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2024年日本一時帰国、機内で見た映画。


往路1.『バービー』

R.シュトラウスの『ツァラサストラはこう語った』という名曲を、映画の冒頭にガツンと使った演出は、隣で私の画面を盗み見していた夫も引き込んだ。夫はこの映画公開当初から、「こんな映画を見るなんて時間の無駄」と決めつけていたが、そんな人さえ惹きつけてしまうこの映画の破壊力よ。あの原爆を取り扱った『オッペンハイマー』の世界とは対局にありながらも、双建に称するこの映画の凄さが分かった。バービーがこの世に登場してから、女性が母親以外の職業に就くのは当たり前になり、医師バービー、宇宙飛行士バービー、サッカー選手バービーなど、社会の変化を反映するバービーが次々と発売されても、バービーが八頭身美女である限り、「女性は女性らしく」という価値観が未だに拭いきれないシミのように私達の心の中に存在する。でも、生まれ持った性別が何であれ、もっと自分の意思のまま自由に生きていいんだというメッセージに、つい目が潤んだ。

往路2.『Ministry of Ungentelmanly Affairs』

イアン・フレミングがその後ジェームズ・ボンドシリーズを書くきっかけとなったという史実元にした作品。第二次世界大戦では日本が惨めにボロ負けだったのに比べると、同じ時期に一世一代の一か八かの大博打にかっこよく勝利してしまうイギリスという国が単純にうらやましい。ガイ・リッチー監督作品としては、他の作品ほど奇を衒う感じがなくて、すっきりしている。それでも「イギリスの史実」というテーマにアメリカの西部劇風の演出を盛り込んでいるところが、彼のセンスの良さが光る。飛行機はドイツのルフトハンザだったため、英語字幕はあったものの、ドイツ語のセリフのところに英語字幕がついていなかったのが残念。映画のような大きい画面でももう一回見てみたい作品。

復路1.『変な家』

せっかくANAのロンドン直行便に乗ったのだからと、邦画もチョイス。通常不動産屋で物件の見取り図を見ると、キッチン、トイレ、風呂以外の部屋については、「洋間8帖」とかの大きさを示していることが普通で、最初から「子供部屋」と書いてあることのほうが珍しいのになぁと不思議に思っていたが、その点には全く触れずにストーリーが展開していった。「子供部屋」と書いてなければ、1日中太陽光が入らない環境で、太陽から遠く離れた惑星と同じ環境を再現して、そこで植物を育てたいと考えている宇宙生物学者が研究のためにこの家を借りたいと思うかもしれないのに。Youtuberの人も、わざわざ暗くなった時間帯に不法侵入みたいなことせず、不動産屋に「物件みせてください」って普通に問い合わせたほうが、きちんと細部まで撮影できていろんな情報もすぐ手に入っただろうに、とにかく映画を通してプロットのための奇行が多い。倍速でみたいと思いながらも、機内サービスのプレーヤーではそれができない。日本のホラーで、やっぱり横溝正史を超える人はまだ出ていないんだなぁと思った作品。

復路2.『House of Gucci』

レディー・ガガを奇抜なファッションが売りのアメリカ人歌手だとしか認識していなかったことを、とにかく恥じた。往年のエリザベス・テイラーや、ソフィア・ローレンにも劣らない銀幕での存在感に圧倒された。それと、殺人犯グッチ夫人の義理の従兄弟パオロ・グッチを演じたジャレッド・レトの演技力にも目を見張った。レト自身は、元々イケメンのロックスターという肩書があるのにも関わらず、ダメ男代表のようなパウロ・グッチを水を得た魚のように生き生きと演じていたのには、脱帽した。見終わった後にグッチ家殺人事件関連のことをネット上で読んでみると、映画はグッチ夫人に寄り添った好意的な解釈をしていることがわかる。男系家族の中で女性一人、家業と家庭を続かせようと自分なりに孤軍奮闘したが叶わなかったというパトリツィア・グッチという女性の描き方に、フェミニスト映画として一時一斉を風靡した『テルマ・アンド・ルイーズ』を監督したリドリー・スコットらしさが出ている。

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