頭の〝へた〟が爆散する」と言われる程の怪我だった。
受傷の原因はバスケのレイアップのときにスダチと空中交錯し着地に失敗したからなのだが、それがデコポンの策略だったのは火を見るより明らかだった。それほど愛媛は選手層が厚いのだ。
甘夏は所謂エースであった。甘み酸味香りの三位一体は同じく柑橘の国和歌山の高校からオファーが来るほどであった。だが彼女は愛媛を選んだ。愛媛の温暖で伸びやかな気候が彼女の果肉に合っていたからだ。
甘夏はもう一度医師のもとに通った。肉離れと競技の影響を聞きたかったのだが、医師の判断は「次にボールを持てば膝の果皮と薄皮が全てめくれて裏返しになる」という冷酷なものだった。さらに「もしマウンドに立てば目玉から果汁が吹き出し干からびて死ぬ」とまで言われた。茶道部のエースである甘夏は、では膝を畳につくことの影響を聞いてみた。医師の意見としては「全く問題なし」とのことだった。
甘夏は茶道部なのだ。
肉離れとは関係なかった。
[終わり]
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