スター誕生。谷桃子バレエ団物語
星のようにきらめく瞳で、『白鳥の湖』の主役に選ばれた22歳の新人ダンサー森岡恋が、稽古場の一点を見つめている。視線の先には、英国バーミンガム・ロイヤル・バレエのプリマバレリーナ平田桃子の白鳥オデット。彼女のアラベスクは、足元から白い百合の花が大輪を咲かせているように艶やかだ。「次元が違う…」とつぶやく恋の背景には、バレエへの純真さを象徴するたくさんの小さな白いかすみ草が描かれている…。
谷桃子バレエ団が配信するYoutubeの動画を見ていて、こんな少女漫画にあるような一場面を思い浮かべてしまった。
野球やサッカーといった習い事に比べると、バレエの場合子供の頃から稽古に励んで世界トップレベルの技術を身につけたとしても、日本ではプロになってもきちんと食べていける保証はない。その厳しい現状に立ち向かおうと創立75年の歴史を持つ谷桃子バレエ団が、動画配信でバレエファンを開拓しようと行動を起こしてから約半年。やっとその成果が花を開いたようで、バレエファンの私としてもとても胸が熱くなってきた。
配信動画はどれも15分程度で、芸術監督を始め、男女共々様々な新人とベテランダンサーの日常を見せてくれる。民放テレビでも流行ったリアリティー番組のように、動画を見ている人それぞれの心の中に、「私はこのダンサー推し」という物語が芽生えてくるように構成されていて、谷桃子バレエ団にもそのビジネスモデルがうまくはまった。こうした戦略を取り入れることができたのも、高部尚子芸術監督の「批判もきちんと受け止めます」という冷静でそれでいて芯の強い存在によるもので、きっとその柔軟な姿勢は幼少期からバレエという土壌で培ってきた彼女の才能でもあるように思う。
ちなみに私の「推し」は、新人ダンサーの森岡恋さんと同期にバレエ団に採用されたロシアワガノワバレエ学校出身の大塚アリスさん。私が漫画家だったら、彼女を主役にしてストーリーを作る。彼女の背景に花を描くとしたら、椿。本当の自分の居場所はどこなのだろうと視線を落とす彼女の姿が、どこかヴェルディのオペラ『椿姫』のヴィオレッタに重なるから。
森岡恋、平田桃子、大塚アリス。「名は体を現す」と言うけれど、どれもこのまま少女漫画に出てきてもおかしくない華やかな名前で、彼女たちはきっとバレエの神様に愛されて生まれてきたようにも思える。谷桃子バレエ団物語の第一章は、『スター誕生』で幕引き。第二章にも期待している。