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医療費削減についての町医者的私的提言(あるいは消極的老人集団切腹論)

 医療費が上がっている。
 それに伴って当然のことながら社会保険料が上がっている。社会保険料は税金じゃないと政府は言ってるけど、まあ普通に考えれば税金だよね。支払い拒否できないしね。
 マスコミによると原因は日本の高齢化であるという。まあ、老人に限らずすべての診療科で最先端医療費は年々上がり続けているから、高齢化だけが原因とはいいがたい部分もあるのだけど、とにかく人口における老人比率が増えて、若者、子供が減っている。
 これは明らか。
 老人は税金、社会保険料を払わない。でも、病気がちにはなるし病院にはよくかかる。このお金は現役世代。すなわち働いてる世代がまるっと負担するわけだ。これが問題だという論調が多い。
 昔は現役世代に対して老人世代の割合は少なくって、加えて景気も良かっもんだから、まあ、みんなでお年寄りを支えましょうといった感じで、うまくいっていたみたい。最近は老人が増えったってので3人で1人の老人をさせえていたのが、二人で一人、一人で一人、いまは一人で何人もの老人の医療費を払ってくださいという感じになってるもんだから、まあ、きつい。景気も後退してるので金がない。
 現役世代は老人世代の医療費を払うので結婚もできない、子供もつくれない。日本は滅びる。現役世代は老人たちに殺されるなんて、マスコミは世代間の対立をあおって視聴率を稼いでるみたいだ。
 これにのっかって日本維新の会の某議員さんは「老人の医療費負担を3割にしないと日本は滅びますよ!」なんて言ってるみたい。実際は3割負担にしても、きつくなっていくことは変わんない。それに高齢者の負担金を上げるって話は、老人世代の反感を買いまくって、まあ、導入はどう考えても難しいでしょう。だって、老人の方が選挙権持ってる人数多いんですものね。奇跡的に導入できたとしても、そんな、世代間対立煽りまくって効果は限定的で年金問題、高齢で引退した人が安価で働いて若者の仕事を奪ってしまう問題などがさらに悪化すると思う。まあ、老人を怒らせると怖いよってことだ。
 じゃあどうするのか?僕はもうしばらくしたら高齢者に入りそうな一応現役世代のおっさんなんだけど、子供のこと、まだ生まれてないけど孫のことを考えると、このままでいいとは思えない。かといって老人と若者がお互いの権利を主張して争うなんて、もちろんかんべんだ。マスコミや政治家の先生には飯のタネかもしれないけどね。どうしたらいいんだろうと考えていたんだけど、ちょと前にエール大学の先生が「解決するには老人が集団切腹するしかない」と言ってるのを聞いてちょっと思いついたことがあったので書き残すことにした。もちろん僕も切腹はごめんだけど、別の方法で老人の満足度を上げつつ、医療費を下げる方法があるんじゃないか?
 ここで、少し話はとぶのだけど、ちょっと前に明石市という小さな市で泉市長という人が「おむつ宅配便」という制度を始めたことがあった。僕ははじめその話を読んで、バカじゃないの?と思ったものだ。わざわざコストをかけて市の雇った職員におむつを運ばせるなんてナンセンス。おむつを配給するなら、おむつクーポンでも配るか、お金の給付、あるいは単純におむつ代を税金控除してあげればコストかけずに同じことができるのに。と思っていた。でも、話を聞くと違った。おむつを運ぶのは子育て経験のあるベテランお母さんで、おむつを宅配するというのを口実に家に上がり込んで赤ちゃんの様子を確認する。お母さんが困っていることがあれば、公的助成制度から互助会、赤ちゃんグッズの安い店まで、なんだかんだ相談できる。そうやって子育てを支援しているってことだった。これはすごい!使える!と思った。
 つまり、老人版のおむつ宅配便をすればいいんじゃないか?
 この話の根拠としては、自分が患者になったときに医療従事者とそれ以外の人でどこまで治療を希望するか?に違いはあるのか?という研究は時々あるのだけれど、医療従事者でない人が「できることは何でもやってほしい」と希望することが多いのに対し、医療従事者の方はやや消極的。という結果になることがほとんどだ。
 これは日々医療の現場を経験している人からすると「できることは何でも!」で治療してしまうと、あまり喜ばしくない結果になることが多いことを知っている。ということだと思う。だから、目の前の患者さんには、とにかく手を尽くして助けよう!とするのに迷いはないんだけど、自分が患者になってしまった場合には「いやいや、そこまで頑張ってもらわなくていいですよー」という感じになってしまうということだろう。よく考えると、医学知識があると、治療をやってほしくなくなるというのは、これはおかしなことだ。でも、データ的には事実なのだ。つまり、知識を持った患者さん自身のホンネの希望に従うことで医療費が下がるということだ。
 よくわからないだろうから具体的に見てゆこう、まずはよくマスコミに取り上げられてることも多い「胃ろう」だ。口からご飯を食べれなくなった人におへその上くらいからチューブを直接胃に突き刺して栄養ジュースを流し込むという治療で、日本では高齢で力がなくなって食事が呑み込めなくなった人たち、呑み込みがうまくいかず肺に入り肺炎を繰り返してしまう人、ご飯を食べる気力がなくなってしまった人たちなどにおこなわれる。ちなみに海外ではほとんどの国で老人虐待に当たるといわれやって国は少ない。これなんかは医療従事者であれば「やられたくない治療」の筆頭だと思う。僕も年を取って食べれなくなったら、胃ろうはごめんである。少しの水で口を湿らせるだけで十分で、あとは枯れるように朽ち果てていきたい。いちおう補足しておくと交通事故で一時的にあごを怪我したり、食道がんの手術まえにやることもあるけど、これは必要な処置だ。
 次に「がん」だ今や一生のうちで日本人の二人に一人はがんになるといわれる時代だから、自分にも結構、可能性あるねと思っておいていいと思う。もちろん、治療すれば治るがんも多いしその場合は自分もやってほしいと思うよ。だけど、80歳になってがんの転移で治る可能性のほとんどない状態で抗がん剤の治療を受けるなんてのはごめんだ。抗がん剤をやれば食欲はどうしたって落ちるし、なんだか体はだるくなる。何となく気持ち悪いって状態が続くことも多い。定期的に病院に通わなくっちゃならない、ってのもメンドクサイ。副作用で死んじゃう目にあうこともあるしね。それで効果は寿命が数か月伸びるかも?ってのは自分であればお断りしたい。医療用のモルヒネでももらって家でのんびりしておきたいね。
 まだまだ、いくらでもあるけど、とにかく言いたいのは、知識があれば「その治療はお断りします」ということが意外と多いってことだ。知らないと勧められるままに「ではお願いします」と言っちゃうし、医者の方でも自分の親だったらやらないな。って治療を「お勧めしなかったら、治療の選択肢を教えてくれなかった!と言ってあとで文句言われるかも?」と思うと一応は形式的にでもお勧めしちゃう。おススメしておけば文句言われることはないからね。
 要するにこれらの知識を持っている人に、おむつ宅配便として老人宅を訪問しお話をしてもらえばいいわけだ。実はこれと似たシステムは海外にもあってアドバンスト・ケア・プランニングと呼ばれている。海外ではおむつを運んだりはしないのだけど、お年寄りがまだ頭がはっきりしている時期に家族を交えて、病気になったらどこまで治療するのか?あなたはどう死にたいのか?なんて結構突っ込んだ話をして、あらかじめ医学知識のある人を交えて、こういう場合は選択肢がこれで、確率的にはこうなる可能性が高いですよ。という知識を伝えて、対応を決めておくということをやる。もちろん一度決めたことでも後から気が変われば自由に取り消すことはできる。こうすることで、いざ病気になってしまったときに、あわてはするけどあわてすぎて自分の希望をうまく伝えられないということのないようにできる。というわけだ。
 ただ、このアドバンスト・ケア・プランニングは残念ながら海外で実地されたものの、患者死亡後の家族の方の評判の方はあんまりよくなかったみたい。なので課題はあるともうけど、日本で年寄りのいる家庭を(一人暮らしでもそうでなくても)おむつ宅配便(というかおむつでなくてもいいんだけど)という形で訪問して自分の死に方についての話をするというサービスが始まれば、「無理目できつい延命」より「楽な緩和」を選ぶ人は多いと思う。そうすれば、確実に医療費は少なくなる。
 僕は今のところ切腹をするつもりはないけれど、消極的に切腹を勧めるようなシステムといえるかもしれない。でも、このシステムなら少なくとも、世代間闘争を起こすことはないだろうし、かかったコスト以上に成果はあると思う。なにより当事者である高齢者の尊厳と希望をそこなうことがない。
 アイデアは著作権フリーで使用していただいていいのだが、政治家の方々いかがだろうか?

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